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カンヌ国際映画祭2026、注目するべき出品作10選

日本人監督や俳優が関わる話題作も

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Phil de Semlyen
Kaleem Aftab
翻訳:
Atsushi Tonosaki
‘I See Buildings Fall Like Lightning’
Photograph: Curzon Film | ‘I See Buildings Fall Like Lightning’
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2026年のカンヌでは、ハリウッド勢がやや存在感を欠いているようだ。開催中の世界で最も有名な映画祭「カンヌ国際映画祭」に、超大作級のハリウッド作品は一本も姿を見せていない。

とはいえ、この映画祭はもともと、世界各地のインディペンデント映画の健全さを映し出す、格好のバロメーターでもある。そして昨年のラインアップを見れば、その活気は今も健在だ。

『センチメンタル・バリュー』『SIRAT シラート』『シンプル・アクシデント/偶然』『落下音』『シークレット・エージェント』は、カンヌでプレミア上映された作品のほんの一部に過ぎない。しかし、いずれも観客を魅了し、数カ月後にはアカデミー賞レースを巡る議論の中心となった。

今年は、『哭声/コクソン』のナ・ホンジン、『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介、『エリザベート 1878』のマリー・クロイツァー、そしてイランの名匠アスガル・ファルハーディーらが新作を携えてカンヌ入りしている。ここでは、出品作の中から見逃せない10本を紹介する。

The Dreamed Adventure
Photograph: CannesThe Dreamed Adventure

『The Dreamed Adventure(英題)』

監督:ヴァレスカ・グリーゼバッハ

ドイツ人映画監督のヴァレスカ・グリーゼバッハが、『ウェスタン』で高い評価を集めた、あの禁欲的でじっくりとした演出スタイルとともに帰ってくる。舞台は、ブルガリア、ギリシャ、トルコが交わる霞んだ国境地帯。ある女性が旧知の人物を助けることに同意したことをきっかけに、彼女はゆっくりと、そして後戻りできない形で、道徳的に曖昧な領域へと引き込まれていく。

出演者にはプロではない俳優を起用。風景そのものが登場人物のような存在感を放ち、多くの映画で脚本が担う役割を、ここでは沈黙が雄弁に引き受ける。筋立てはスリラーでありながら、語り口はどこまでも詩的だ。

Gentle Monster
Photograph: Cannes Film FestivalGentle Monster

『Gentle Monster(原題)』

監督:マリー・クロイツァー

マリー・クロイツァーの『エリザベート 1878』は、時代劇でありながら驚くほど現代的な感覚を備え、フェミニズム映画の新たな古典として高く評価された。だからこそ、フランス映画界を代表する俳優であるレア・セドゥとカトリーヌ・ドヌーヴを主演に迎えた今作には、大きな期待が集まっている。

描かれるのは、まったく異なる人生を歩む二人の女性。そんな彼女たちに共通するのは、秘密を抱え、それを明かしたがらない男たちの存在だ。ルーシーは田舎で新たな人生を始めるためにキャリアを犠牲にしたピアニストで、エルサは衰えていく父を前に燃え尽きそうになっている刑事。そんな彼女たちを結びつけるのは、じわじわと忍び寄る、恐ろしくも逃れがたい真実なのだ。

Hope
Photograph: NeonHope

『Hope(英題)』

監督:ナ・ホンジン

コンペティション部門でも屈指の注目作とされる『Hope』は、ナ・ホンジンの待望の復帰作だ。『哭声/コクソン』によって、独自の映像世界を持つ映画作家としての評価を決定づけてから10年。ついに、その新作が姿を現す。

舞台は、韓国の非武装地帯近くにある人里離れた海辺の村。トラの目撃情報をきっかけに始まった警察の捜査は、やがて地球外生命体をめぐる領域へと迷い込んでいく。

どこかエドガー・ライト作品を思わせる設定だが、映像を手がけるのは『パラサイト 半地下の家族』の撮影監督であるホン・ギョンピョ。恐らく冗談めかすことなく、大真面目に描かれるのだろう。さらに、実生活でも夫婦であるアリシア・ヴィキャンデルとマイケル・ファスベンダーが、10年ぶりにスクリーンで共演する作品でもある。見逃し厳禁だ。

Parallel Tales
Photograph: Cannes Film FestivalParallel Tales

『Parallel Tales(英題)』

監督:アスガル・ファルハーディー

誰もがアスガル・ファルハーディーと仕事をしたがる。彼はこれまでに2度のアカデミー賞を受賞しており、そのうちの一本『別離』は、イラン映画を象徴する作品としてその存在感を決定づけた。そんな名匠の新作『Parallel Tales』には、イザベル・ユペール、カトリーヌ・ドヌーヴ、ヴァンサン・カッセル、ヴィルジニー・エフィラ、ピエール・ニネと、夢のような顔ぶれが集結している。

クシシュトフ・キェシロフスキの『デカローグ6』に着想を得た本作で描かれるのは、創作の題材を求めて隣人たちをのぞき見る小説家。彼女はある若い男を雇うが、その存在はやがて彼女の人生を静かに、しかし確実に飲み込んでいく。のぞき見スリラーでありながら、善悪の感覚をじわじわと揺さぶる一本といえる。

The Birthday Party
Photograph: Cannes Film FestivalThe Birthday Party

『The Birthday Party(英題)』

監督:レア・ミシウス

「ゴンクール賞」作家のローラン・モーヴィニエによるスリラー小説を映画化した今作は、監督にとってコンペティション部門初出品作となる。舞台は、人里離れた田舎の小さな集落。妻の40歳の誕生日を祝うサプライズパーティーは、招かれざる3人の来訪者の出現によって暴力的にかき乱され、長く埋もれていた秘密が次々と浮かび上がっていく。

