パラスポーツについてあなたが知らない8のこと

東京大会をもっと楽しむための予備知識

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Time Out Tokyo Editors
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in collaboration with 日経マガジンFUTURECITY

2020年は、パラリンピックを生観戦できる貴重なチャンス。これを逃せば、再び日本で開催されるまで、おそらく何十年も待たなければいけない。せっかく間近で観られるのだから、前もってパラスポーツについて学んでおこう。

パラリンピアンがオリンピアンの記録を超える?
マルクス・レーム(SportsPress/アフロ)

1. パラリンピアンがオリンピアンの記録を超える?

2015年の世界パラ陸上選手権。走り幅跳び男子T44クラス(片ひざ下切断など)のマルクス・レーム(ドイツ)は、8m40cmで自身の持つ世界記録を更新した。これは2012年のロンドンオリンピック男子走り幅跳びの金メダル記録をも上回る脅威のレコード。「ついにパラリンピアンがオリンピアンを越えた」と世界を驚かせた。背景の一つには、競技用義足の著しい進化がある。高い反発力を持つカーボン繊維製の義足は、様々な改良がなされており、義足アスリートの記録更新ペースを加速させている。一方、跳躍においては人間の脚より有利だという指摘もあり、レームがリオデジャネイロオリンピック出場を目指すと公言したことで、大きな議論が巻き起こった。テクノロジーの進化は、健常・障がいの境界を確実に溶かしつつある。2020年の東京大会は、パラリンピアンがオリンピアンの記録を次々と塗り替える、エポックな大会になるかもしれない。

※画像:マルクス・レーム(SportsPress/アフロ)

独自の進化を遂げる競技用車いす

2. 独自の進化を遂げる競技用車いす

日本の日常生活用車いすは、折りたたみ式が一般的。一方、競技用車いすは、軽くて運動性能が高い仕様になっている。車いすメーカーの
オーエックスエンジニアリング(千葉市)によると、例えば陸上競技用車いすは、前方に小さな車輪が付いた3輪タイプが主流で、直進安定性に優れているという。またテニスやバスケットボール用の車いすは、素早くターンできるようにタイヤがハの字になっている。バスケットボール用のものは、接触時に搭乗者の体と車いすを守るバンパーの取り付けも義務付けられているそう。素材の改良も進んでおり、かつてはステンレス鋼などが主流だったフレームは、アルミやカーボンファイバーが用いられるようになり、軽量化を実現している。選手の体に合わせてオーダーメイドで製作されるのが基本のため、注文から完成までに2~5ヶ月を要する。値段は30万円以上するものが多い。2020年は、車いすの進化にも注目したい。

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ぴったりのパラスポーツが見つかる「マイパラ! Find My Parasport」

3. ぴったりのパラスポーツが見つかる「マイパラ! Find My Parasport」

障がいがある人もない人も、自分にぴったりのパラスポーツを発見できる診断ウェブサイトがある。日本財団パラリンピックサポートセンターが運営している「マイパラ! Find My Parasport」だ。障がいの有無や区分、スポーツの好みなどに関する質問に答えていくと、41のパラスポーツの中から、最適な競技をマッチングしてくれる。また「チーム検索」から、やってみたい競技名と居住地域を入力すると、全国362の競技団体・クラブの中から、参加が可能なチームを表示してくれる。健常者も選手として参加できる競技とチームを検索できる点が特徴だ。https://www.parasapo.tokyo/mypara/

4. パラ陸上の「T53C」は何を意味する?

障がい者スポーツでは、障がいの種類や部位、程度によって選手の運動能力に差が生じる。そのため、競技の公平性を確保する制度として、障がいのレベルごとに競い合う選手を区分けする「クラス分け(Classification)」というルールがある。競技ごとに異なるが、陸上競技では、障がいの種類や程度などにより57のクラスが設けられている。例えば「T53C」の「T」は競技種目の分類で、走競技・跳躍競技を意味する。「5」は選手の障がいの種類や競技形式などを示している。ちなみに50番台は「脚長差、切断、関節可動域制限、筋力低下等の障がいのある車椅子や投てき台を使用する競技者」(日本パラ陸上競技連盟)に割り当てられる。「3」は障がいの程度を表し、軽度から重度まで0~9の番号が当てられる。最後の「C」は選手のクラス分け状況を表している。「N(New)」は過去クラス分けを受けたことがなく、競技前に受けなければならない選手、「R(Review)」はクラスが確定しておらず、再度クラス分けを受ける必要のある選手、「C(Confirmed)」はクラスが確定済みの選手を示している。パラリンピックなどの国際大会では、障がいの種類ごとに出場できる最小の障がい基準が定められており、この基準を満たさない場合、参加できないルールになっている。

パラアスリートのレジェンドたち
サラ・ストーリー(Bryn Lennon/Getty Images)

