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非合理を設計するアーティスト・尾崎勝が挑む「リアル」とは

12月23日まで、日本橋の「ギャラリー 4751」で開催中

Kaoru Hoshino
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Kaoru Hoshino
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CONTINUE MASARU OZAKI
Photo: Keisuke Tanigawa | アーティストの尾崎勝
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さまざまな手法で「リアル」の定義を問い直すアーティスト・尾崎勝の展覧会「CONTINUE MASARU OZAKI」が、2025年12月23日(火)まで日本橋の「ギャラリー 4751」で開催中。尾崎はこれまで、精密なプロジェクションマッピングを彫刻に重ねる「光の彫刻」シリーズや、「2025年日本国際博覧会(以下、万博)で話題になった巨大なネギの彫刻など、多様なメディアを用いて知覚のプロセスを揺さぶる作品を発表してきた。

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Photo: Keisuke Tanigawa「アーケードシリーズ」の作品群

本展は、吉本興業が万博に出展したパビリオン「よしもとwaraii myraii館」内での展示で人々にインパクトを残した「アーケードシリーズ」を中心に、尾崎の思考や発想へ別の角度から迫る作品群が並ぶ。作品を通して彼が一貫して追い求めてきた「リアル」とは何か、その問いを起点に、尾崎の実践を体系的にたどれる構成となっている。

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Photo: Keisuke Tanigawa展示風景

前提をずらす装置

ギャラリーの1階は、ほの暗い空間にレトロなアーケードゲーム機が並び、まるでゲームセンターのようだ。ここに、よしもとwaraii myraii館で発表された「アーケードシリーズ」の作品群が配置されている。

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Photo: Keisuke Tanigawa展示風景

一見すると普通のゲーム機だが、ボタンを押すと「ボタンを押さないでください」と表示されたり、あるはずのレバーが存在しなかったりと、操作の前提が意図的に裏切られる。これにより、行為から意味が取り払われ、目的を失った動作だけが宙づりにされた空間に鑑賞者は取り残される。

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Photo: Keisuke Tanigawa『LiMiNAL』の画面
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Photo: Keisuke Tanigawa『PUSH START BUTTON』

その先に浮かび上がるのは、行為そのものが浮き彫りになる感覚、そして第三者の視点から自分を見つめているような感覚だ。尾崎は、この体験について次のように語る。

「作品を作る時、僕はあえて『前提をずらす』ことを意識しています。家路に就いた後も、何かが心に残ってしまう。そんなふうに、体験した後に遅れて感覚や意味が追いついてくる時間そのものを彫刻している感覚があります。僕はそれを『遅延彫刻(Delay Sculpture)』と呼んでいます」

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Photo: Keisuke Tanigawa尾崎勝

私たちが無意識のうちに設定している前提と、目の前の状況が食い違った時、その違和感にどう反応するのかが作品から問われているのだ。

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Photo: Keisuke Tanigawa展示風景

世界最小のプロジェクションマッピング

2階では、尾崎のこれまでの作品が展示され、彼の思考の痕跡をたどることができる。部屋の隅に控えめに置かれているのは、プロジェクションマッピングのパイオニアと呼ばれる、尾崎の真骨頂ともいえる世界最小のプロジェクションマッピング作品『JUST AROUND THE CORNER』だ。

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Photo: Keisuke Tanigawa2階の展示風景

同作は、ガラスの中の彫刻に雨が降る様子が映し出されているが、不思議なことに光源が見当たらず、まるで本当にガラスの中で雨が降っているように見える。この作品に仕掛けられた繊細な効果は、光の見え方そのものを設計する構造を、長い時間かけて磨き上げることで生み出された。

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Photo: Keisuke Tanigawa『JUST AROUND THE CORNER』

さらにネジを隠すために日本の寄木細工や「からくり」の伝統工芸の技法を取り入れるという、徹底したこだわりが貫かれている。その全ては、鑑賞者に「どうやって動いているんだろう?」という純粋な違和感を持たせるためだ。

さらに驚くべき秘密は、雨の線や滴り落ちる雨粒が、尾崎自身の手描きであるという点である。

「最初は、雨は物理計算で作れるとなめていました。でも、何万回計算しても思い通りの雨にならなかったんです。ある時、土砂降りの雨の中に傘もささずに出て行った際に『風のうねり』や『乱気流』を捉えていなかったんだと気付きました。すぐにスタジオに戻って、雨の軌道を鉛筆で描き直しました」と尾崎は語る。

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Photo: Keisuke Tanigawa尾崎勝

現実の物理法則を忠実に再現するのではなく、あえて手描きの「ゆらぎ」を混ぜることで、彼が追求する「記憶の中にある美しさ」に近づくのだという。

この考え方は、夕日のような複雑な色の光が彫刻に差し込むプロジェクションマッピング作品『NOT FOR SHADOWS』でも貫かれている。作品に差し込む光は、光源からの光を単純に投影したものではない。「反射した太陽光が建物とどのように影響し合うのか」を追求し、アクリル絵の具で描いた数十枚の絵を用いて探求された映像である。

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Photo: Keisuke Tanigawa『NOT FOR SHADOWS』
尾崎は、不合理な自然を作り出すことの意味を次のように話す。「手で作った方が美しいと感じる人がほとんどなんです。それは、『思い出の美しさ』に近いものの正体でもある。時間が介在することで、美しさは後からじわじわと感じられるものになる。そこに僕は注目しています」
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Photo: Keisuke Tanigawa『COSMIC SYNC』

意味はあえて余白にする

尾崎が一貫して追い求めるのは、現象の背後にある感覚や気配を作品化すること、そして私たちが無意識に受け入れている「リアル」の定義を根底から問い直すことだ。論理的思考や、すぐに答えを出すことが求められている現代社会において、尾崎の作品はあえて「不合理」を追求し、その先にあるゆったりとした豊かな時間を感じさせてくれる。

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Photo: Keisuke Tanigawaアーティストの尾崎勝
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Photo: Keisuke Tanigawa『LEEKS PROPPED UP AGAINST A WALL 7』
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Photo: Keisuke Tanigawaまるでゲームセンターのようなギャラリーの外観

彼の作品を体験した後、世界が少し違って見えるとしたら、それは、私たちが普段意識しない「前提」のずれを介して鑑賞者自身の経験と感覚が呼び起こされた証だろう。

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