駒木根葵汰
Photo: Keisuke Tanigawa
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インタビュー:駒木根葵汰 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

“世界の終り”の僕役で初舞台、自身の中でぶつかる2つの世界

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タイムアウト東京 > カルチャー > 駒木根葵汰 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

テキスト:高橋彩子(舞台芸術ライター)

“世界の終り”と“ハードボイルド・ワンダーランド”の2つの世界が交互に展開していく、村上春樹の長編小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が舞台化される。演出・振付は、身体と映像を駆使して現出させるマジカルな世界に定評あるフランスの振付家フィリップ・ドゥクフレだ。日本公演後にはシンガポール、中国、イギリス、フランスの4カ国を巡るワールドツアーも予定。

“世界の終り”の主人公である“僕”を演じる駒木根葵汰(こまぎね・きいた、島村龍乃介とのWキャスト)に、稽古の様子や舞台への意気込みを聞いた。

初めての舞台に挑戦

―11月半ばから稽古が始まって、5週間ほど経ちました。原作は上下巻からなる長編小説ですが、どのように舞台を立ち上げているのでしょうか?

駒木根葵汰(以下同):最初に本読みなどで全体の流れを見たあと、俳優の芝居とダンサーの動きをそれぞれ作り、そこから道具や照明、音楽などを入れて、今ようやく全体を深めていくフェーズに入ってきたところです。

演出のフィリップ(・ドゥクフレ)がダンサーの方たちの稽古をしている間、僕ら役者は別の稽古場で芝居稽古をしていたんです。表現のし方やエネルギーの出し方などのパターンを幾つも用意して、「もっとこうしてほしい」と言われた時に柔軟に対応できるようにしよう、と。

僕は本格的な舞台が初めてなのでよく分からないのですが、(藤原)竜也さんをはじめとする俳優たちで芝居を作っていくというのは、皆さんも初めての経験だったみたいです。そこで役者チームの絆は割と固くなったかもしれません。

―“僕”というキャラクターについて、ドゥクフレさんから言われたことを教えてください。

“僕”を演じるにあたって何を一番大事にすればいいかと聞いたら、“僕”が出会う“彼女”に対する愛、心がザワザワして惹かれていく気持ちを大事にしてほしいということと、舞台だからといって大きな演技、過剰な表現はせず、繊細に内面的な表現をしてほしいということを言われました。

―その“彼女”に出会ってすぐ、“僕”は以前に会ったことがあるように感じます。“世界の終り”の“僕”と“彼女”についてどんな印象を抱いていますか?

“僕”がいる“世界の終り”と竜也さん演じる“私”がいる“ハードボイルド・ワンダーランド”の二軸で物語は進みますが、 “世界の終り”の“彼女”は、“ハードボイルド・ワンダーランド”で“私”が出会っている女性なんですよね。

“世界の終り”の人々には影と心がなく、全てが穏やかに進んでいるけれど、 “僕”は“世界の終り”の街に入る時に影と引き離されても、まだ心がある。そういう異物が街に入ることで、“彼女”も心を見つけたいと思い始めます。

心があるほうがいいのか、ないほうがいいのか、何が幸せで何が不幸かは、人それぞれの感覚の違いがあるでしょうし、まだまだスタッフや共演者の皆さんと話し合って考えていきたいところですが、愛のお話なのは確かだと思います。

駒木根葵汰
Photo: Keisuke Tanigawa

ダンスシーンに自ら志願

―昨日までの稽古で、特に印象深かったことは何でしょう?

