ニュース

悪天候でも延べ9000人以上が来場、「台熊祭々 2025 in 合志市」をレポート

小さな交流が大きな輪へ、台日交流の種をまくには

テキスト
Kosuke Hori
Editorial Assistant
台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi | 台湾からの事業者の集合カット
広告

「また来年も熊本でみんなと会いたい」。そんな声が台湾の事業者から聞こえた3日間だった。

2025年5月17・18日に開催された、日台文化交流イベント「台熊祭々」。主催は台熊祭々実行委員会で、熊本県、合志市、菊池市、大津町、台北駐福岡経済文化弁事処(台湾領事館)、株式会社くまもとDMCと、昨年以上に地域からの後援が増えた。イベントのプロデューサーは、「タイムアウト東京」を運営するOriginal Inc. 代表の伏谷博之と、台湾のメディア「初耳/hatsumimi」の代表であり、自身も台湾のスペシャリストとして知られる小路輔が務めた。

台湾からは、熊本初上陸を含む11のブランドが参加。イベント前日には、昨年と同様に、台湾の事業者と地元の事業者との交流会も実施された。交流会を含む全3日間に帯同したので、その様子をレポートする。

阿蘇の自然とその恵みについて知る

5月16日、「阿蘇くまもと空港」には、台湾からの事業者が続々と集まっていた。ただ昨年と違うのは、ほとんどの事業者たちが前乗りして、熊本はもちろん福岡などを観光していたこと。昨年に引き続きの参加となったジャムブランド「Keya Jam 柯亞果醬」やフードユニット「木耳 Muer.」などは、日本側のスタッフとの再会を喜んでいたのが印象的だった。

阿蘇くまもと空港を出発し、交流会の始まりとなる「夢・大地グリーンバレー」へ。山道を5分ほど登った場所で、熊本県のブランド牛「あか牛」や、阿蘇で育てられた野菜によるバーベキューが予定されていた。特別に用意されたバーベキュー会場へと向かう道中、施設のスタッフが「阿蘇の美しい緑を保全するために野焼きをしている」「阿蘇という土地は九州の水資源を支えている要所」などと、説明をしながら歩いて行く。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi阿蘇の緑の保全活動について説明を受ける様子

バーベキュー会場へ到着すると、はてしなく広がるかのような新緑の草原と、大きな肉やピチピチと新鮮な野菜、美しい網目のメロンなどの食材に、一同は感嘆の声を上げた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimiバーベキューの様子。阿蘇で採れた食材が並ぶ

バーベキューの感想を尋ねてみたら、「阿蘇産のミニトマトの味が濃厚かつ甘く、とにかくおいしい」と、Keya Jam 柯亞果醬のケヤ(柯亞)は語った。「あか牛と用意された塩やソースによるマリアージュが素晴らしいですね」といった味への感想に加えて「自然を守るための活動を学んだ後に、阿蘇の自然の恵みをいただくのは特別な経験になりました」という木耳 Muer.のスタッフによるコメントからは、感慨深さが伝わってくる。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimiバーベキューの様子

バーベキュー会場を後にし、全国の企業が集まるサテライトオフィス「アソアンドコー(ASO&Co.)」に到着。ここでは、阿蘇の草原を守る取り組み「阿蘇草原再生プロジェクト」について説明を受ける。

それに加え、「懐の深い土地の力強さと人々の共生」をイメージした阿蘇の香り「SO-GEN ASO」のアロマミストやブレンドオイルなど、アロマ調香師の斎藤智子による、地域独自の素材を生かし、香りを通して47都道府県の魅力を発信するプロジェクト「47 SCENTS OF JAPAN」とコラボレーションした香りを試せた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi阿蘇をイメージした香りを試している様子

アロマミストやブレンドオイルの売上の一部は、阿蘇の草原保全のために寄付される仕組みだ。「みずみずしくて、とてもいい匂いです。阿蘇の記憶を持ち帰ることができ、そしてそれが美しい平原を守る活動につながるのが素晴らしいですね」と、台湾のセレクト雑貨を販売する莉婷⼦ ritecoは語った。

