サム・ヘンショウ
Photo: Keisuke Tanigawa | サム・ヘンショウ
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インタビュー:サム・ヘンショウ「この作品にたどり着くために生きてきた」

制作中に唯一聴いていた曲とは?2026年1月ワールドツアーが日本からスタート

Kosuke Hori
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タイムアウト東京 > 音楽 > インタビュー:サム・ヘンショウ「この作品にたどり着くために生きてきた」

通訳:渡瀬ひとみ

「現代ソウルミュージックシーンの旗手」と称される、イギリスはサウス・ロンドン出身のシンガーソングライター、サム・ヘンショウ(Samm Henshaw)。EPやシングルのリリースを経て、2022年に発表されたアルバム『Untidy Soul』は、彼自身のシグネチャーサウンドを見つけ出したかのように感じられる作品だった。

それ以降もシングルやEPを精力的にリリース。そして、次なるアルバムへの期待が高まる中、先行シングルの『Get Back』『Float』が収録された待望のニューアルバム『It Could Be Worse』が2025年12月5日、アナログでリリースされた。

同作は、よりオーセンティックかつタイムレスなソウルミュージックへと、研ぎ澄まされたような印象を受ける。「この作品にたどり着くために生きてきたような気がする」と語ってくれたが、2025年の傑作の一枚だと筆者は個人的に思う。インタビューでは、ニューアルバムの印象的なジャケットとアルバムタイトルの意味から、制作中に影響を受けたドキュメンタリー、唯一聴いていた曲まで話してくれた。

サム・ヘンショウ
画像提供:origami PRODUCTIONS『It Could Be Worse』のジャケット

そして、本作を携えたワールドツアーが、2026年1月27日(火)の「EX THEATER ROPPONGI」での公演から始まる。力強くも優しい唯一無二の歌声を聴きに、そして彼の「ソウル」を受け取りに、ぜひライブに足を運んでほしい。

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これまでの経験が100パーセント反映された「成長のアルバム」

サム・ヘンショウ
Photo: Keisuke Tanigawa

—頭から血を流しているあなた自身のジャケットとタイトルの『It Could Be Worse』は、意味深というか印象的です。ジャケットやタイトルに込めた思いを教えてください。

アルバムのタイトルとアートワークを連動させたかったんです。タイトルを聞いて、そしてジャケットを観たリスナーに「探偵」になったような気分を味わってほしい。まるで犯罪現場に足を踏み入れて、何が起きたのかを推理するような感覚で、この作品を解き明かすように聴いてくれたらなと。

そして、『It Could Be Worse(もっと悪い状況もありえた)』というタイトルと1枚のカバー、収録されている楽曲たちから、リスナーにはそれぞれの物語を思い浮かべてほしいと思っています。

—リードシングル『Float』は、サウンド面が特にマーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)の『Mercy Mercy Me』を初めて聞いた時のような感動がありました。「ずっと作りたいと思ってきたソウルレコード」とのことですが、今回のアルバムのコンセプトはどのようなものでしょうか?

この5年間、本当にいろいろなことがあったんです。振り返ってみると、家族を亡くしたり、とにかく痛みを伴う経験がたくさんで……。渦中にいる時には、この状況から抜け出せるのか、果たして自分は大丈夫なのか、そして最終的にどうなるのか、全く想像がつきませんでした。

でも、このアルバムがそういった経験全てをまとめ上げてくれた気がしています。思春期から大人への成長過程における私自身の視点というか、サム・ヘンショウという人間そのものを表現できたと思っているんです。一言で言えば「成長のアルバム」ですかね。「大人になるということ」を表現したアルバムともいえるかもしれません。

—EP『The Sound Experiment』の1・2作目、そしてシングルのリリースを経て2022年に発表されたアルバム『Untidy Soul』は、あなた自身のシグネチャーサウンドを見つけたかのように感じました。その後も精力的なリリースを続け、今作はさらに「オーセンティックなソウル」になっていると思うのです。先ほどの答えと被るかもしれませんが、これには何かきっかけとなるような、ブレイクスルーとなるような出来事はあったのでしょうか?

ずっと「こういうアルバムを作りたい」と思い続けてきたのですが、振り返ると、意識的にせよ無意識的にせよ、この作品にたどり着くために生きてきたような気がします。私自身の今までの経験が100パーセント、このアルバムには反映されているなって。

ブレイクスルーとなった出来事は、去年ロサンゼルスでレコーディングしていた時に経験した別れでしょうか。その瞬間、ピースがカチッとはまったというか、急に全てが意味を成し始めたように思えるんです。ものすごく集中して、このアルバムの完成に向けてエネルギーを注ぎ込めたなと。そうして、このアルバムは完成しました。

サム・ヘンショウ
Photo: Keisuke Tanigawa

「自分たちが何を作り出そうとしているのか」を徹底的に追求し、妥協しないことの大切さ

—『Don’t Break My Heart』のエレクトリックシタールのリフなど、往年のソウルをほうふつとさせるサウンドは取り入れつつも、ギターをはじめ、楽器の音にかけられているちょっとしたエフェクトなど、現代的な音響面のアプローチがクラシックなソウルから進化している点だと感じました。アルバムに参加するミュージシャンたちは自分で決めたり、友人だったりするのでしょうか。それともプロデューサーが選んでいるのでしょうか?