モニカ・ベルッチを筆頭に、実力派フランス俳優陣が顔を揃える。家庭内ドラマをじわじわと忍び寄る恐怖へと変えてきたミシウスにとって、モーヴィニエは理想的な原作者だ。というのも、恐怖が深まるにつれて、彼の文章もまた長くなっていくからである。

Her Private Hell
Photograph: MUBIHer Private Hell

『Her Private Hell (原題)』

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン

『ネオン・デーモン』がカンヌで賛否を巻き起こしてから10年。ブーイング、喝采、途中退席まで飛び交う騒動を呼んだ監督のニコラス・ウィンディング・レフンが、『Her Private Hell』を携え、コンペティション外作品としてカンヌに戻ってくる。

東京で撮影された本作でソフィー・サッチャーが演じるのは、致命的な霧に飲み込まれた未来都市で、行方不明の父親を探す女性。西島秀俊、忽那汐里、アオイヤマダら日本人俳優も出演する。

監督自身は、本作を「きらめき、セックス、そして暴力」と表現している。どんな作品になるのかは、もう想像がつくだろう。会場の半分は拒絶し、もう半分にとっては、絶対に見逃せない一本になるはずだ。

All of a Sudden
Photograph: ©CINEFRANCE STUDIOS – Julien PaniéAll of a Sudden

『急に具合が悪くなる』

監督:濱口竜介

『ドライブ・マイ・カー』は、濱口竜介、そして「サーブ・900」を世界に知らしめた。そんな日本の名匠が、今度はノンフィクション書籍を原作に、舞台をパリへ移した新作で帰ってくる。

『ベネデッタ』のヴィルジニー・エフィラが演じるのは、ある介護施設の施設長。彼女は、岡本多緒が扮する日本人劇作家とのとの間に、次第に特別な絆を築いていく。

Fatherland
Photograph: MubiFatherland

『Fatherland(英題)』

監督:パヴェウ・パヴリコフスキ

『イーダ』や『COLD WAR あの歌、2つの心』を手がけた、イギリスを拠点とするポーランド人映画監督のパヴェウ・パヴリコフスキが、戦後ヨーロッパを鋭く切り取る新作でカンヌに臨む。

今回、物語の軸となるのは、ドイツ文学の巨人トーマス・マン(ヴィム・ヴェンダース作品の常連、ハンス・ツィシュラー)と、その娘エーリカ(ザンドラ・ヒュラー)。新たに分断されたドイツを舞台に、一人の芸術家の魂をめぐる葛藤が描かれる。

『イングロリアス・バスターズ』のアウグスト・ディールが演じるのは、マンの息子であり、エーリカの兄でもある人物。その不在が、二人の旅にもう一つの影を落とす。

Minotaur
Photograph: Cannes Film FestivalMinotaur

『Minotaur(原題)』

監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ

祖国を追われ、亡命生活を送るアンドレイ・ズビャギンツェフは、2014年の『裁かれるは善人のみ』でプーチン政権下のロシアに鋭い批評を投げかけ、3年後には崩壊寸前の家族を描いた痛烈なドラマ『ラブレス』を発表した。

9年ぶりとなる新作は、「パルム・ドール」争いの有力候補の一本。秘密主義に包まれた祖国ロシアの裏側を舞台に、一人の実業家(ドミトリー・マズーロフ)が、経済的・道徳的・感情的危機に直面し、人生の歯車を狂わせながら、やがて暴力の影にも脅かされていく姿を描く。

Coward
Photograph: MUBICoward

『Coward(原題)』

監督:ルーカス・ドン

ルーカス・ドンは、感情豊かな青春映画『Close/クロース』や、トランスジェンダーの少女を描いた『Girl/ガール』で、他者に寄り添うまなざしを印象づけてきた。しかし今作では、より荒々しく、シビアな一面をのぞかせる。

舞台は、第一次世界大戦の苛烈な最前線。若きベルギー兵の視点を通して、仲間との絆、そして勇気と臆病さの本質に迫っていく。監督自身は本作を「愛と死、創造と破壊についての映画であり、生き延びること、そして時に闇の中でさえ何か美しいものが育まれていく様を描いた作品」と表現している。要するに、ハンカチの準備は忘れずに、ということだ。

Sheep in the Box
Photograph: Cannes Film FestivalSheep in the Box

『箱の中の羊』

監督:是枝裕和

『万引き家族』『ワンダフルライフ』で知られる、日本映画界の名匠にして希代のヒューマニスト、是枝裕和が、ブライアン・オールディスや『A.I.』を思わせるSF作品でカンヌに臨む。タイトルは、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの古典『星の王子さま』に着想を得たものだ。

物語の中心となるのは、息子を亡くした夫婦(綾瀬はるか、山本大悟)。二人は、あるヒューマノイドロボットを家族として迎え入れる。

アメリカではNeon社が配給を手がけることが決まっており、是枝にとっては再びアカデミー賞への候補入りを狙う一本となりそうだ。

I See Buildings Fall Like Lightning
Photograph: Curzon FilmI See Buildings Fall Like Lightning

『I See Buildings Fall Like Lightning(原題)』

監督:クリオ・バーナード

アイルランドの劇作家エンダ・ウォルシュと、イギリスの映画監督クリオ・バーナード(『The Arbor』『Ali & Ava』)がタッグを組んだ。バーミンガムを舞台に、結びつきの強い30代の仲間たちの、人生の浮き沈み、というより沈むことの方が多い日々を紡ぐ。

バーナードは、アンソニー・ボイル、ジョー・コール、ジェイ・ライカーゴ、ダリル・マコーマックら英国の実力派俳優を起用。うまく回らない仕事や暮らしを抱える人々の日常を、共感と切なさをにじませながら描く。

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