DOAC
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車いす目線で考える 第24回:アクセシビリティの進化

バリアフリーコンサルタント大塚訓平が考える、東京のアクセシビリティ

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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障害のある人は、日常生活の中でさまざまなバリアに直面することによって、不便さや不安を感じることが多い。しかし、以前に比べるとテクノロジーの進歩により、悩みや困りごとを解消することができる製品やサービスが誕生してきている。そこには、開発者の障害当事者に寄り添って傾聴する姿勢や、課題解決に向けた熱い思いがあるはずだ。

『DOAC(ドアック)』が新たな選択肢を生む

2020年の1月に大手住宅設備、建材メーカーのLIXIL(リクシル)から依頼があり、アドバイザー契約を結んで一緒にある製品作りをしてきた。それは、開き戸タイプの玄関ドアを自動ドアに生まれ変わらせることができる、電動オープナーシステム 『DOAC』だ。

DOACは「Do(できる)と、「Open And Close(開けると閉める)」の意味で、既存の玄関ドアをいかしながら、簡単に後付けできるため、1日でのリフォームも可能。今までより低コスト、短期間施工が実現でき、玄関のバリアフリー化に新たな選択肢を生み出した。

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引戸一択からの脱却

バリアフリーの住宅改修に関する相談は、突如として事故や病気によって障害を負い、車いすでの生活になった方やその家族からの依頼がほとんどだ。こうした住宅のバリアフリー化について、最初に質問されるのは、「車いすのまま、玄関から家に入るには、どうしたら良いのでしょうか」というものだ。玄関にたどり着くまでの段差や、玄関扉、そして上がり框。普段の生活では全く気にならなかったところにバリアが生まれる。段差解消機や、スロープの設置、そして玄関扉は引戸タイプのスライドドアに交換するというのが定石だ。

僕も『玄関ドア×バリアフリー化=スライドドア』という公式があるかのように、引戸タイプを提案し続けてきた。それは、車いすユーザーにとって、開き戸タイプのスイングドアはバリアでしかないからだ。一人で開けるには、ハンドルを操作しながら、車いすを勢いよく後方に動かし、扉が閉じてくる前に車いすの一部をドア内に進入させる必要がある。つまり玄関扉に挟まれながら、入らなくてはならないのだ。

その際、動作に勢いをつけることで、持っている荷物を落としてしまうこともある。これは非常に困る。また、外に出るときには、玄関内部に車いすで転回できるスペースが無い場合、後ろ向きで車いすのタイヤをドアに押しつけながら開けなくてはならない。まるでエビのような動きになり、ドアにはタイヤ痕や傷がついてしまう。

このような理由から、スライドドアへの変更を提案するのだが、改修費用と製品代が余分にかかり高額になってしまうし、工期も長くなる。しかも引戸タイプは玄関ドア市場の2割程度なため、少ない選択肢(デザイン)から選ばざるを得ないのだ。

さまざまな課題を解決

『DOAC』の操作は簡単。リモコンの開閉ボタンを押すだけで、ドアの施錠と解錠、そして開閉も自動でできる。これは車いすユーザーにとって、家の出入りだけでなく、普段の生活も格段に便利になる。なぜなら、 郵便や宅配物、 各種デリバリーの受け取り時のバリアも解消してくれるからだ。

今まではその都度、玄関の上がり框を下りなくてはならないし、車いすを外用と室内用で分けている人の場合は、玄関内に車いすが一台ある状態になるため、その車いすを端に寄せ、鍵や扉を開けて対応することになり、必然と動作が多くなってしまう。しかし『DOAC』があれば、リモコンで解錠して扉を開け、室内に入ってきてもらって(上がり框の上で)受け取ることができるのだ。

メリットは他にもある。手動の車いすユーザーはタイヤを自分で操作するため、外出時には手がかなり汚れてしまう。コロナ禍において、手指洗浄、消毒はもちろん、 接触による感染拡大防止の観点から、ドア自体に触れることなく、玄関扉を開け閉めできる『非接触』に対応していることも、時代の流れを捉えた製品と言えるだろう。

【LIXIL】DOAC(ドアック)コンセプトムービー

インクルーシブな製品を目指して

日常生活で課題に直面することが多い障害当事者と、それを解決できる製品やサービスを生み出す企業がチームとなり、開発初期段階から一緒に創り上げていくことができればベストだ。しかし、こうした相談は残念ながら、ほぼ完成形に近づいた状態、後戻りできないフェーズになってからされることが多い。これでは修正ができない。

LIXILには、アドバイザー契約を結ぶ前に来社してもらい、バリアフリー体験型のオープンハウスと位置づけている僕の自宅を見てもらった。実際に車いすユーザーが、自宅内でどう暮らしているのかを見たり体験することで、車いすの動線や物の配置、どんなことが可能で不可能なのか、そして、何があれば便利なのか助かるのかを知ることができるからだ。

つまり、インクルーシブデザイン(本コラム 第19回参照)というデザイン手法の第一段階となる、「多様なニーズを持つ当事者を深く理解し、 共感する」ということにつなげているのだ。今回、これが開発初期段階でできたことは、ニーズを超具体化し、向かうべき方向性を明確にするのに非常に有効だったと思う。そして、LIXIL担当者のように、課題の核心となる当事者の声に傾聴し、熱意を持ってプロジェクトを推進していくことも非常に大切だ。

『DOAC』のように、障害当事者の困りごとを起点に作られた製品が、高齢者や子育て世代はもちろん、多くの人の暮らしをちょっと豊かにしてくれるという新たな価値を生み出し続ければ、インクルーシブな製品が世の中にどんどん広がっていくだろう。

LIXILの担当者は最後に「誰かにとってすごい価値があって、周りの人にもちょっと価値がある。特殊 なものではなくて、みんなに便利なら使ってもらえるし、普及していくはず」と語ってくれたのが印象的であった。

大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)

1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。

車いす目線で考えるを振り返る……

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