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言わずと知れた日本最古の遊園地、「浅草 花やしき」のお化け屋敷が2025年6月16日をもって営業終了し、7月18日(金)にリニューアルオープンするという。営業終了にともない、これまでNGであった屋敷内での撮影が限定解禁されるというので、その最期の勇姿をレポートするべく浅草へ行ってきた。

最期の勇姿とか言って知った風なクチを聞いたが、実はオレは、花やしきに足を踏み入れるのは初めてである。それどころか立地すらロクに知らず、「浅草のどこかにあるとは伝え聞くが……」というぐらいの、西遊記における天竺レベルの認識しかなく、そんな門外漢が一体何をつづれるのかという話なのだが、まぁ書き始めてしまったものは仕方ない。
ゆるっとしたピースフルな空気
初夏の風吹く浅草は、年々ますます観光客が増えており、雷門から浅草寺の辺りはそりゃあもうGLAYのコンサートでもあるのかというほどの混みようであったが、人いきれを抜け何とかたどり着いた花やしきは、何というか一言で「平和」なノホホンムードがあふれていた。

例えるなら年末年始の商店街のような、ゆるっとしたピースフルな空気が流れている。遊園地の客というのは大体、完全にハイになっちゃっている人か、完全に疲れ切っている人の2種類に大別できるが、花やしきの客はそのどちらでもない。親子連れに学生に老人、誰もかれもが緩んだ表情でホテホテ歩いており、その光景たるやシンプルに癒やしである。
われわれ取材班が口を半開きにして癒やされていると、広報担当がやってきて、親切にナビゲートしてくれた。会って2秒で「すげえいい人」と分かるほどに笑顔がステキな人だった。
花やしきの歴史
笑顔の広報担当いわく、花やしきが誕生したのは1853年、何とペリーが来航した年なのだという。かつては名前通り、牡丹・菊細工を主とした花園(かえん)であったそうだが、そこから少しずつ遊戯施設が置かれ始め、トラやゾウが飼育され、震災や戦禍など閉園を余儀なくされた時代を経て、1949年についに今日の遊園地として再建された。
1953年には日本現存最古のコースター「ローラーコースター」、1960年には「人工衛星塔(現・Beeタワー)」が設置。どちらも浅草の名物として人気を博し、街の発展に大いなる貢献をしたという。
古風な和物系お化け屋敷
説明を受けた後、早速目当てのお化け屋敷へ。
お化け屋敷は定期的にリニューアルされており、この「江戸の肝試し」の営業が始まったのが2023年のこと。「累ヶ淵」「牡丹灯籠」「番町皿屋敷」「四谷怪談」の江戸四大怪談をモチーフにしたお化け屋敷であり、まぁもう外観からして風情丸出しの超オールドスクールな和物系だ。
ヒュードロドロ、みたいなSEがうっすらと流れているお化け屋敷はどう見てもキッズ向けで、実際に0歳から利用が可能で、5歳以上なら単独潜入もできるのだという。

入場者に課せられるミッションは、出口付近にある「水晶」を触ること。こちとら35歳児、社会保険料の高さに頭を痛めたり、変なところに謎の毛が生えてくるお年頃(足の親指の爪の中とか)であるゆえ、いやいや流石にこんなモンでビビんないっすよ、って感じの半笑いテンションで入場したが、2秒後にはしっかり余裕でビビっていた。まだ何も起こっていないというのに。


暗くて狭くて、曲がり角の先がどうなっているか分からないだけでこれほど怖いものなのかと思いながら、ゆっくりと歩を進める。壁伝いに移動し、曲がり角に来るたび少しだけ顔を出して様子をうかがう特殊部隊系のムーブである。これが35歳の大人のすることなのかと我ながら情けなくなるが、怖いのだから仕方ない。
「ジャパニーズホラー」のスターが続々登場
ここで少しだけ自己弁護をさせてもらえるなら、オレは別にお化けが出てくること自体はそれほどイヤではない。魑魅魍魎(ちみもうりょう)の類が出てくるのは場所柄やむを得ない。ビックリ系のギミックがイヤなのだ。突然窓を突き破って手が出てくるとか、ゾンビが追いかけてくるとか、ああいうフィジカルに訴えかける演出は反則だと思う。驚きと恐怖は違う。

この「お化け屋敷~江戸の肝試し~」は、ビックリ演出に頼っていなくてとても良かった。古びた井戸やすすけた障子は雰囲気たっぷりだし、うっすら流れるBGMが『通りゃんせ』というのもニクイ選曲である。5、6分で踏破できるコンパクトな作りだが、その内容は非常に充実していて、じっとりとした緊張感がある。
ろくろ首や唐傘小僧、お岩さんなどなど、ジャパニーズホラーのビッグネームが次々に登場するさまは圧巻だし、デザインにも節度があるというか、ちゃんと恐ろしすぎないように調節されている感じもいい。なんだかんだ最後の水晶に触れるときの演出でしっかり悲鳴を上げたオレ。完全に掌で転がされている。しっかり存分に楽しんでしまった。何なら2回入ったし。


「本物」は出るのか?
さて、お化け屋敷といえばよくあるウワサに「本物が出る」というのがあるが、そこんところどうなの?と尋ねると、広報担当はこともなげに「怪奇現象はよくある」と言った。誰もいないのに人感センサーが反応して装置が動き出すなど、そういう不可解な現象に広報担当は実際に何度か遭遇しているのだという。
ちなみに一番ヤバいと言われているのはお化け屋敷ではなく、園内のある建物のトイレだそうで、霊感がある人ならば一目見ただけで絶対に近づきたくないと思うらしい。

そういう話を聞き、好奇心を刺激されて見に行った結果、怪異に出くわして阿鼻叫喚(あびきょうかん)という定番パターンがあるが、オレは賢いので決してそこには近づかなかった。絶対に怖い思いとかしたくないし。そのおかげで無事取材を終えてこうして記事を書けているわけだが、ライターとしては失格という気もする。

だが、お化けが出る出ないはさておくとしても、花やしきの磁場がちょっとおかしいというのは肌感覚で何となくわかる。花やしきの総面積は5800平方メートル(コンビニエンスストア6つ分くらい)だそうだが、その規模感ゆえにアトラクションや建物がたがいにスペースを侵食し合いながら立体的に交錯する設えは、パースが狂っている感じがある。

1階からエスカレーターに乗ると何故か3階に辿り着く某ブロードウェイなんかもそうだが、こういうねじけた空間というのはやはり、ちょっと変な気分になる。この磁場の変な感じとかも含めて、花やしきというのは本当に魅力的な場所だと思った。リニューアルされたお化け屋敷もぜひ行こうと思う。そしてそのときこそ、オレは特殊部隊になることなく、35歳らしい態度で踏破を決めてみたい。
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