マリーナ・タバサム・アーキテクツ展:People Place Poiesis
サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン (イギリス ロンドン、2025年) © MTA
サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン (イギリス ロンドン、2025年) © MTA

東京、11月に行くべき無料のアート展11選

街歩きと発見が一度に楽しめる、個性豊かな展示リスト

Chikaru Yoshioka
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11月の東京は、芸術の刺激であふれてる。バングラデシュの建築思想に触れ、ボスニアの職人が生み出す家具に腰かけ、フィンランドのヒンメリが光を受けて揺れる。さらに、日本の最前線のアートディレクションや、石の彫刻、木炭インクのモノクローム作品まで──。静かな感動を求めて、街のギャラリーを歩いてみよう。 

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2025年秋に、エルメス財団は書籍『Savoir & Faire 金属』を出版する。本書は、自然素材を巡る職人技術や手わざの再考・継承・拡張を試みるプログラム「スキル・アカデミー」の一環だ。本書の刊行を記念し、「銀座メゾンエルメス ル フォーラム」では、金属の属性を考えるグループ展が開催される。

金、銀、鉄、鉛、真鍮(しんちゅう)。青銅器時代から文明とともに歩んできた金属は、原材料となる鉱物や加工技術の多様性といった特有の性質を持つ。文化的な側面として、鉱石から金属を取り出し加工する姿は、神話や魔術などの象徴でもある。また、赤い炎を操る勇姿やカンカンと響く工具の音は、現代人の記憶にまで畏敬とともに呼び起こされる。

中世の錬金術や近代の合理性、あるいは音がもたらす象徴性、闇と光、社会階層など、本展では音楽・映像・造形の側面から3人のアーティストたちが金属を読み解き、再考する。

メタル音楽を記号論的に解釈するエロディ・ルスール(Élodie Lesourd)。映画監督の遠藤麻衣子は、日本古来の朱と水銀を媒介に内的宇宙と外的象徴を創造し、榎忠は鉄球としての地球に人間活動を重ね合わせ、廃材を用いた作品を作る。

金属が歴史の中で作り上げてきた属性を多角的にアプローチする本展。見逃さないでほしい。

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  • 乃木坂

TOTOギャラリー・間」で、バングラデシュのダッカを拠点に活動するマリーナ・タバサム・アーキテクツ(MTA)の展覧会「マリーナ・タバサム・アーキテクツ展:People Place Poiesis」が開催。「人々」「土地」、そして創作や詩作を意味する「ポイエーシス」をテーマに、作品と活動を模型・映像・インスタレーションなどで紹介する。

MTAを率いる建築家のマリーナ・タバサム(Marina Tabassum)は、気候や文化、伝統に根ざした建築を追求し、災害や貧困支援にも取り組む。ダッカに設計し、2020年に「アガ・カーン建築賞」を受賞した「バイト・ウル・ロゥフ・モスク」は、地域の土で焼いたれんがと幾何学的構成によって、光と風が満ちる静かな祈りの空間を生み、多様な人々が集う寛容な建築を実現した。

また、洪水で国土の約3分の1が水没するバングラデシュで考案された可動式住宅「クディ・バリ」は、地域の人々が短期間で組み立て・解体でき、洪水時のシェルターとしても機能する。

MTAが設立した財団F.A.C.Eは、クディ・バリを国内で展開し、難民キャンプの施設などにも応用している。こうした活動が評価され、タバサムは2024年にTIME誌「世界で最も影響力のある100人」、2025年には「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン」の設計者に選ばれた。

会場の中庭には、バングラデシュから運んだ「クディ・バリ」と、日本の素材と技術で制作した「日本版クディ・バリ」も展示。MTAがバングラデシュという土地で、人々とともに紡ぎ上げてきた建築の物語を体感してほしい。

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  • 六本木

「ペロタン東京」で、韓国とフランスを拠点に活動するアーティスト、リー・ベー(Lee Bae)の個展「LEE BAE THE INBETWEEN」が開催。底知れぬ黒の深淵への形態的かつ没入的な探求そのものである、リーが描くモノクロームの世界を紹介する。

ドローイング・絵画・彫刻・インスタレーションの境界を繊細に曖昧にしながら、抽象的な美学を多様な領域で発展させてきたリー。色彩の枠を超えた黒に、実在的な深みと強度を与え続けてる。

木炭という素材は、木を焼いて得られるとともに、再び火をよみがえらせる力を持ち、生命の循環を象徴する力強いメタファーだ。リーはこの素材にインスピレーションを得て、時間という第4の次元へと探求を広げていった。

