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5月31日まで、下北沢のレストランやショップでもコラボレーションを実施

写真家・映画監督の蜷川実花が、かつて10数年を過ごし、「ホーム」と呼ぶ下北沢に帰ってきた。蜷川の軌跡をたどるアーティストブックの刊行を記念した展覧会「mirror, mirror, mirror mika ninagawa」が「DDDART」の「苑」で、2026年3月13日(金)から5月31日(日)まで開催されている。
彼女の創作の根幹にある「破壊、再生、また破壊」という循環を、古民家という日本の伝統的な生活空間で体感できる貴重な機会だ。
会場に足を踏み入れると、そこは美術館のホワイトキューブとは対極にある、生々しい「生活の場」の記憶が漂う空間が広がる。まず目に飛び込んでくるのは、畳や白壁に直感的に走る赤いペインティングだ。
下北沢の地で長い時を刻んできた建物への介入は、まるで空間そのものを「破壊」し、新たな命を吹き込む儀式のようにも見える。美術館では決してできなかった大胆な表現が、ここでは存分に解き放たれていた。
頭上には、2メートルを超えるシャンデリアのようなオブジェがつるされ、ビーズやガラス玉がきらめきを放つ。一方で縁側では、ガラスに施された花のイメージが太陽の光を透過し、極彩色の影を畳に落とす。
南側の障子から差し込む柔らかな光が、蜷川独特のカラフルな色を照らし出す様子は幻想的だ。日本家屋特有の「光と風の空間」を、見事に自身の表現に取り込んでいる。
床の間には、高さ約65センチほどのアクリル製キャビネットが今回刊行されたアーティストブックの特装版として展示されていた。祭壇をイメージして作られたこのキャビネットには、アーティストブックのほか、ステッカーやコラージュなど蜷川がセレクトした追悼や記憶にまつわるアイテムが収められている。ただし一つだけ、壊さないと永遠に開けられない引き出しがあり、破壊の先に再生があることを示唆しているようだった。
会場の動線の演出も見逃せない。玄関から空間の奥へと誘うように、一つ一つに写真がプリントされた5×3センチメートルほどの小さなアクリルブロックが目線の高さで整列し、障子の格子に収められて展示されている。まるで蜷川がこの街で過ごした日常の断片が凝縮され、彼女の記憶のかなたへと続いているかのようだ。
古民家の庭から緑のトンネルを抜けるとショップがあるので、見逃さないでほしい。展覧会と同時に刊行されたアーティストブック『mirror, mirror, mirror mika ninagawa』のほか、さまざまなグッズを手に取って見られる。
展覧会と同時に刊行されるアーティストブックは、書籍の概念を根底から覆す革新的な代物だ。風呂敷に包まれ、リボンで結ばれているこの本の驚くべきはその中身で、中とじもなく、大・中・小などの7冊の冊子をリボンで束ねているだけである。
ページの多くは折りたたまれ、さらにリボンで束ねられているため、意図的に写真作品の全体像が見えないよう作られている。しかし、だからこそページをめくる度に2つの写真作品が組み合わされ、新たな作品として姿を現すのだ。
また、とじられていないので読者が自分でページを差し替え、順番を入れ替えることで、本そのものを「破壊・再構築」できる仕掛けにもなっている。蜷川の中学時代の絵を印刷したポストカードや、ページ間に不意に挟まれたステッカーなど、どこから何が飛び出すかわからない「宝箱」のような書籍。スタッフが一つずつ手作業で包んでいるという執念も含めて、AI時代とは真逆の触覚的体験ができる。
また、アーティストブックを包む外側のカバーの用紙は予想外に薄く柔らかい。そこに穴を開け、リボンを通し全体を包んでいるので、開いて読むたびに破けそうな危うさがある。デザイナーの秋山伸と作り上げたこの「意図された経年劣化」は、壊れることさえも美として循環させているようだ。
ショップには書籍のほか、バッグやスノーボードまで多彩なグッズが並ぶ。新作としてレリーフが施された丸い卓上鏡(1万1,000円、以下全て税込み)や、お守りのようなキーチェーン(2,200円)なども販売。また、「ヴィレッジヴァンガード下北沢店」「マジックスパイス 東京下北沢店」「Patisserie Kozu(パティスリー コウヅ)」といった下北沢の顔ともいえる店舗ではスタンプラリーも実施し、街全体に展覧会が拡張している。
蜷川は、展示に寄せて次のように語っている。
「10数年住んでいた下北沢には思い入れがある。乳飲み子を抱えながらの日常生活と創作がマーブル状に入り乱れていたし、コロナ禍や家庭内のいろいろな問題を乗り越え、駆け上がった思い出がそこかしこに染みついた街。
そんな、他とは違う特別な場所である下北沢で展覧会を開催できることになり、なんだかとても感慨深い。大きな美術館での展示とは違う、手作りで、実験的で、カオスな商業的ではない展示に。10数年過ごしたエネルギーが垣間見える展覧会になっていたらいいなと思ってます。」(本文ママ)
彼女の記憶と創作が重なり合う特別な場所で、訪れる人自身が「破壊、再生、また破壊」を体感できる貴重な機会を、ぜひ味わってもらいたい。
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