また、イラストレーターのWHOSMiNGは、「先ほどまで食事していた阿蘇の美しい自然を想起させるような香りです」と感想を話してくれた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi

次に、熊本県庁へと移動。熊本の自然災害についてのレクチャーや、断層の剥ぎ取り標本の展示で、地震の前後での変化についての説明を受けた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi自然災害についてのレクチャーを受ける様子

飲食に関わる事業者が多いからか、災害時の非常食について興味深そうに手にする様子が印象的だった。台湾茶のブランド「有種茶 U Chung」のスタッフは、「ここで学んだ防災への意識や知識を台湾へ持ち帰り、故郷の家族や友人へと伝えたいです」とコメントを寄せた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi断層の剥ぎ取り標本の前でも説明を受けた

事業者ツアーの最後は、熊本市内のおでん店「おでん屋 小坊主」で、おでんや焼き鳥に舌鼓を打つ。徐々に会話が盛り上がっていき、アテンドしていた初耳のスタッフや事業者同士の交流は深まっていった。

翌日からのイベントへの抱負を「穗穗念・台湾⼀⼝の⾵⼟ Taiwan’s Terroir in a Bite」のスタッフたちに聞いてみると「とにかく楽しみたいですね。楽しむ気持ちが大事だと思っています。前乗りして熊本に住んでいる友達のお店に足を延ばしたのだけれど、その友達が訪ねてくれる予定だから楽しみです」と答えてくれた。

そして夜が深まる前に、一同はイベントへの期待を胸に、ホテルへと戻っていった。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi「夢・大地グリーンバレー」での集合カット

安定しない天気をものともしない笑顔

イベント初日の朝、雲行きは怪しく風が強く吹いていた。台湾からの事業者たちは設営のため、8時前には会場の「熊本県農業公園カントリーパーク」に到着。互いのブースの設営を手伝う様子や、日本の運営スタッフとともに作業をしている様子がほほ笑ましかった。

「穗穗念・台湾⼀⼝の⾵⼟ Taiwan’s Terroir in a Bite」のスタッフに天候について話を聞くと、「台湾も天候が安定しないから、そこまで不安に思っていません」と、その表情は明るい。ブース設営を手伝う初耳代表の小路へイベントへの意気込みを聞いてみたところ、「雨予報ですけど、午後にはましになると聞いています。明日もあるので、今日から2日間いい日になるといいですね」と意気込みを寄せた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi穗穗念・台湾⼀⼝の⾵⼟ Taiwan’s Terroir in a Bite

イベント開始時刻の9時。天候が不安定なのにもかかわらず、イベント会場に合わせて来場した人たちの姿がちらほらと見られる。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi初日来場者の様子

ゲートから程近くのKeya Jam 柯亞果醬に、今年はどんな商品を持ってきたか聞いてみると、「イベント初開催の時は熊本県産のミカンを使ったジャムを用意したのですが、台湾の果物を使用したジャムに興味を持つ人が多かったので、今年はグァバのジャムを多めに持ってきました」と、ブースにいた通訳スタッフに教えてもらう。

なんとこの通訳スタッフは、昨年の同イベントを訪れて知り合った熊本在住の台湾人で、2日間通訳を買って出てくれたのだという。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimiKeya Jam 柯亞果醬

隣のブースでSDGsに配慮した食品を販売していた木耳 Muer.も、昨年の事業者ツアーで知り合った合志市のカフェ「ジッカ(Jicca)」で、台熊祭々初日の夜に開催されたイベント「台湾Night」で、コース料理を提供することが急きょ決定していた。昨年まいた交流の種が、すでにここで花開いていたのだ。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi木耳 Muer.