最新の絵画シリーズでは、木炭インクを用いて、キャンバス上に無作為で原初的な筆致を定着させ、自らの動きと時間を記録している。

  • アート
  • 京橋

Gallery & Bakery Tokyo 8分」で、島田萌による個展「Ghost Note +」が開催。最大120号の大作を含む新作群を発表する。

島田は、デジタル機器で加工した写真を元に油彩を描く若手アーティスト。画面越しに現れるゆがみやノイズを「新しいリアル」として捉え、デジタルと油彩の間に生まれる緊張を描き出す。

作品は、画像で見ると写真のように錯覚されることがあるが、実際に作品の前に立つと、油絵具の層が厚みを持って現れ、視覚と物質のズレが際立つ。この「見ること」と「在ること」の差異を意識させる構造も、島田の制作の中核にある。

近年は、アナログのキャンバスで液晶画面のような発光感のある質感を、どこまで再現できるかを探求。あえて物質性の強い油彩という古典的な手法を用いることで、デジタルイメージが持つ非物質的な質感との接点や、その間に生まれる緊張関係を探っている。

現在進行形の島田の「新しいリアル」を目撃してみては。

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  • 六本木

「KOTARO NUKAGA 六本木」と「KOTARO NUKAGA 天王洲で、国際的に活動するイギリス人アーティスト夫妻のアニー・モリス(Annie Morris)とイドリス・カーン(Idris Khan)による日本初の2人展「アニー・モリス & イドリス・カーン A Petal Silently Falls – ひとひらの音」が開催される。

鮮烈な色や力強い形態を用いた表現が特徴的なモリスと、言葉やイメージを生み出し、静穏で思索的な作品を生み出すカーン。対照的な作風を持ちながらも、反復や色彩への感覚など共通する要素を通じて、互いに影響を与えないながら創作を続けている。

2人は最初の子どもを流産で失った深い喪失を経験し、その痛みを創作へと変換してきた。モリスは、卵や赤子の体を想起させる球体を不安定に積み上げる「Stack」シリーズで、失われた存在への哀惜と、かけがえのない生命のありようを表現。カーンは、祈りのように言葉を反復することで、積み重なる時間と記憶を可視化し、喪失の感情を作品へと昇華させている。

それぞれに歩んだ芸術的実践の道のりと、奥底に秘めた共鳴を体感してほしい。

  • アート
  • 虎ノ門

虎ノ門の「art cruise gallery by Baycrew’s(アートクルーズギャラリー バイ ベイクルーズ)」で、今注目の作家・村松英俊の個展「Return to Stone」が開催。「ものに宿る気配」をテーマに制作を続けてきた村松の作品群を一堂に公開する。

村松は、誰かが使っていた形跡や、時間の痕跡をとどめる物体を石化することで、失われつつある記憶や関係を未来へと延命させる。石という素材が持つ悠久の時間性と、人が作り出した道具のはかない時間性の掛け合わせの中に、新たな存在の形を見いだしている。

古道具との出合いや日常の中で訪れる「そろそろ石にしよう」という直感から制作が始まる。作家が「石で残したい」と感じたヘッドフォンやギターなど、自身の記憶や憧れと結びついた対象が彫刻へと姿を変え、ものと人との関係を静かに見つめ直す。

本展のタイトル「Return to Stone」は、「全ての起源は石にある」という作家の思考を示す。鉄やガラスなどあらゆる素材が鉱石から生まれ、やがて石へ還るという循環を可視化し、時間の流れとともに「存在とは何か」を問いかける。

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  • 渋谷

「赤の画家」として知られる笹尾光彦が、長年にわたりインスピレーションを受けてきた街・パリ。街角の花屋、「ポンピドゥーセンター」のカフェで出合ったバラ、お気に入りの教会やオペラ座を、鮮やかな赤の色彩で描き続けてきた。それらは笹尾にとって、何度描いてもパリの魅力を感じさせてくれるワンシーンなのだ。

本展「笹尾光彦展 花のある風景」では、人気シリーズ『パリの花屋さん』をはじめ、『Red Sofa』『The Shelf』の最新作、真っ赤な一輪のバラが印象的な『A Rose in Pompidou Centre』シリーズ、オペラ座を描いたドローイングなどを展示する。