4. パラアスリートのレジェンドたち

パラリンピアンには、圧倒的な強さで多数のメダルを獲得している「レジェンド」が多くいる。世界のパラサイクリングを代表する存在のサラ・ストーリー(英)は、水泳選手として1992年バルセロナ大会から4大会連続出場し、金メダル5個、銀メダル8個、銅メダル3個を獲得。その後、自転車競技に転向してからも6個のメダルを獲得した。ロシアの孤児院で育ち、6歳のときアメリカに移住、15歳でパラリンピックに初出場した車いす陸上のタチアナ・マクファーデンは、2012年のロンドン大会で3個の金メダルを獲得。2013年の世界選手権では6種目すべてで金メダルを勝ち取る史上初の快挙を成し遂げた。さらに故郷のロシアで開かれた2014年ソチ冬季大会では、クロスカントリースキーの出場権も獲得。1kmスプリントで銀メダルをつかんだ驚異的な身体能力を誇る。レジェンドは日本にもいる。水泳の成田真由美はアトランタ、シドニー、アテネ、北京の4大会に連続で出場し、計15個の金メダルを獲得。圧倒的な強さから「水の女王」と呼ばれた。2016年リオデジャネイロ大会で8年ぶりにパラリンピック出場を果たし、話題になった。ほかにも車いすテニスで3個の金メダルを持ち、グランドスラム車いす部門で男子世界歴代最多計41回優勝の記録を持つ国枝慎吾や、日本人初のパラリンピック殿堂入りを果たした水泳の河合純一らがいる。

※画像:サラ・ストーリー(Bryn Lennon/Getty Images)

5. 有名漫画家が描くパラスポーツの世界がアニメに

東京パラリンピックが近づき、関心が高まるパラスポーツをもっと身近に感じてもらおうと、ショートアニメ・プロジェクトがスタートした。NHKが制作する「アニ×パラあなたのヒーローは誰ですか」は、日本を代表する漫画家たちがパラリンピック競技を題材に書き下ろした物語をアニメ化。想像を超えたスーパープレーや友情、逆境への挑戦などを描き、2020年に向けた新たなヒーロー像を表現している。アニメは、5分間の短編作品。気鋭のアーティストが提供したテーマ曲にも注目だ。現在「Episode1:ブラインドサッカー」「Episode2:パラ陸上競技」の2作品が、NHK BS1、総合、Eテレで放送中。作品ラインナップは今後も随時、増えていく予定だ。作品は「アニ×パラ」のウェブサイトからも視聴できる。http://nhk.jp/anipara

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6. 就職支援や奨学金、広がるパラアスリートへのサポート体制

2020年の東京大会に向け、障がい者選手に対する支援制度が少しずつ広がっている。障がい者スポーツの世界では、企業による支援を受けられるケースは非常に稀(まれ)で、パラアスリートにとって、練習時間や遠征費用などの確保が大きな課題になっていた。そこで期待を集めているのが、日本オリンピック委員会が2010年にスタートした就職支援事業「アスナビ」だ。健常者、障がい者を問わず、企業への就職を望むトップアスリートのエントリーシートやプレゼン動画などをウェブサイト上に掲載。興味を持った企業があれば、その企業の求人票をベースにマッチングを行っている。これまでパラアスリート32人を含む209人(3月5日現在)がアスナビを通じて採用されている。

また2020年の東京大会に向け、日本のパラスポーツ界を担う人材育成を目的とした「日本財団パラアスリート奨学金」制度も2016年にスタート。対象となるのは、パラスポーツの普及に貢献してきた日本体育大学グループの高校、大学、大学院に通う学生で、遠征費や競技用品の購入費、学費などを負担する。2020年までに計50人に対し、総額10億円を援助する計画だ。

走りたいと願うすべての人へ、「ギソクの図書館」が登場

7. 走りたいと願うすべての人へ、「ギソクの図書館」が登場

2017年10月、東京・豊洲の新豊洲Brilliaランニングスタジアム内に、「ギソクの図書館」がオープンした。大人も子どもも競技用義足を気軽にレンタルできる、ユニークなスペースだ。誕生の背景には、競技用義足のコストの問題がある。カーボン製の高性能な義足は、1本あたり数十万円。アスリートでも気軽に購入できない額だ。そこで、「走りたい」と願うすべての人が自由に競技用義足を使えるスペースを作るプロジェクトが発足した。競技用義足を開発する国内ベンチャー「Xiborg(サイボーグ)」が中心となり、アスリートや義肢装具士、義足ユーザーら有志が協力し合ってクラウドファンディングで資金を調達。様々な種類の競技用義足24本と、取り付けに必要なコネクタや膝継手などを用意した。利用は1回500円(別途施設利用料が必要)で、ウェブサイトから事前予約する。http://runforall.jp/

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