ニュー新橋ビル
Photo: Keisuke Tanigawa
Photo: Keisuke Tanigawa

昭和の複合施設、ニュー新橋ビルの気になる店4選

レトロ好き必見、懐かしさとカオスが交差する新橋の迷宮ビルをガイド

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タイムアウト東京 > Things To Do >昭和の複合施設、ニュー新橋ビルの気になる店

サラリーマンのメッカ・新橋駅から徒歩1分の超好立地にたたずむニュー新橋ビル」は、知る人ぞ知るホットスポットである。1971年に建てられた同ビルは、港区という都心にありながら昭和の空気を色濃く残しており、ウィキペディアによれば「おやじビル」という愛称で親しまれている。

設計は「新宿ピカデリー」や「東京競馬場スタンド」などで知られる松田平田設計が手がけた。凸凹格子状の外壁には微弱なSF感があり、シンプルにかっこいい。内部も、エスカレーターの角度に沿ってはめ込まれた三角タイルや、微妙に異なる色と厚みのタイルを配置した階段室など工夫が凝らされており、建築物としてとても豊かなのだ。 

今回カメラマンとともにビル内を回遊し、気になった店舗に直接取材を申し込む、リアル飛び込み営業をした。こういうのは結構普通に怒られたりするし、いい歳こいて社会的に怒られるとバッドに入るが、えーい、コケツに入らずばナントカだ、行くしかない。

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ニュー新橋ビルは、地下1階から地上4階までが商店街で、5階から9階はオフィス、10階から11階には住居を配する複合施設なのだが、商店街の店舗数はなんと約300もある。

それもラーメン店、紳士服専門店、金券ショップ、理髪店、ゲーム屋、歯医者、雀荘、喫茶店、マッサージ店など、とにかく何でもアリな「バーリトゥード」っぷりで、どれも結構な年季が入っていそうなクセの強い店舗がひしめき合うその様は、ハッキリと異空間である。

ビル内は雑多でワイルドな活気に満ちており、飲み屋では油分強めなサラリーマンが「いや~(笑)」とかいいながら昼日中から一杯やってるし、かと思えば階段付近ではノートパソコンを床に直置きしてZoom会議に勤しむ人もいる。

そのほかにも、トイレの前にはチップを入れるボックスがあったり(誰も入れてなかった)、この御時世にあって飲食店の大半が喫煙可だったり、壁面にバイアグラの広告が燦然(さんぜん)と輝いていたりと、頼もしいばかりのフリーダム具合である。

「日本って、ちょっと前までこの感じだったよな」と思う。ガワの部分が昭和なスポットというのはさほど珍しくはないが、全体に渦巻くグルーヴそのものが「昭和」というのはなかなかない。それに、このテンションで1日の来場者数は1万人以上だというからすごい。

1軒目に訪れたのは、1階にあるジューススタンド「オザワフルーツ」である。

ジューススタンドといえば、若い女性をメインターゲットに据えた洒落た店を想像するが、たばこの自動販売機に挟まれた角地にある同店は、もう見るからに硬派そのもの。店内には透明なカーテンで仕切られた喫煙スペースさえあり、そんじょそこらの軟弱なジュースバーが束になっても敵わない凄みを感じる。

明朝体で「ダイコン」「ブロッコリー」「モロヘイヤ」と書かれたメニュー写真も、質実剛健という感じでクール。ジューサーがズラリと並ぶカウンターには来店したタレントの写真群が飾ってあるが、北野武や綾瀬はるか、サンドイッチマンといったビッグネームばかりだ。

店主の荒井は、貴重な資料群を引っ張り出して話を聞かせてくれた。荒井いわく、もともとは果物屋であったそうだが、そのベースとなる「小澤果実店」の創業は1948年というから驚きである。現在の業態になったのが1975年だそうで、ここでは2番目に古い店舗なのだという。

人気商品の「ミックス野菜ジュース」(550円)をチョイス。ニンジン・セロリ・コマツナ・リンゴ・レモンから成るジュースはなかなかハードコアな色をしていて、ひと目見るだけで体に良いと確信するいでたち。一口飲んでみると、爽やかな甘味と緑黄色野菜のうまみが混然一体となっており、口当たりが良くシンプルにおいしい。

荒井によれば低速ジューサーを使っており、酵素やミネラルといった栄養素が壊れることなくジュースに閉じ込められているそうだ。日曜日と祝日以外は毎日営業していて、常連客層はやはりサラリーマンが多く、1日2回来店するヘビーユーザーもいるのだとか。