モダンで洗練された笹尾の感性が映し出す、パリの雰囲気を存分に味わってほしい。

  • アート
  • 江東区

建築の視点から人の暮らしの周りに広がる事柄を見つめ、建築文化の発信拠点として活動を続けてきた「GALLERY A4(ギャラリー エー クワッド)」が、設立20周年を迎える。この節目を記念し、これまでの活動を振り返る「ギャラリー エー クワッド 20年の歩み」と、フィンランドのヒンメリ作家エイヤ・コスキ(Eija Koski)による「エイヤ・コスキ フィンランドからのメッセージ」が同時開催される。

会場では、全135回に及ぶ過去の展覧会のパンフレットや映像アーカイブ、年表などを展示。さらに、エイヤ・コスキによる20周年を記念して制作した『感謝のヒンメリ Gratitude Himmeli』をはじめとする新作も公開される。

エイヤ・コスキは、ヒンメリの技術を次世代に伝えたいと、自ら育てた無農薬のライ麦をつむぐ有機的な手法と現代的な造形感覚で、手作業でカットして作品を作る。会期中は、彼女とともにヒンメリを制作するワークショップも実施予定だ。

鑑賞者には記念パンフレットも配布。今回の特別な空間で、20年の歩みと新たな創造の息吹を感じてほしい。

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  • アート
  • 銀座

「ギンザ・グラフィック・ギャラリー」で「日本のアートディレクション展」が開催。20264月に刊行予定の『ART DIRECTION JAPAN/日本のアートディレクション』に先駆け、最新のビジュアル表現とアートディレクションの潮流を紹介する。

1952年に創立された東京アートディレクターズクラブ(ADC)は、日本を代表する85人のアートディレクターで構成されており、同展はその全会員が審査を務める年次公募展として知られる。ここで選出される「ADC賞」は、日本の広告やグラフィックデザインの最前線を示す賞として国内外から注目を集めている。

今回は、20246月~20255月に発表された約6000点の応募作から選ばれた受賞・入選作品を展示。ぜひ足を運んでほしい。

  • アート
  • 神谷町

SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE(集英社マンガアートヘリテージ トーキョーギャラリー)」で、田名網敬一(19362024年)の個展「TANAAMI!! AKATSUKA!!」が開催。日本の出版における最後のグラビア印刷として制作された、記念碑的作品『TANAAMI!! AKATSUKA!! / Revolver』を中心に紹介する。

本作は、田名網が赤塚不二夫(19352008年)のキャラクターを大胆に引用・変形し、再構築した6枚のグラビアプリントのシリーズ。印刷表現の極致を示すものとして高く評価され、以降も田名網は、ペインティング・着物・タロット・茶室など多彩な手法で創作を続けた。

本展では、全6作品の展示に加え、壁面全体にグラビア印刷の技術的背景やキャラクターの変奏を解説。長さ約60メートルの巨大な印刷機の内部をイメージしたギャラリー空間で、紙が印刷機を通過するような体験的展示を構成する。

グラビア印刷という日本の出版文化の象徴と、赤塚のギャグ的エネルギー、そして田名網のポップアートが交錯する、鮮烈なビジュアルの記録を体感できるだろう。

なお、休館日はカレンダーをチェックしてほしい。

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  • 外苑前

「アクタス 青山店」で、ボスニア・ヘルツェゴビナ発の木彫工芸から生まれた家具ブランド「ZANAT(ザナット)」による企画展「ボスニアが育んだ “100年続く手彫り工芸の世界」が開催される。

ZANAT」は、ユネスコの無形文化遺産に登録された木彫り技術を特徴とするブランド。19世紀末、創設者のガノ・ニクシッチ(Gano Nikšić)が生み出した技術を起点に、4世代にわたって伝統を受け継いできた。

現在は、深澤直人やモニカ・フォレスター(Monica Förster)、パトリック・ノルゲ(Patrick Norguet)といった世界的デザイナーとのコラボレーションを通じて、伝統的な職人技と現代的なデザインを融合させた家具を発信している。

本展では、手仕事が生む温もりと、現代の空間にも調和する普遍的な美を備えた代表作を展示販売する。

11月のアートイベントなら……

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  • アート

2024年に101歳でその生涯を閉じるまで染色家として活動を続け、海外での展示やインテリアブランド「IDÉE」とのコラボレーションなど、アートファンのみならず多くの人々を魅了した柚木沙弥郎(ゆのき・さみろう)。そんな彼の展覧会「柚木沙弥郎 永遠のいま」が「東京オペラシティ アートギャラリー」で開催されている。

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