Disability.

車いす目線で考える 第1回「"Thank you"と"Excuse me"」

バリアフリーコンサルタント大塚訓平が考える、東京のアクセシビリティ

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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タイムアウト東京  Open Tokyo > 車いす目線で考える > 第1回「"Thank you"と"Excuse me"」

テキスト:大塚訓平

2009年6月20日に不慮の事故で脊髄を損傷、車いすでの生活になった。障害者デビューして約9年。この間、国内外問わず、様々な場所を訪れてみたが、車いす目線で見る街(社会)は、健常者の時とは大きく違う。シリーズコラム「車いす目線で考える」では、健常者と障害者のどちらも経験しているという独自の立場から、バリアフリーに関するテーマを深掘りしていこうと思う。

※タイムアウト東京では通常「障がい」と表記していますが、視覚障害などを持つ方々が文章読み上げソフトを使用すると、「さわりがいしゃ」と読み上げられてしまうため、このコラムでは「障害」としています

5年前にアメリカのネバダ州に住む友人を訪ねた時のこと。

「こっちに来てから、『ありがとう』だけで目的地にたどり着けるね」と、妻から言われて気がついた。

日本国内で移動する際は、いつもこちらから「すみません」と声をかけ、道を譲っていただいたり、アシストしていただいたりするのだが、確かにアメリカに来てから、「ありがとう」としか言っていないかも。

この違いは何なのかというと、ネバダの街で出会う人たちは、車いすユーザーの僕の存在に気がつくのが早く、その後のアクションも早いということだ。

ラスベガスでの僕

体験した例を1つ挙げる。ラスベガスを観光している時、路上は様々なパフォーマンスが行われ、混雑していた。そうした状況でも、通行人たちはこちらの存在にすぐに気づき、アイコンタクトとジェスチャーで道を譲ってくれた。僕からは「Thank you」、相手からは「You're welcome」、 そしてイイ感じのスマイルも添えて、「Have a nice day(良い1日を)!」まで言ってくれたのには、完全に心を掴まれた。スマートだし、完璧なコミュニケーションだ。

また街のいたるところに「Wheelchair Accessible(車いす利用可)」「RAMP(スロープあり)」などの表示があり、車いすでアクセス可能な場所かどうかがすぐに分かるので、移動にストレスを感じることがなく、迷うことも少ない。

スロープの表示

では、2020年東京オリンピック・パラリンピックが開催される日本ではどうだろう。残念ながら「Thank you」だけで目的地にたどり着けることは少なく、代わりに、こちらの存在に気づいてもらうため「Excuse me(すみません)」を多用している。仮に僕に気づいていたとしても、狭い歩道ですれ違う際に、すぐには道をあけてくれなかったり、半身になって避けたりする。アメリカでの体験とは大きく異なる。

2年後には、全世界から大勢の車いすユーザーが日本を訪れることになる。その時までに、みんながストレスなく移動し、日本を、東京を楽しんでもらえるよう、ハード面の整備はもちろん、ハートのバリアフリーも進めていかなくてはならない。

なぜなら、「お・も・て・な・し」とアピールし、開催が決まったオリ・パラなのだから。

では、何から始めるべきか。まずは、ラスベガスで出会った人々のような視野の広さと行動力をつけることかもしれない。

大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)

1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。

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