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トランスジェンダー当事者が主演する映画7選

コメディーから青春ドラマ、ミュージカルまで

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日本最大級のLGBTQ+のパレード「Tokyo Pride」が、2025年から6月に開催されることとなった。6月は、性的少数者の権利向上や啓発を訴えるイベントやパレードが世界各地で行われる「プライド月間」であり、それに合わせた変更だ。

そんなプライド月間の6月にこそ、LGBTQ+をテーマにした「クィア映画」を鑑賞してみてはいかがだろう。本記事では、トランスジェンダー当事者が主演を務める作品を7本ピックアップ。映画を通じて、性の多様性を楽しく学べるはずだ。

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インタビュー:東海林毅

1. ナチュラルウーマン(2017年)

2017年に制作されたチリの映画『ナチュラルウーマン』は、第90回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品。物語は、トランスジェンダー女性である主人公・マリーナの年の離れた恋人が、病のため急逝することから始まる。

主役のマリーナを演じた主演のダニエラ・ヴェガ(Daniela Vega)は、一見してトランスジェンダー女性だとは分からない。実際にメゾソプラノ歌手としても活躍する彼女の声は、美しく力強いのが印象的だ。

本作に限らず、トランスジェンダー当事者が出演している映画の中で、「この俳優はトランスジェンダーだ」とすぐに見抜ける作品は決して多くない。本作もその一つである。

鑑賞を通じて、私たちが無意識のうちに抱いている「男女を見分ける基準」や、国や文化によって異なる性表現の多様さに気づきを与えてくれる作品である。

2. 片袖の魚(2021年)

2021年、日本で初めてトランスジェンダー女性を当事者役としてオーディションを行い、注目を集めた先駆的な短編映画『片袖の魚』。文月悠光による同名の詩を原作に、自身もバイセクシュアルを公表している監督の東海林毅(しょうじ・つよし)が脚本を書き上げた。

物語は、女性として一般企業で働く主人公が、ひょんなことから現在の姿を知らない旧友と交流するというもの。モデルでもある主演のイシヅカユウは、トランスジェンダーという事前情報があるにもかかわらず、画面越しには市井で働く女性にしか見えない。劇中、仕事現場で取引先相手に性別を看破される場面では、「なぜ分かったのか」と問い詰めたくなる衝動に駆られるほどだ。

特に印象的なのは、主人公が旧友と電話で話す際、相手に違和を覚えさせないよう、低めの声を出すシーン。声色の切り替えにぎこちなさがあり、それがかえって「普段から女性として生きている」ことが改めて感じさせる。

一口に「トランスジェンダー」といっても、その姿は多様。本作は、トランスジェンダーの知人が身近にいない人にこそ、当事者の日常の一端を見せてくれる作品として勧めたい。

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3. タンジェリン(2015年)

トランスジェンダーを被害者的に描くのではなく、「街に生きるちょっとクィアな(奇抜な)女性たちの物語」として、フラットに表現されている点に好感が持てる映画『タンジェリン』。ロサンゼルスの決して治安が良いとはいえない街を舞台に、平凡な日常の思わずくすっと笑えるエピソードが満載のコメディー映画だ。

重たいテーマや、性的マイノリティーが悲惨な目に遭う描写に抵抗がある人にも勧めたい一作。ただし、物語は2人のセックスワーカーを中心に展開するため、性的な描写や下ネタが苦手な人は注意してほしい。

筆者が本作のとりこになったのは、主人公のシンディと彼女の親友のアレクサンドラによる、まるでショートコントのような冒頭のやり取り。ほかの作品のように、登場するトランスジェンダー女性たちが「美し過ぎない」のもリアルで、日常の一コマを見ているような小気味良さがある。

4. エミリア・ペレス(2024年)

2025年のアカデミー賞で、トランスジェンダー女性として初めて主演女優賞にノミネートされて話題となった『エミリア・ペレス』。しかしその一方で、メキシコが舞台であるにもかかわらず現地で撮影されていないことや、主要俳優陣にメキシコ出身者が採用されなかったことなど、さまざまな批判が上がったことでも注目された。