大阪にも店舗を構える「神農生活」は、昨年出店した際の来店者の要望を受けて、グリーンピースのスナック(マーラー味・にんにく味)などの菓子や月餅をはじめ、スイーツを増やしたという。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi神農生活

cofe × 土生土長」は、用意していた「台湾ヌガーサンド」が初日の正午前には売り切れてしまったという。ヌガーサンドの「紅玉紅茶」という味を運良く試食させてもらっていたのだが、香り高い紅茶の香りと甘さのバランスが非常によく、何枚でも食べられそうな後引く味わいだった。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimicofe × 土生土長

ヨガイベントが行われた後、13時から行われたオープニングイベントでは、「台熊祭々実行委員会」の委員長と合志市長、菊陽町長によるあいさつが行われた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimiヨガイベント

合志市長の「私、晴れ男なんです。今までの『雨男』という汚名は返上させていただきます」という発言の直後に豪雨になるハプニングがありつつも、会場は笑いと温かい空気に包まれ、2日間の穏やかな成功を暗示するようだった。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi菊陽町長(左)と合志市長

14時には「くまモン」によるショーが行われ、合志市のキャラクター「ヴィーブルくん」と大津町の「からいもくん」も参加。ブラックユーモアも交えつつ、雨を吹き飛ばすような盛り上がりを見せた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimiからいもくん(左)、くまモン(中央)、ヴィーブルくん(右)

初耳スタッフが声をかけて出店した熊本の「八景水谷ベイク」は、台湾カステラを販売するショップ。台湾からの事業者たちは、カステラはもちろん、「餅パイ」が絶品だと口々に声を揃えていた。イベント終了の1時間前には、「スフレカステラミニ」が完売。「台湾の出店者たちの陽気な雰囲気のおかげで楽しめました」と、スタッフが感想を寄せてくれた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi八景水谷ベイク

イベント初日はあいにくの天候にもかかわらず、普段の雨の日とは比べものにならない人数が来場したという。明日への期待がさらに募る初日となった。

イベント外の交流から生まれた「台湾Night」

イベントの初日の夜、会場から車で15分ほどのカフェ・ジッカでは、木耳のスタッフとコラボレーションしたイベント・台湾Nightが開催された。

同イベントは完全予約制で、20食限定で台湾夜市風の定食6品が提供されたほか、台熊祭々の会場でも販売する台湾茶やハーブティー、酒など、木耳のシェフがプロデュースする商品を提供。地元の人を中心に予約は埋まり、ランタンのほのかな明かりが照らす店舗外観と同じく、じんわりと温かい空気に包まれていた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi「台湾Night」の様子

ジッカのスタッフによると本イベントは、木耳のシェフから「台熊祭々で再び熊本を訪れる」と連絡が来て、約2週間ほどで準備が進められたという。台熊祭々で知り合い、今日のイベントにつながった今、どんな気持ちか聞いてみたところ、「率直にとてもうれしいですね。シェフの丁寧で優しい人柄が料理に出ていると思うので、堪能してほしいです」と語ってくれた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi「Jicca」スタッフ(左)と木耳 Muer. スタッフ

まさにイベントが掲げる、「Local to Local」というコンセプトが実現した好例だといえる。イベント本編に関係なく、こうして台湾と熊本をつなぐ小さな輪が今後も広がっていくことを願う。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi調理中の様子

一転して天気が安定した2日目

昨日の雨も落ち着き、曇りながらも天気が安定していた2日目。初日以上にまとまった人数が開場直後に来場してきた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi

会場の様子を見て回る小路に話を聞くと、「雨の日としては、昨日は多くの方が来場してくれました。今日はいつもの『台熊祭々』になればいいですね」と、リラックスした趣きで返してくれた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi「初耳/hatsumimi」スタッフのDayday(左)と代表の小路輔

厳選した台湾の雑貨やオリジナル商品を販売する莉婷⼦ ritecoのブースを訪ねると、「晴れたから、今日は外に商品を陳列しています。来場者のテンションも高くて、昨日以上に良い雰囲気です」と笑顔を絶やさない。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi莉婷⼦ riteco