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続いて訪れたのは、2階にある「額縁専門店 ファブリ(FABRI」。ネオンサインやカクテルライトが輝くマッサージ店が立ち並ぶ2階フロアで、額縁サンプルがビッシリと並べられた工房のような店構えが逆に異彩を放つ一軒だ。

アシスタントマネージャーを勤める安西によれば、港区ということもありセレブ客も多く、現代アートや高級ブランドのスカーフの額装などの依頼が結構あるらしい。

額縁はファッション業界よろしく「2023年春」だとか「2024年夏」とか、シーズンごとに各社から新作がリリースされており、人気を博して定番化するものもあれば廃盤になるものもあるという。

工房奥の休憩室まで見学させてもらったのだが、IHコンロを搭載したキッチンやテーブルも完備されているほか、アップライトピアノまで置いてあるのには驚いた。

案内してくれた広報の上野は「数百円から数百万円のものまで幅広く取り揃えており、お客さまの要望を聞いて、こちらが提供できる限りのサービスを常に模索しています」と言っていた。

店内のそこかしこからユーモアと誠実さがにじみ出る、素敵な店である。

「そろそろメシでも食いましょう」とカメラマンとともに熟考の末に選んだのは、地下1階にある居酒屋「ニューニコニコ」である。ニューニコニコ。なんていい名前なんだ。

手書きメニューがズラリと並ぶ、落ち着いた風合いの設えはまさに昭和の大衆居酒屋そのもので、席についただけで落ち着く。悩んだ末に「上まぐろの中おち定食」(900円)、カメラマンは「モツ煮込み定食」(800円)をチョイス。運ばれてきたそれらは、うまかった。

マグロはふくよかな甘味を感じる鮮度の高いものだったし、米や味噌汁もおいしい。モツ煮込みも、そこらの居酒屋ではなかなか味わえないクオリティー。素材そのもののポテンシャルが高く、あっという間に完食してしまった。

ちなみにモツは、芝浦の屠殺場から直接買い付けているらしい。道理で、と思った。

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店を出て、「最後に一軒、喫茶系のところ行きたいすねえ」。などと喋りながら歩いていると、ひときわ目を引く一種異様なスポットが現れた。

3階の「昭和ブックカフェ」である。ブルース・リーやアントニオ猪木、ルパン三世、うる星やつらなど、「オールドスクールコンテンツ」がこれでもかとちりばめられた入り口は、あまりにも魅惑的すぎた。

入店してみたところ、昭和のポップカルチャーが爆裂する手作り感覚にあふれた内装は、不器用なまでの「好き」に満ちていて、癒やしバイブス満点だ。

ホワイトボードに大量に書かれた矢吹丈のイラストや、店内中央に燦然と輝く「HAPPYBIRTHDAY」の文字風船などが放つフリーダム感によって、ブックカフェのよそいき感や漫画喫茶の緊張感はなく、安心して羽を伸ばせる。

なんといっても蔵書が凄く、昭和の名作漫画や名優の伝記、写真集や画集などがびっしりと、それはもうびっしりと詰まっている。

ちばてつやの『餓鬼』に『男たち』、辻なおきの『ジャイアント台風』、永井豪の『ハレンチ学園!』、ジョージ秋山の 『恋子の毎日』のほか、勝新太郎の自伝、水木しげるの画集などがラインアップしている。

とりあえず取材は放置して、しばし読書にふけった。これほどのサービスが1時間500円でフリードリンク、電源もWi-Fiも使えるというのは安いにも程がある。

オーナーの鈴木によると、開業は2020年11月。レア物も多く含む蔵書数は約6000冊で、単なるブックカフェにとどまらず、夜はカラオケができる上に、定期的に常連の誕生日パーティーやイベントなども行っているそうだ。

ちなみにホワイトボードの矢吹丈のイラストは、先日行われた「あしたのジョーファンのオフ会」イベントでメンバーの人たちが描いたもの。クイズを出し合ったり、登場人物のドリームマッチを考えてその試合内容について議論したりする会で、鈴木も会員だそう。オレも仲間にしてほしい。

そんなこんなで夕立が降り始めた頃、われわれ取材班はニュー新橋ビルを後にした。まだこのビルの魅力はほんの1%も味わえていないだろう。 日本人が忘れてしまったナスティとフリーダムがこの場所にはしっかり息づいている。わくわくする、元気が出るような場所なのだ。

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