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対談:松岡修造☓澤邊芳明「パラリンピックの盛り 上げに必要なこととは」
2020の成功に向け情熱を捧げる2人が考える、乗り越えるべき課題
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in collaboration with 日経マガジンFUTURECITY
2020年に迫る東京オリンピック・パラリンピック。56年ぶりの開催に期待が高まる一方、パラリンピックに対する人々の理解や関心度には、まだ課題が残る。パラリンピックを盛り上げるために必要なことは何か。平昌オリンピック日本代表選手団応援団長を務めた松岡修造と、東京大会組織委アドバイザーで、パラスポーツ普及に尽力するワントゥーテン代表の澤邊芳明が語った。
開催までにどれだけ障がい者スポーツを一般に普及させられるかにかかっている
松岡:僕はライフワークのような形でオリンピック・パラリンピックを応援し続けていますが、パラリンピックについて調べてみると、競技内容やルールなど、知らないことがたくさんある。しっかり勉強しようと改めて感じています。
澤邊:障がい者スポーツって、目にする機会が少ないですからね。いわばパラリンピックについてはほとんどの人がビギナーなんです。触れる
きっかけがないから、楽しみ方も分からない。この点には大きな課題を感じます。
松岡:障がい者スポーツって、実際に観戦してみると、すごく面白いじゃないですか。澤邊さんにとっての魅力は何ですか。
澤邊:まずスポーツ用具の技術革新ですね。車いすや義足の素材、形状などが日々進化し、記録もどんどん更新されています。近い将来、ウサイン・ボルトより速く走る義足のパラリンピアンが登場する可能性は十分あるし、東京大会でも驚くような逆転現象が起きるかもしれません。そんな「超人感」を体験するという楽しみ方もあると思います。
松岡:そうなると「障がい者のためのもの」と思われている障がい者スポーツのあり方も、変化していきそうですね。例えば車いすテニスを実際にやってみると、戦略性やゲーム性が高く、健常者にとってもすごく面白い。障がい者スポーツの醍醐味(だいごみ)がもっと一般に知られれば、障がいの有無を超えて誰もが楽しめるものとして、裾野が広がる気がします。
澤邊:まさにそれが重要です。パラリンピックの成功は、開催までにどれだけ障がい者スポーツを一般に普及させられるかにかかっています。昨年、私たちは「サイバーウィル」「サイバーボッチャ」というデジタルゲームを開発しました。「サイバーウィル」は、車いすマラソンやレースを楽しく擬似体験できるVR(仮想現実)マシンです。タイヤに付いたハンドリムを回して映像空間を駆け抜け、タイムトライアルに挑戦できます。またパラ競技のボッチャに、映像と音の演出などを加えてエンタメ化したのが「サイバーボッチャ」です。
ゲームセンターやバーなどに設置し、一般の人に遊んでもらうのが狙いです。「ちょっとボッチャしに行こうか」と気軽に楽しめる日常を作りたいんです。それがファンを作る一番の近道だから。収益の一部は、日本ボッチャ協会に寄付され、選手育成などに充てられます。
松岡:ゲームを純粋に楽しむことが、結果的に障がい者スポーツへの貢献につながるわけですね。
澤邊:パラリンピックも同じで、会場に足を運んで「かっこいい」「面白い」という感覚で楽しむことが、最大の応援になると思うんですよ。


東京大会をポジティブな変革のきっかけにしたい
松岡:先日、平昌パラリンピックスノーボード日本代表の成田緑夢さんと話した時、彼がこう言っていたんです。「諦めずに挑戦する姿を見せ、障がいがあっても希望はあると伝えたい。パラリンピックの良さは、そんなストーリーをみんなと共有できること」と。それですっと腑(ふ)に落ちました。シンプルに感動や希望をシェアし合うという楽しみ方があってもいいんだ、と。
澤邊:リオデジャネイロ大会で行われた東京への引き継ぎ式のコンセプト「POSITIVE SWITCH(ポジティブ・スイッチ)」は、まさに今
おっしゃったこととリンクしています。「ポジティブ・スイッチ」という言葉は僕の発案なんですが、気持ちを前向きに変化させることで人生の可能性は広がる、だから東京大会をポジティブな変革のきっかけにしようという意味を込めました。例えば、テクノロジーの進化が加速し、助ける側と助けられる側の一方通行のベクトルが柔らかくなるかもしれない。パワード義手みたいなものが汎用化されれば、健常者の荷物を障がい者が持ってあげるというような、逆方向のベクトルが生まれる可能性もある。わくわくしますね。
松岡:国の威信をかけたイベントを開催することで、ハード面のバリアフリーが大きく前進するのは間違いない。でもそれだけじゃなくて、パラリンピックは誰もが活躍できる共生社会の象徴。2020年の東京で、パラリンピアンたちが何を感じ、何を思うのか。それが成熟都市としての東京の評価を決めると思うんです。


応援の気持ちだけでもいい
澤邊:ロンドン大会が高評価を得たのは、先進国の首都として、新しい共生社会の姿を見事に示したからでしょう。東京大会も、日本がどんな先進的なビジョンを見せるのか、世界中に注目されているんです。
松岡:海外から来る人たちは、東京に暮らす「人」を見ます。自信と誇りを持ち、生き生きと暮らしているのか。未来のために一丸となって大会を成功させようとしているのか。人々の表情を見て、街のイメージとして受け取るんです。東京の人たちが2020年を自分ごととして捉え、全員参加の気持ちを持たないと。
澤邊:次の東京大会が、1964年の東京大会と根本的に違う点は、日本は今、経済の停滞や人口減少、少子高齢化など、課題がてんこもりだということ。1964年は高度経済成長期の真っただ中で、物質的な豊かさを目標に掲げるだけで良かった。でも今の時代は、そんなメッセージは心に響かない。「自分たちにとって幸せって何だろう」と、一人一人が自分と向き合わなければいけない。新しいビジョンをレガシーとして、社会に実装しなければいけない。誤解を恐れず言えば、東京大会は日本再興の最後のチャンス。ここできっかけをつかめなかったら、後がない状況になる。それぐらいの危機感を持っています。
松岡:僕は「君たち一人一人がオリンピック・パラリンピックなんだ」と言いたいですね。応援の気持ちだけでもいい、2020年までに達成したい目標を立てるのでもいい。自分なりの当事者意識を持って東京大会を迎えてほしい。そんな「自分ピック」の精神を、もっともっと広めたいですね。
松岡修造(まつおか しゅうぞう)
1967年、東京都生まれ。10歳から本格的にテニスを始め、1986年にプロ転向。1995年、ウィンブルドンで日本人男子としては62年ぶりとなるベスト8進出。現在は、後進の育成とテニス界の発展に尽力しながら、スポーツキャスターなどメディアでも幅広く活躍中。
澤邊芳明(さわべ よしあき)
1973年、東京都生まれ。1992年、事故による頚椎(けいつい)損傷で車いす生活に。京都工芸繊維大学卒業後、1997年に起業。広告やロボティクス、空間などを総合プロデュースするワントゥーテンの代表を務める。東京オリンピック・パラリンピック組織委アドバイザーなど要職を多数現任。
※日経マガジンFUTURECITY第3号から転載
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