台湾夜市のスペシャリスト、三文字昌也がメンバーとして名を連ねる合同会社「流動商店」がプロデュースする「台湾夜市遊技場 by 流動商店」は、設営を初耳と現地企業のサンコーライフが行い、無料で体験できる輪投げやピンボールなどのゲームの運営も持ち回りで行っていた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi台湾夜市遊技場 by 流動商店

「台湾現地の夜市のアクティビティをここまで再現している場所は、日本ではきっとないはずです」とは、台湾に関するオンラインマガジン「たいわん一年生」の編集長でインフルエンサーのkeiko在台灣の談だ。

景品は、台湾で朝食を包むために用いられる紙袋。イベントに出店している熊本の事業者が台湾気分を味わうために試しにやってみたいと遊びにきたり、子どもたちが輪投げやピンボールを楽しみつつも真剣に挑戦したりと、世代を問わず夢中になる姿が印象的だった。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi台湾夜市遊技場 by 流動商店

正午からは、じゃんけん大会が開催。「シートウ(グー)」「ジェンダオ(チョキ)」「ブー(パー)」という台湾での呼び方の説明をしてから、会場で参加者を募る。勝ち抜いた10人には、チャイナエアラインから豪華な景品が用意されたほか、さらに10人に初耳が選んだ台湾の菓子が手に入るリベンジマッチが行われた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimiじゃんけん大会の様子

イベントも佳境に差し掛かった。

茶とウイスキーのフレーバーを掛け合わせた台湾茶などを販売していた有種茶 U Chungに初出店の感想を尋ねると、「熊本の方々に自分たちのお茶を紹介できてうれしいです。今回の訪日で農家の方と交流することもできて、台湾と日本の違いも知れました。また日本ではお茶を使ったデザートなど、いろいろな活用方法で広めているのが分かったので、自分たちも取り入れたいと思っています」と、熊本での滞在が充実していたことがうかがえた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi有種茶 U Chung

グラミー賞にノミネートされたこともあるイラストレーターのWHOSMiNGは、Tシャツやトートバッグなどのグッズ販売に加えて、似顔絵を描くサービスも実施。2日間で約100人を描いたそうだ。熊本の人たちと交流が持てたことの喜びと、事業者ツアーで訪れた阿蘇の雄大な自然が目に焼きついていることを話してくれた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimiWHOSMiNG

ピュアな思いは国境を超える

台湾でもここまで豪華な出店者が揃うことはないと、台湾のエキスパートであるkeiko在台灣が評するような2日間。イベントの総括として、伏谷と小路は「地元の企業や小規模な事業者が直接つながり、『小さな経済』が生み出され、イベントとは関係のない場所でも交流を持つことで、番外編のようなイベントが生まれていってくれたらうれしいですね」と、今後の展望を語った。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumimi

3日間、台湾からの事業者たちに密着して感じたのは、ものづくりに対してピュアな情熱を持っていること、そして、その魅力を伝える方法を真剣に考え工夫していることだった。

ソーシャルメディアを駆使したり、ZINEを作ったり、パッケージを若い世代が手に取りたくなるようなデザインにしたりと、当たり前に感じることを積み重ねることで、幅広い人に伝わるのだろう。そして純粋な思いは国境を超え、こうして熊本でも受け入れられ、さらに広まっていく現場を目の当たりにすることができた。

台熊祭々
画像提供:初耳/hatsumim木耳が販売するアイテム。デザインにも力を入れている

来年もまた、ここ熊本で。互いの文化を知り、ともにより良い未来を作っていくきっかけとなるような「台熊祭々」の次の開催が、終わったばかりの今から待ち遠しい。

関連記事

台日交流イベント「台熊祭々 in 合志市」の出店者ラインアップが決定

5月から7月に行くべき台湾イベント5選

東京、台湾朝食7選

日台交流イベント「台熊祭々 2024 in 合志市」イベントレポート

東京、5月に行くべきアジアフェス5選

東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら

最新ニュース
    広告