2024年に101歳でその生涯を閉じるまで染色家として活動を続け、海外での展示やインテリアブランド「IDÉE」とのコラボレーションなど、アートファンのみならず多くの人々を魅了した柚木沙弥郎(ゆのき・さみろう)。そんな彼の展覧会「柚木沙弥郎 永遠のいま」が「東京オペラシティ アートギャラリー」で開催されている。
コロナ禍をきっかけに多くの人たちがライフスタイルを見直したことで始まった「民藝ブーム」もあり、いまや柚木沙弥郎の作品や人物像、経歴について、全く知らないという人は少なくなってきただろう。しかし、改めて振り返っておくと、1922年生まれの柚木は、父親・久太が洋画家だったことから美術への関心を抱き、現在の東京大学にあたる東京帝国大学文学部美学・美術史科に入学。だが、太平洋戦争の開戦により、わずか1年足らずで学徒動員となった。
戦後は「大原美術館」への就職が決まり、初代館長・武内潔真(たけうち・きよみ)の影響で、柳宗悦らが提唱した民藝思想に関心を持つようになる。その後、館内に飾られていた芹沢銈介の型染めカレンダーに魅了されたことをきっかけに、染色家の道を志した。
柚木の展覧会はこれまでも各地でたびたび開催されてきたが、今回の展覧会はその切り口が少し異なる。大判の作品を並べて創作の歩みを振り返るといった方法ではなく、ゆかりの地や地域とのつながり、各国で収集した愛蔵品、さらには染色以外の多様な表現や仕事を通して作品を紹介している点が興味深い。
日々を慈しむ姿勢が現れたデザイン
柚木の作品が愛らしく、どこか懐かしい印象を与えるのは、彼が選ぶモチーフが身の回りのものにあるからだろう。それがたとえ田園風景や、春を待つ植物たちの根の様子、あるいは通り抜ける風のように、型染めでは表現が難しそうな題材であっても彼はそつなく軽やかな形とイメージに仕上げていく。
そうして生まれるイメージは、何かを識別したり区別したりするために描かれたものではない。だからだろうか、ときに柚木の作品は、国籍を持たない旗のようにも見える。
今回の展示でとりわけ興味深いのは、晩年の作品だろう。それらは、長年の染色の仕事で培われた技術が凝縮され、もはや完成までに少しだけ手を加えるだけで十分という域に達しているのだ。
生涯を終える2カ月前に制作されたコラージュ作品は、晩年のマティスがたどり着いた切り絵の境地を思わせる。色や形、フォルムを通して「生きるよろこび」を生涯追い求めた柚木にとって、その作品はまさに人生の終着点といえるだろう。
日常使いしやすいグッズ
展覧会を後にしたら、ショップにも忘れずに立ち寄りたい。ティッシュケースカバーやブックカバー、ソックス、手拭いなど、同展のオリジナルグッズが多数展開されている。
柚木の染色以外の仕事を網羅的に紹介する同展では、彼が人生の中でどのような影響を受け、何を大切にしてきたのかが垣間見ることができる。これまでに柚木の展覧会や作品を見てきた人でも、毎回新たな発見がある作品のすごみを体感しに、足を運んでほしい。
関連記事
『アートで東京を育む国際芸術祭「東京ビエンナーレ2025」が開幕』
東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら

