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結局全部北斎の仕業なのか? 浮世絵の天才の痕跡をたどる

漫画とアニメの原点は北斎にあり
京橋の「CREATIVE MUSEUM TOKYO」 で2025年11月30日(日)まで開催している「HOKUSAIーぜんぶ、北斎のしわざでした。展」に行ってきた。
もちろん「北斎」とは、江戸後期の浮世絵師であり、永谷園のアートワークでもお馴染みの葛飾北斎のこと。作品数は膨大で、手を変え品を変え、さまざまな表現を試みた世界的アーティストだ。 本展のコンセプトはずばり「漫画とアニメの原点は北斎にある」というもの。
漫画の演出技法である集中線やギャグ顔、はたまたアニメ原画のようなものはもう200年前に北斎がやっていましたよ。つまりクールジャパンの隆盛も元をただせば全部彼奴(きゃつ)のしわざなのですよ。ということを声高に主張する展示だ。
ビギナーにも楽しい圧巻のハイバジェット展示
筆者は、北斎について詳しい知識はない。若い時分に『八方睨み鳳凰図』を図録か何かで見て、「超イカす」と思い、作品集をいろいろと眺めたり、ウィキペディアで珍奇なエピソードを閲覧するなどしたけれども、その膨大なキャリアや革新性については具体的に知らざるまま今日まで生きてきた。本展は、まさに筆者のようなビギナーにこそうってつけな、非常に敷居が低く間口の広い、とても愉快な展示であった。
どデカいフロアのあちこちに拡大複製画が掲げられた迫力のディスプレー、横尾忠則や十三代目市川團十郎など重鎮のコメント、公式アンバサダー&音声ガイドナビゲーターはKing & Princeの髙橋海人がつとめているし、ジブリのアニメーターが手掛けた短編アニメまであり、まぁとにかく絢爛である。あらゆる観点から探る全6章構成の展示は、どれも見応え十分だ。
ダイナミックな構図と細部へのこだわり
たとえば第1章「読本」では、集中線やコマ割りといった漫画的技法をいかに北斎が使いこなしていたかが示される。しかし、北斎が後世のに先駆けていたのはそればかりではない。
たとえば黒バックに白文字でテキストが書かれているような演出もすでに試みられているし、ストーリーにしても、天狗と霊のパワーを借りて悪政を討ち国王になる話や、後のバトル漫画みたいなことを普通にやっているのだ。中にはブッダの伝記物なんかもあり、手塚治虫より先にもうこういうのあったんだなーという感慨を受ける。
なんと言ってもやはり、絵がすごい。葛飾北斎の絵は何となくサイズが大きいイメージがあるが、実物を見ると「こんな小さいんだ?」と驚く。つまりそれは派手でダイナミックな構図と、細部への描き込みが両立しているということであって、10倍、20倍に拡大しても一枚絵としてキチンと成立するどころか、むしろ拡大画を見て「おっほ。この端っこのモブキャラの表情ってこうなってるのか」と発見することも多い。
前述した通り、本展は拡大複製画があちこちに掲示されているので、実物と見比べながら鑑賞するのも一興であろう。ちなみに読本ちゅうのは木版画、職人が版木に絵や文字を彫ったものを使って量産するのだけれども、この職人もまたすごい。微細な描線のニュアンスとかも見事にとらえられており、やっぱ江戸時代の職人技はハンパない、とうなることしきりである。
元祖イラストレーターとしての顔
それから3章の「表現力」。ここでは北斎のユーモアセンスが存分にフィーチャーされている。『一筆画譜』に描かれたツルやネコのかわいったらしい絵は、浮世絵師というよりむしろイラストレーターといった方がしっくり来るようなポップさで、後の「ちいかわ」の先駆といっても言い過ぎではアルマーニ。
北斎は絵描きのための教則本を数多く手がけており、定規とコンパスを使って絵を描く方法を記した『略画早指南』では、モチーフを丸や四角でとらえようというようなデッサンの基礎技法が紹介されていたり、『三体画譜』では同一モチーフを3段階に分けてデフォルメし、さまざまな角度から技法を説くそのさまには「絵を描くってマジ楽しいから!」という熱弁が透けて見える。
北斎は己の理論やテクニックを企業秘密とせず、大衆にむけて開陳し続けていたのだ。
