車いす目線で考える 第19回 障害者が非マイノリティー化する時代に

バリアフリーコンサルタント大塚訓平が考える、東京のアクセシビリティ

テキスト:
Kunihiro Miki
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ハード面とソフト面の双方からバリアフリーに関するコンサルティング事業を展開している大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)とともに「東京のアクセシビリティ」について考えるコラム『車いす目線で考える』の第19回。

今回は、日本の障害者の人口が増加傾向にあることを背景に、「ユニバーサルデザイン」と「インクルーシブデザイン」について解説する。障害者が非マイノリティー化する未来を見据えながら、「多様化の時代」に必要とされるデザインの手法について考えてみよう。

※タイムアウト東京では通常「障がい」と表記していますが、視覚障害などを持つ方々が文章読み上げソフトを使用すると、「さわりがいしゃ」と読み上げられてしまうため、このコラムでは「障害」としています。

人口の10%を超える障害者人口

世の中で「人口減少・少子高齢化」と叫ばれて久しくなる。今年の出生率は1.42となり過去最低を更新し、日本の総人口は直近5年間で81万人も減少した。その反面、2025年には「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となり、その数が2000万人を超えてくるのだ。

あまり知られていないが、実は障害者人口(身体、知的、精神障害)も増加の一途を辿っている。この5年間で約150万人も増えており、2020年には、その数が1000万人を超えるともいわれている。近いうちに日本全人口の10%を超え、障害者はマイノリティーの領域を脱することになる。

こうした事実を知ると、「多様化の時代」をお題目ではなく、リアリティーのあるものとして感じられるのではないだろうか。だからこそ、現在多くの企業にとって、障害のある人が感じる困難さをさまざまなサービスやモノ(プロダクト)で解消していくことが、「社会的に良い」だけではなく、「ビジネス上賢い」と捉えられる状況が生まれている。

ユニバーサルデザインとインクルーシブデザイン

こうしたサービスやプロダクトを生み出す際に、積極的に活用してほしいのが、デザインプロセスの初期段階から多様なニーズを持つ人を巻き込んで創り上げていく、「インクルーシブデザイン」という手法だ。

日本国内で広く一般的に知られている「ユニバーサルデザイン(以下UD)」と「インクルーシブデザイン(ID)」では何が違うのか。どちらも理念や目標は同じではあるものの、プロセスや力点に違いがある。僕が考える両者の違いは以下の通り。(ここで一つ断っておくが、僕はUDを否定している訳ではなく、IDの考え方やプロセスの方がより僕の考え方にマッチしているということだ)

UDは『デザイナーが、何かしらの障害や困難さを感じるユーザーのことを考えて創る』に対し、IDは『デザイナーが、何かしらの障害や困難さを感じるユーザーと一緒に考えて創る』つまり、UDが持つ「誰かのために=for」という考え方の上に、「一緒に」というwithをプラスしたのがIDだと捉えている。

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原則があることの問題点

プロセスの面での比較をしてみよう。まず、UDには7つの原則があって、それに従って仮説を立て検証しながら開発していく「仮説検証型」といわれる進め方がある。一方でIDの進め方は、ニーズを持つユーザーへのヒアリング(一次情報)から得た気づきをもとにさまざまな仮説を立て、モノやサービスを生み出していく「仮説生成型」といわれるものだ。

例えば、「世の中にこんなものがあったらよい」という考えから、双方の手法で開発がスタートしたとしよう。UDの場合は、その完成形に近づくに従って、7つの原則を確実に守りながら進めていくため、各段階でいろんな制約が出て、最初に思い描いたものから引き算されていくようなイメージがある。

対してIDは、開発初期から多様なニーズを持つ人が参加するからこそ、その人たちが抱える課題だけでなく、心理的満足の部分も吸い上げることができる。可能不可能、便利不便を図りながら、それがすてきなものであるか、満足度を上げるためにはどうしたら良いかを自由に発想することができるので、思考やデザインに広がりが出てくる。まさに足し算をしていくようなイメージだ。

IDの第一人者でもあるジュリア・カセムの著書(※)には、UDの最も大きな問題として、「仮説検証型」における7つの原則が、当初から進化していないことが記されている。人や様式、社会は常に変化し続けている。検証のためのルールも、それに合わせてアップデートする必要がある。この観点からもIDは、当事者にフォーカスすることで的確なニーズを発見することができ、実現へと導いて行くことができるため、よりポジティブな手法だと言える。


※ジュリア・カセム著『「インクルーシブデザイン」という発想 排除しないプロセスのデザイン』

ルールよりもゴール

カセムは同書で「障がいというものは、これまで私たちが思っていたような制限的なものでも否定的なものでもなく、むしろこれまで悩んでいた問題に新たな解決の扉を開くように、素晴らしくわくわくするものである」と書いている。

これからの「人口減少・少子高齢・多様化」の時代が抱える社会課題を解決し、未来を切り開く鍵は、自分とは異なる人、違いのある人が持っている、ということかもしれない。例えば、障害当事者をビジネスパートナーに迎え入れていることが、モノやコト、サービスを開発する上で新たな可能性や重要な視点をもたらしてくれる、ということは大いにあり得ることなのだ。

もちろん、UDの7つの原則のようなルールは大切だが、そのルールを守ることに執着し過ぎた結果、本来の目的や目標がないがしろになってしまい、あまり素敵でないものが出来上がってしまうという事例は数多くある。だから僕は常に「ルールよりもゴール」を大切にしてほしいと語っている。

「誰もが使えるようにすること」そして「誰もが使いたくなるようにすること」が、生活空間をデザインする上では必須なのだと思ってもらえるように働きかけていきたい。

大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)

1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。

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