実は、“彼女”とのダンスシーンをやることになったんです。森にいる時にふと家のセットなどが現れ、記憶が戻っていって、その記憶の中で“彼女”と踊る。心を持つことはこの世界では許されないから、門番にすぐ断ち切られてしまうのですが、束の間の幸せな表現をダンスで表現します。

この場面はもともとダンサーさんがなさるという話だったのですが、「やりたいです」と志願してダンサーさんに練習に付き合ってもらい、この間、オーディションではないですがどれだけできるのかを見てもらいました。もう一人の“僕”の(島村)龍乃介くんも巻き込むことになってしまったんですが、常に新しい挑戦をしている感覚です。

―それはつまり、“ハードボイルド・ワンダーランド”の“司書”役で“世界の終り”の“彼女”役である森田望智さんとのデュエットということですね?

はい。ちょっとバレエ要素がある踊りで。楽しいですよ。阿部海太郎さんの素敵な音楽が鳴っている中、相手のことを感じながら踊って、呼吸が合った瞬間、「いいな!」って。やみつきになりそうです。

―以前からダンスの練習はしていたのですか?

ボイストレーニングには通っていましたが、ダンスには全く通えませんでした。一度、ダンススクールを予約したものの、間違えて初心者は参加できない上級者コースに申し込んでしまって断念したんです。

でも今、振付助手の(鈴木)竜さんに踊りをみてもらったり、周囲にいるダンサーの方たちからたくさんのものを吸収したりと、すごく助けられています。本当に頑張らないといけない部分がたくさんあるので。

―自ら増やしてしまいましたね。

稽古に入る前、フィリップから「自分から行動しないといけないよ」「チャンスをつかみ取るのは自分自身だからね」と言われていたんです。それは今までも分かっていたけれど、改めて言われたことで、自分から何かをしたいという思いが湧いてきて。言葉や行動で示すことの大事さを再確認できました。

僕だけでなく、色々な人が新たな挑戦をする舞台になります。(藤原)竜也さんには歌う場面もあるんですよ。

―“僕”の心を象徴する存在である“影”との別れの場面にも、ダンスがあるのではないですか?

そこは基本的に“影”の(宮尾)俊太郎さんだけが踊って、いびつな感じや離れていくさまを表現することになりそうです。

まだ創っている最中ではありますが、あの場面では床の半分くらいに傾斜があるんです。俊太郎さんは大変だと思いますね。

―ドゥクフレさんといえば、映像を駆使する作風で知られています。

僕らはまだ映像を見ていないですが、雪が降っているという想定で歩くとか、スローモーションで進むとか、そういうマイムっぽい動きも多くて、どういう映像や照明と組み合わさるのか楽しみです。

ダンサーの方々と合流し、初めてプロローグを観た時、一角獣を踊るダンサーの皆さんの表現といい、海太郎さんの音楽といい、「すごい!」と感動しました。さまざまなジャンルが組み合わさった新しい形の舞台として、楽しんでいただけると思います。

駒木根葵汰
Photo: Keisuke Tanigawa

2つの世界に思いを馳せて

―村上春樹は、今も人気ですが、1980〜90年代には若者はみんな読んでいたほどのブームでした。今、20代の駒木根さんからしても、面白さは感じますか?

感じますね。小説を読んでも一切の無駄がなく、細かいところまで書いている。それも「髪の毛がなびいたような気がした」といった具合に、言い切らないのもいいですよね。人間の弱さみたいなものを感じることができる一方で、ズバッと言い切るところもあって。

40年前の小説だけれども、テクノロジーに侵食されて音が消えるみたいな発想からしてもなんて感度が高い人だろうと感じますし、女性のことを「太った女」と表したりするのは今の時代にはなかなかないので新鮮です。

―今、「弱さ」という言葉がありましたが、この物語の2つの世界自体、繊細さというか、心の傷を感じさせる世界観ですよね。自分の中に空想の世界を見つけてそこに逃げ込むというようなことは、程度の差はあれ、誰にでも覚えがあるのではないでしょうか。

この話で言うと、苦しさなどを取り払った心のない世界が理想郷だと思いきや、その世界の辻褄を合わせるために影や一角獣が犠牲になっているわけですよね。この弱肉強食みたいな現代社会で、こういうものがどう伝わっていくんだろうというのは、今も色々と考えています。