作画資料からダンスの教則本まで
そして本展の白眉ともいえるのが4章、「北斎漫画」である。64年間にわたって取り組んだライフワークであり、絵を学ぶ人に向けた図案集、つまり漫画家やアニメーターが用いる資料集やデッサン集にあたるものなのだが、これは何ともすごかった。人体のさまざまなポーズのみならず、動植物や昆虫、建築物、陶磁器や銃、果ては幽霊や妖怪といった怪異まで、とにかく目に見えるものも見えないものも描きまくっている。
北斎漫画だけで3000点以上の絵があるというからおそろしい。で、これらの本は前述した通り木版画であるので、版を重ねるごとに印刷の具合が変わっており、その変遷の様子なんかも展示されているのだが、おもしろいことに、途中で絵やテキストに修正が入っていた。
よく昔の漫画なんかで「初版は原本ママだが、3刷目からここのセリフが変更されている」みたいなのがあるが、完璧にアレと同じだ。当時から出版物の検閲はちゃんとあったようで、こんなふうに江戸時代の出版事情までうかがい知れるのも、本展の魅力のひとつといえよう。
また筆者が最も感銘を受けたのは『踊独稽古(おどりひとりげいこ)』という画集。これは当時江戸で流行っていたいろいろな踊りの振り付けを解説する、つまりはダンスの教則本だ。「北斎ってこんなんもやってたの!?」という感慨を呼び起こすのが本展のメインテーマであるが、この画集ほど筆者に「こんなんもやってたの!?」と思わせたものは無かった。
画集はフンドシ一丁の男がモデルになっているのだが、ウケ狙いでそうしているのではなく、十三代目市川團十郎の解説によれば「踊りは骨の位置が分からないとマスターできない」ということらしい。北斎は人体がどのようにできていて、それがどう動いているかということをつぶさに観察した上で、流行りのダンスをマスターしたい読者たちにもちゃんと伝わるように描いているのである。とても偉い人だと思う。
「真実真正」のクリエーティヴィティ
そして6章の『富嶽百景』。これはかの名シリーズ『冨嶽三十六景』ののちに北斎が取り組んだ全102図から成る絵本なのだが、富士山を背にバトルを繰り広げる勇猛な絵や、そこはかとなく哀愁漂う冬の富士山の景色などなど、実にバラエティー豊かでおもしろい。
この絵本のあとがきも紹介されているのだが、当時75歳の北斎はここで「まぁ70歳より前のオレの絵は大したことないよね。73歳ぐらいからようやくいい感じの絵が描けるようになってきたわ。このままいけば80歳ごろには超上手くなって、90歳で奥義を極めて、100歳になったら神の域まで達するね。100なん十歳にもなりゃ、一筆一筆が生き物みたいに動くだろうよ。マジで(意訳)」という驚愕(きょうがく)のコメントを寄せている。
北斎は90歳で亡くなったが、今際に「あと10年……いや、あと5年生きられればモノホンの絵描きになれたのに……(意訳)」と言って絶命したそうであるから、もはや開いた口がふさがらない。真実真正のクリエーティヴィティに背筋が伸びる思いである。
とまぁ3000字近くにわたってツラツラと感想を述べてきたワケだが、本展の見どころはまだまだこんなもんではない。世界初公開となる『日新除魔図』の肉筆画など、マニアにとっても見逃せないものが揃っている。ビギナーやマニアにはもちろんのこと、絵を描く人や写真を撮る人などにもかなり有益な展示であるといえよう。自信をもっておすすめする。
Information
「HOKUSAI - ぜんぶ、北斎のしわざでした。展」
会期:2025年9月13日(土)〜11月30日(日)※会期中無休
会場:CREATIVE MUSEUM TOKYO
住所:東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 6階
電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時00分〜18時00分(金・土曜・祝前日は20時まで) ※最終入場は閉館の30分前まで
料金:一般 2,300円、中・高校生1,800円、小学生1,000円
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