確かに本作の舞台は、一般的に抱かれるラテンアメリカの陽気なイメージとは対照的に、重苦しい雰囲気に包まれている。登場する女性たちは日常の暴力に疲れ切っており、もはや声も上げることもできない。

そんな暴力的な構造に支配される中、同性愛や性別移行はごく自然なものとして描かれる。そのため、これらの描写がかえってちぐはぐなジェンダー観として映り、観る人によっては、どう理解すべきか終始困惑させられるだろう。

しかし、中年以降に性別移行を選択した人の心の機微が描かれた挿入歌の歌詞には、ほかにはない魅力がある。当事者性が低い人にとっては共感が難しいかもしれないが、当事者の心には響く内容だ。また、スペイン語の響きの美しさに触れられるという意味でも、観る価値がある。

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5. 私はヴァレンティナ(2020年)

『私はヴァレンティナ』は、性的マイノリティーへの権利保障に前向きで、同性婚も認められているブラジルで制作された映画。制度はあっても、いまだ偏見や差別は根強く残っており、学齢期のトランスジェンダーが直面するトラブルや葛藤が丁寧に描かれている。

主人公のヴァレンティナを演じるのは、登録者数79万人の人気ユーチューバーであり、トランスジェンダー女性でもあるティエッサ・ウィンバック(Thiessa Woinbackk)。本作が映画初主演となる。劇中でヴァレンティナと母のマルシアが見せる関係性は、本物の親子のようで、その自然な演技が心を打つ。

また、作中で性別移行したヴァレンティナと、父や祖母との距離感の描写には、映画であることを忘れてしまうほどのリアリティーが漂う。トランスジェンダーを描いた作品の中には、当事者がいたずらに悲劇的な存在として描かれることも多いが、本作はそうではない。安心してヴァレンティナを応援できる作品だ。

6. 息子と呼ぶ日まで(2024年)

2024年に公開された、トランスジェンダー男性が主演の短編映画『息子と呼ぶ日まで』。不動産屋で働くトランスジェンダー男性の主人公と、カミングアウトをきっかけに疎遠になった父との葛藤の物語だ。

トランスジェンダー男性が主人公の作品は数が限られているが、本作は日本で制作された貴重な作品の一つ。主人公の葛藤だけではなく、パートナーや両親の胸中も丁寧に描かれており、日本の性的マイノリティーを取り巻く状況を知る上で良い機会となるだろう。

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7. ブルーボーイ事件(2025年秋公開)

『ブルーボーイ事件』は、トランスジェンダー男性を公表する映画監督・飯塚花笑(いいづか・かしょう)の最新作。1960年代に「ブルーボーイ」と呼ばれていた男娼(だんしょう)に性転換手術(現在の性別適合手術)を施した医師が逮捕、有罪判決を受けた日本の事件を元にしている。

主演は、演技初挑戦ながら、オーディションを勝ち抜いた中川未悠だ。トランスジェンダー女性役には、ドラァグクイーンのイズミ・セクシー、歌手で俳優の中村中などを起用している。

ほかにも多くの当事者が出演している。現代のトランスジェンダーに関わる課題や、性別適合手術を考える上でもチェックしておきたい作品だ。

もっとクィア映画について知りたいなら……

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日本・アメリカ・スイスの3拠点で生活し、通訳や執筆などを行うカイザー雪が、6回にわたって世界のリアルなLGBTQ+事情を伝える「Pride of the world」シリーズ。今回は、サンダンス映画祭のプログラムディレクター、キム・ユタニ(Kim Yutani)にインタビューを実施した。

映画業界で20年以上活躍し、LGBTQ+映画にも精通する彼女に、LGBTQ+映画のこの20年間の変化や影響を最も与えた監督、今年の注目作品、気になっている日本の監督、などについて話を聞く。

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日本初となる、トランスジェンダー女性の俳優オーディションが開催されたことでも注目を集めている映画『片袖の魚』。今回、主人公の新谷ひかり役に抜擢(ばってき)されたイシヅカユウに、映画の裏話をはじめ、映画界におけるトランスジェンダーの描かれ方についてインタビューした。

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