HE∀DS
Photo:八木咲UCARY&THE VALENTINE

収益は寄付やアーティストに還元、新パーティー「HE∀DS」

ヘアスタイリスト森田康平とデザイナーsemimarrow、音楽家のMiru Shinodaが立ち上げた「HE∀DS」

Rikimaru Yamatsuka
テキスト:
Rikimaru Yamatsuka
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可能性を感じる瞬間というのがある。現時点において社会的もしくは経済的に大成功を収めているとは言い難いし、まだまだ荒削りで未完成なのだけれども、みずみずしいフレッシュさと卓抜したセンスが滲んでいて、『これはそう遠くない将来、きっと何かミラクルを起こすだろう』と思わせるようなものに、ときたま出くわす。

それは若手ロックバンドのライヴだったり、新人漫画家の初連載作だったりするわけだけれども、2023年4月上旬に渋谷の「タイムアウトカフェ&ダイナー」で行われた「HE∀DS IN TIMEOUT」も、まさしくそんなイヴェントであった。

HEADS IN TIME OUT
HEADS IN TIME OUT

やさしいってイケてる

ヘアスタイリストの森田康平とデザイナーのsemimarrow、音楽家のMiru Shinodaが立ち上げたチーム「HE∀DS」による記念すべき初のパーティーだったのだが、このチームの目的はずばり、「共助」そして「共益」だ。イヴェントは収益をスタッフと参加者にきちんと還元し、残りはすべて寄付にあてるというコンセプトなのである。

こうした社会的理念にもとづく共同体というのは、えてしてシリアスになりがちだ。断じてそれが悪いといっているのではないが、そうしたシリアスさはともすれば敷居の高さを感じさせたり、ある種の緊張感をはらませてしまうこともある。だがこのパーティーにはそういうフンイキはまったく見受けられなかった。カッコよくて面白くてさりげなくて新しくて、そして何より親しみやすさがある。  

ITARU UCHIMURA
Photo:八木咲ITARU UCHIMURA

「ノー・ミュージック、ノー・ライフ」という有名な格言があるが、僕はむしろ「ノー・ライフ、ノー・ミュージック」、生活から文化は成り立っていると思う。生活というのはつまり、ご飯を食べたり洋服を着たりするということだが、HE∀DSはキチッとそこに焦点を当てている。 本イヴェントはDJ、LIVE、アート展示を行う一方で、Tシャツを販売し、さらには「キキ ハラジュク」というレストランのスタッフを召集して料理とワインを提供していた。

キキ ハラジュク
Photo:Time Out Tokyoキキ ハラジュク

同レストランはミシュランと同等の影響力を持つレストランガイド『Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)』に2年連続掲載されるほどの名店だそうだが、こうしたイヴェントでこれだけハイグレードなフードが振る舞われるというのはひじょうに珍しいと思う(僕は巻き寿司をいただいたのだがうますぎてウケた。本当においしいものというのは食べた瞬間ちょっと笑ってしまう)。

調理している様子
Photo: 八木咲調理している様子

そういったコンテンツが渾然一体となった会場は、ほがらかなムードに満ち満ちていた。まったく何というイヴェントだろうか、ステキな音楽を聴いておいしいご飯を食べてアートを鑑賞すると誰かのためになってしまうという虫の良さ。そんな虫の良い話があっていいのだろうか。いいに決まってんじゃん。

そこにはLOVEがあった

この日ライヴ出演していたUCARY&THE VALENTINEが『イッツ・ア・スモール・ワールド』の日本語カヴァーを演っていたのだが、まさしくこの楽曲がぴったりくるような大変なピースフルぶりだった。窪塚洋介の名言に『ピースな愛のバイブスでポジティブな感じでお願いします』というのがあるが、HE∀DSはまさしくそれを実践していると思う。

UCARY&THE VALENTINE
Photo:八木咲UCARY&THE VALENTINE

音楽面のみをフォーカスしてみても、前述したUCARY&THE VALENTINEはもちろん、ITARU UCHIMURAのきめ細かい上質なフォークソングやMiru Shinodaのサグいプレイ、ヴァイナルオンリーでさまざまな景色を紡ぎ出すAKIMの魔術的DJなど、とにかくヴァラエティが豊かだしクオリティも高い。

会場の様子
Photo: 八木咲会場の様子

子連れのファミリー層の姿もちらほら見受けられたが、老若男女問わず楽しめる間口の広さがある。これは神に誓ってディスとかではなく、良い意味で、まったくドープな空間ではなかった。ドープの度合いというのは靴のサイズのようなもので、単なる属性に過ぎず、つまりはパーティーの質とは全く関係ない。『ドープであればあるほど良いんだ』という考え方は、カレーは辛ければ辛いほど良いとか、酒はアルコール度数が高ければ高いほど良いというのに似ている。

未完成であるがゆえのワクワク

初回ゆえか決して満員大入りとは言い難かったけれども、訴求力や満足度は高かったと思う。パーティーが満員大入りになったとき、世の中はほんのちょっと良くなるような気がする。とかく目まぐるしすぎる世の中で、HE∀DSは社会について考えるきっかけを、豊かな時間とともに提供しようとしている。

アートやカルチャーに何かを期待するというより、アートやカルチャーが何を期待しているかを考えている感じがする。究極的にいって文化芸術というのは『生きていてよかった』と思わせる力である。「よりよい社会をつくろう」なんていうと、青臭いとかそんな簡単な問題じゃないとかいう人間は山ほどいる。

アート作品の展示も
Photo:八木咲アート作品の展示も

だがHE∀DSはほがらかな笑みと確かなセンスでもって、すべての問いの下にある基本的な問題・LOVEについて真剣に取り組んでいる。それはまだ、荒削りで未完成かもしれないけれど、だからこそ、何かがはじまったときのワクワクに満ちている。 ケルト神話で『世界でもっとも美しい音楽は何か』を議論する話がある。英雄たちが次々に意見を述べてゆくのだが、最後の者が『何かが起きたときの音が、世界でもっとも美しい』といい、それが満場一致で可決されるのである。

これからもHE∀DSの動向に耳をすませてゆきたいと思う。何かが起きたときの音を聴くために、ピースな愛のバイブスでポジティブな感じで。

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