僕自身は、できれば穏やかに生きていきたいタイプで、派手な感情の波があるよりも、些細な幸せ、些細な苦しみで十分だと思ってしまうんです。でもこういう世界に身を置いて、舞台で拍手をいただくようなことって、派手な感情になるじゃないですか。多分その虜になると、やめられないんでしょうけど……。

―実際、ドゥクフレさんに自分から踊りたいと申し出るようなことには勇気が要るし、その分、苦労が増えますが、それによって引き出しが増えたり新たな道が開けていったりするわけですし。

そうなんですけど、まだあまり余裕がないので、選択肢が多過ぎる社会って、僕には適してないかもしれないと思っちゃう時もあって(苦笑)。自分の中でも2つの世界、2つの意見がぶつかり合っているのかもしれません。この舞台が終わった後に自分が何を感じてどうしたいのか、現時点ではすごく興味があります。

―変化のない暮らしに憧れつつ、今は怒涛の日々を過ごしているというわけですね。

そうですね。初めての環境というか、新しい挑戦をしたいと思ってこの舞台に出演することを決めたので、この1年くらいはある意味、居心地が良いことよりも居心地の悪い環境を楽しめたら、と。25歳というタイミングでこのような舞台に出会うことができて有り難いですし、一生懸命に向き合って、みんなで質の高い舞台を作り上げたいです。

駒木根葵汰
Photo: Keisuke Tanigawa

Stylist: Ryo Chiba(AVGVST) 衣装:シャツ35,200円(meagratia)ピアス24,200円イヤーカフ 19,800円(ともにScat/全てTEENY RANCH)、その他スタイリスト私物

Contributor

舞台芸術ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材し、「SPICE」「AERA」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆。第10回日本ダンス評論賞第一席。年間観劇数は250本以上。

現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜」を連載中。

作家・村上春樹が1989年に発表し、国際的な評価も高い長編小説「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」が、初めて舞台化される。

“ハードボイルド・ワンダーランド”の計算士である“私”はある日、博士の孫であるピンクの女の案内で博士に会い、機密情報保護のため自分の脳を使って情報を暗号化する「シャフリング」を依頼されるが、実はシャフリングの開発者である博士は"私"にある思考回路を埋め込んでおり、このために世界の終りが迫り来る。一方、“世界の終り”の”僕”は、門番に影を切り離されて壁に囲まれた街に入り、“夢読み”の仕事をしている“が、次第に失っていた記憶を取り戻していく。交互に進む、“私”と“僕”の二つの世界。その先にあるものとは?

演出・振付を担うのは、フランスを代表する世界的アーティストのフィリップ・ドゥクフレ。31歳でアルベールビル冬季オリンピック開・閉会式を演出し、サーカスとダンスと映像を融合させた手法で人々を魅了。日本では自身が主宰するダンスカンパニー「DCA」の公演(日本文化を扱った『IRIS(イリス)』を含む)のほか、佐野洋子原作の『DORA〜100万回生きたねこ』、楳図かずお原作『わたしは真悟』を手がけ、高い評価と人気を誇る。今回は、人間の脳内や内面に迫る物語を、どのように視覚化するのか、期待が高まる。

“私”に藤原竜也、“僕”に駒木根葵汰/島村龍乃介(Wキャスト)、 “ハードボイルド・ワンダーランド”の司書と “世界の終り”の彼女に森田望智、 “世界の終り”の影に宮尾俊太郎、“ハードボイルド・ワンダーランド”のピンクの女に富田望生。日本での初演後は、シンガポール、中国、イギリス、フランスでのツアーも予定されている。

※東京公演は1月10日~2月1日/東京芸術劇場/昼の部は12時30分、13時30分から、夜の部は17時30分、18時30分から/定休日は13日、19日、26日/料金は6,000円から(席によって異なる)

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