車いす目線で考える 第4回

車いす目線で考える 第4回 ホテル予約が取れない

バリアフリーコンサルタント大塚訓平が考える、東京のアクセシビリティ

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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タイムアウト東京  Open Tokyo > 車いす目線で考える > 第4回 ホテル予約が取れない

テキスト:大塚訓平

出張や旅行などで宿泊施設を予約する際、何かしらの障害を感じたことはあるだろうか。おおかたの人は、特に思い当たることはないだろう。僕は、障害者デビューして以来、この宿泊予約には毎回かなりの困難を感じている。

つい先日も、10月に北海道で開催される某団体の会合に出席するために宿泊予約しようとしたが、開催場所となっているホテルはもちろん、会合に一緒に参加する方々が泊まる予定のホテルや、ほかの同クラスのホテルにも、車いす対応客室が整備されておらず、予約までかなり手間取った。

その理由は大きく分けて3つある。

1つ目は、車いす利用者用の客室(バリアフリールーム、ユニバーサルルーム、アクセシブルルームなどの呼び方がある)が一般客室に比べ、極めて少ないこと。2つ目は、その車いす対応客室の有無や、詳細情報がウェブサイトなどに公開されていないこと。3つ目は、一般客室に比べて宿泊料金が高額になるケースが多いことだ。今回は、この車いす対応客室について考えてみる。

 

五輪・パラリンピック、どうするの?

 

SportsPress/アフロ

車いす対応客室がどの程度整備されているかご存知だろうか。

国土交通省が2017年に全国606の宿泊施設に向けて行ったアンケート調査では、対応客室がある施設は、全体の約32パーセント(194施設)という結果だった。

例えば、皆さんが10のホテルから選べるところ、僕の場合はその内の3つからしか選べないということだ。さらに、その部屋は各ホテルでたいてい12部屋しかないので、予約は困難を極める。それぞれの課題を解説しよう。

対応客室(UDルーム)の数はわずか194施設/グラフ:国交省「ホテル・旅館のバリアフリー化の現状等に関するアンケート調査結果」から作成

まず最初に、対応客室の少なさ。

現行のバリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)では、50室以上の客室がある宿泊施設には、車いす利用者用の客室を1室以上設けることが義務付けているが、客室割合ではないので、客室総数1000室の宿泊施設であっても1室あれば、バリアフリー法はクリアできることになっているのだ。

194施設のほとんどが、対応客室を1部屋しか有していない

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを観戦する車いすユーザーやパラアスリートたちは、どこに宿泊するのだろうか。ましてやチーム競技の選手たちがバラバラに宿泊し、試合でベストなパフォーマンスを出せるのだろうか。

東京大会については、国際パラリンピック委員会もバリアフリー対応の客室が不足していると指摘している。調査結果からも不足が明るみとなったことで、国土交通省はバリアフリー法を改正し(20199月施行予定)、客室総数50室以上の宿泊施設を新築/増築する場合、車いす対応客室の割合を1パーセント以上とするよう義務付ける方針を打ち出した。この国の動きにはぜひ期待したい。

 

せめて客室の写真情報だけでも

 

次の課題は、車いす対応客室の詳細情報が、ウェブサイトなどに掲載されていないこと。

一般の客室は、種類やグレード別に客室の詳細が画像とともに紹介されていることがほとんどだが、車いす対応客室はそれとは大きく異なる。「よくあるご質問」や「FAQ」などに「車いす対応客室はありますか?」という質問があれば、たいていは「1部屋ご用意がございます。詳しくはお電話にてお問い合わせ下さい」という具合だ。また対応客室があるにも関わらず、一切情報を出していない施設もあるのだ。

情報提供すらしていない施設も3割近くある

障害の種類や度合いによっては、室内のレイアウトが分かる平面図や、各所の数値化された詳細情報まで欲しい人もいる。最低限、室内の画像(バスルーム含む)だけでも情報公開してくれれば、宿泊可能かを判断する材料には十分なりえるので、ぜひ積極的に情報公開してほしいものだ。

提供される情報のほとんどは「対応客室があるかないか」

 

選択肢の豊富さが、人生も豊かにしてくれるはず

 

最後の課題は宿泊料金。

今の時代はたいてい、宿泊施設の公式ウェブサイトや、大手宿泊予約サイトなどから、ネット予約をするだろう。しかし、車いす対応客室のほとんどは、ネット予約ができないのだ。

インターネットでは、対応客室の予約はなかなかできない

理由は各社様々だが、一番の問題は宿泊料金にある。冒頭述べた北海道への出張だが、某大手宿泊サイトの通常の宿泊料金(車いす対応客室と同等の広さの客室)は、僕が直接ホテルに電話で予約した宿泊料金より5,000円以上も安かった。さらに対応客室が広めのツインタイプしかないため、会合に一緒に参加する方々の誰よりも豪華な部屋を取らざるを得なくなってしまい、結果、宿泊料金も高くなってしまった。

最近では、車いす対応客室でもネット予約ができるようになったホテルも少しずつ増えてきたが、まだまだ足りていない。様々な部屋のタイプやグレードから自由に選べるようになってほしい。

車いすユーザーにとって、宿泊施設だけでなく、あらゆるシーンで選択肢の幅が広がることが、外出や仕事、人生を楽しむことに繋がるのではないかと思う。

第1回「"Thank you"と"Excuse me"」はこちら
第2回「とりあえずバリアフリー」はこちら
第3回 バリアフリーの「ルール化」はこちら

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