イシヅカユウインタビュー
Photo: Keisuke Tanigawa

「片袖の魚」主演イシヅカユウに聞く映画界のトランスジェンダー描写

公開中の注目作品、上映はケイズシネマで7月末まで

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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現在公開中の映画『片袖の魚』は、文月悠光の詩を原作に、自分に自信が持てないまま社会生活を過ごすトランスジェンダー女性が新たな一歩を踏み出そうとする物語だ。日本初となる、トランスジェンダー女性の俳優オーディションが開催されたことでも注目を集めている。今回、主人公の新谷ひかり役に抜擢(ばってき)されたイシヅカユウに、映画の裏話をはじめ、映画界におけるトランスジェンダーの描かれ方についてインタビューした。

イシヅカユウインタビュー
Photo: Keisuke Tanigawa

トランスジェンダー役を当事者が演じること

―オーディションを受けたきっかけを教えてください。

東海林毅監督の前作で振り付けを担当していた方が知り合いにいて、オーディションについて教えてもらいました。当時は主演に選ばれることは全く想像していなく、共感した企画に少しでも関わりたいという気持ちでオーディションを受けました。 

―トランスジェンダー役を当事者が演じることについて、どう考えますか?

トランスジェンダー役を当事者が演じることは必ずしも必要だとは思いません。ですが今の映画業界においてトランスジェンダーの俳優の活躍の場が少ないことは一つの問題としてあります。また当事者の声がない状態で映画製作が進められることから、トランスジェンダーを悲劇的に描いたり、身体性をコメディーとして消費するような映画が多く存在することも事実です。

イシヅカユウインタビュー
『片袖の魚』©2021 みのむしフィルム

そういった現状で当事者が演じることは、それらの描写が非現実的であることを世に伝えることになりますし、今までの映画業界で見つめ直す機会がなかった制作のやり方や流れをアップデートすることにもつながると思います。アップデートされることで非当事者が理解し、リアルに基づいたトランスジェンダーを描く作品が増えていくのかな、と。

『片袖の魚』は、今までの映画業界のいい側面を残しつつ、新しい形で制作することができた作品だと思います。

―作品の情報がリリースされた当初、SNS上ではどのような反応がありましたか?

日本初のトランスジェンダー俳優のオーディションが開催されたこともあり、リリース当初は話題になっていました。もちろん日本ではセンセーショナルな内容なので話題性もあり議論も呼びましたが、作品自体ではなく、それだけがクローズアップされることは正直複雑に感じました。今は映画が公開されているので、映像そのものの美しさや演出などを見てくれるとうれしいです!

イシヅカユウインタビュー
Photo: Keisuke Tanigawa

トランスジェンダー当事者としてではなく、一人の人間として

―初主演とのことですが、特に難しかったことなどあれば教えてください。

全部です(笑)。過去に演技の経験がなければ未知の状態で飛び込めたのですが、モデルとして映像に関わることがあったので、普段とはまた別の心構えが必要でした。個人的に映画が好きなので、監督や俳優さんをリスペクトしているからこそ、この世界に踏み込んで自分が何をすべきなのかを考えてしまったり。好きだからこそ求めるレベルが高く、満足のいくお芝居をすることは難しかったです。

―モデル業と俳優業の表現方法にはどのような違いがあると思いますか?

モデル業は外面的に表現するのに対し、俳優業は全く違う別の人間を表現する仕事だと思っています。モデルの仕事をしているので、普段の生活から歩き方に気をつけたり、洋服をかっこよく見せたいという気持ちがある。

ですが、演じたひかりは社会人としてアクアリアムの販売会社で働き、日々自信を持てずに過ごしています。歩き方一つでも異なるので、街中でいろいろな人を観察して勉強していました。トランスジェンダーとひとくくりにしても、一人一人の持つ経験や境遇は違うので、全く別の人間であるひかりを演じることは難しかったです。 

イシヅカユウインタビュー
『片袖の魚』©2021 みのむしフィルム

―撮影で印象的なことはありましたか?

私は物心ついた頃から魚が好きなのですが、偶然にも主人公がアクアリアムの会社で働いていることや、作品に魚がたくさん出てくることを知り驚きました。熱帯魚屋さんやアクアリウム会社での撮影もあったので、撮影の合間で会社の人と魚についてのオタクな話をしてしまいました(笑)。

「全ての人が当事者であり「アライ」である」

―作品が与えるメッセージとは何でしょう。

作品を見たままに感じてほしいです。見た人全てが必ずしもエンパワーメントされるわけではないですし、逆につらいと感じる人もいるかもしれません。世の中にはトランスジェンダーをコメディーのように描く映画は多く存在しますが、当たり前に世の中にいる一人の人間として見てほしい。

また、当事者だから傷つけないと思われがちですが、作品を通して、当事者でも無意識のうちに相手を傷つける可能性があるという気づきも得られました。そういったさまざまな社会問題を考えるきっかけとなればうれしいです。

イシヅカユウインタビュー
Photo: Keisuke Tanigawa

―今後どのような社会になってほしいですか?

今後にゴールはないと思っていて、何が正しいというわけでもありません。言葉だけでも流動性があり、今正しいとされている言葉でも100年後は差別用語となるかもしれない。だからこそ、ずっとアップデートし続けることが大事だと思います。今は間違えを恐れ、なかなか変化できない人が多いのかもしれません。ですが、良くないと思った時に方向転換できる社会だと、より多くの人が生きやすくなると思います。

―アップデートし続けるために必要なことはありますか?

「当事者 or 非当事者」ではなく、「自分も周りも当事者」という認識が必要だと思います。「アライ」という言葉は、セクシュアルマイノリティー当事者ではない人が、マイノリティーに仲間として寄り添う意味として使われていますが、それよりも「自分が自分以外の人間に対して「アライ」である」という意識を持つことが大事なのかな、と。当事者だから絶対に相手を傷つけないということはないので、自分がマジョリティーに当てはまるとしても、当事者かつ周りにとってもアライと考えるようにしています。

イシヅカユウインタビュー
『片袖の魚』©2021 みのむしフィルム

『片袖の魚』

上映館:ケイズシネマ(新宿)
上映期間:2021年7月10日~7月30日(金)
そのほか横浜シネマリン、浜松シネマイーラ、川越スカラ座で順次上映予定

公式ウェブサイトはこちら

テキスト:Honoka Yan

モデル、ダンサー、ライター、記者、LGBTQ当事者。タブーについて発信する日本のクィアマガジン『purple millennium』編集長を務める。『THE OTHER』発売中。Instagram:@honokayan

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