一緒に仕事をした人たちの中には、元々知っていたミュージシャンもいれば、プロデューサーが紹介してくれた人もいましたね。

今作の制作中に、マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)のアルバム『Thriller』がどう作られたかというドキュメンタリーを観ていたのですが、かなり影響を受けました。

特に印象的だったのは、同作のプロデューサーであるクインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)やマイケル、そしてチーム全員が音作りと演奏にものすごく時間をかけて、「自分たちが何を作り出そうとしているのか」を徹底的に追求していたことです。「まあ、これでいいか」みたいな妥協は一切なかったんだなと。

彼らは、本当に時間と手間をかけてこれまで聴いたことのないような音を目指し、しかも厳選していった。特に感銘を受けたのは、彼らの「新しい音」への真剣な取り組みですね。

だから私も、可能な限りリアルでオーセンティック、そしてフレッシュに感じるような作品を作りたいと思ったんです。そのために、適切なミュージシャンを集めることは本当に重要なことでした。

—これまでの作品を含め、歌詞を読むとすごくパーソナルなことを歌っていたり、例えば前作に収録されている『Thoughts and Prayers』や今作の『Stay on the Move』のように示唆に富むものがあったりしますよね。歌詞のアイデアが思い浮かぶのはどんな時ですか? また、作詞のインスピレーションの源はどんなものでしょうか?

日々生活を送る中で、インスピレーションを受けた瞬間を必ずメモするようにしています。そうすると、歌詞の参考になるような出来事のリストが出来上がる。そしてスタジオで一つずつひもとくように、歌詞を書いていくんです。

『Stay On The Move』という曲は、まさにそうして生まれました。自分が経験したつらい出来事をメモしておいたんです。この曲は、大変なことが起きた時、それを現実として受け入れながらも諦めずに動き続けて、目指す場所へ進み続けることを表現しています。

実は、前作のアルバムタイトル『Untidy Soul』という言葉も、何年か前にどこかで聞いたフレーズをメモしておいたものから付けたんです。アルバムタイトルのヒントを得ようと、メモを見返した時に発見しました。

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Photo: Keisuke Tanigawa

—個人的に、アルバムの最初と最後の曲というのはすごく重要だと思っています。両方とも冒頭のコーラスが印象的な『Don’t Give It Up』と『Tangerine』はその点とてもぴったりなのかなと。簡単にスキップされてしまうストリーミング全盛の時代においても、曲順はレコードになった場合を考えたり、意識したりするのでしょうか?

曲順はすごく重要です。このアルバムは最初から最後まで、通して聴いてもらいたいですね。正直、シングルというものには今、そんなに興味がありません。もちろんシングルを作る時は「シングルとして作り込む」のですが、今作は完全にアルバムとして構想しました。

特に大事にしたのは、アルバムの始まりと終わりが「ブックエンド」のように呼応する瞬間です。そういう「構成の妙」のようなものを感じてもらえたらなと思っています。

あと今作は、最初から最後まで通して聴いてもらった後、ピンポイントで1曲だけ聴いてもらって、次の曲が流れてこないことに違和感を覚えるくらい、曲同士が有機的につながっている作品を目指しました。それぞれの曲が次の曲を必然的に呼び込むような、そんなアルバムを作りたかったんです。

—あなた自身を含めて、ロイル・カーナー(Loyle Carner)、キング・クルール(King Krule)など、サウス・ロンドンには素晴らしいアーティストがたくさんいますよね。彼らミュージシャンを含め、サウス・ロンドンという場所から影響を受けることはありますか?

サウス・ロンドン、そしてロンドン全体は、本当に多様性に富んだ場所。多文化が共存していて、いろいろなことが起きる街なんです。特にサウス・ロンドンは、日々の出来事や出会い、経験の全てが自分を形作ってくれた場所なのかなと。それは言葉で簡単に説明できるものではないと思います。

場所の影響は確実にあると思いますね。2人のアーティストについても同じことがいえるのかもしれません。その土地で歩んできた人生が、音楽にも自然と表れてくるのではないでしょうか。

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Photo: Keisuke Tanigawa

制作中に唯一聴いていた曲はクレイロの『Juna』

—もう少しだけ、作品について聞かせてください。リオン・マイケルズ(Leon Michels)率いるニューヨークのレーベル「Big Crown Records」からリリースされている作品など、近年のビンテージソウルシーンは傑作が多くありますが、今作は共鳴する部分があるなと感じています。これらの作品で聴いているものはありますか?

リオン・マイケルズを共同プロデューサーに迎えて制作された、クレイロ(Clairo)のアルバム『Charm』には、大きな影響を受けました。古き良き要素を持ちながらもすごく現代的にアップデートされているサウンドで、かつ彼女らしさは保たれていて、しかも今の時代に完璧にフィットしているように感じたんです。時代を超越した普遍性があるなと。そのアプローチに本当に感心しました。

初めて聴いた時に「一体誰がこんなすごいものを作ったんだ?」って思わずにはいられなかったくらいです。そしてクレジットを見て、「リオン・マイケルズ」という人物が関わっていることを知って。Big Crown Recordsの作品にもどっぷりとハマってしまいました。

先ほど『Float』について、マーヴィン・ゲイの名前を挙げてくれましたよね? 実はあまり話したことがなかったのですが、アルバム制作中、基本的にはほかのアーティストの曲は聴かないようにしていたんです。でも1曲だけ、『Float』を制作していた時にクレイロの『Juna』を聴いていました。

かなりインスパイアされましたね。本当にあの曲だけ聴いていたんです。ものすごく印象的で、クールな作品だったから。

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—あと、トリー・ケリー(Tori Kelly)をフィーチャーしたシングル『Find My Love』もアルバムに入るのかと思っていたのですが、入らなかった理由はなんでしょうか?

プロデューサーともよく話し合ったのですが、理由は2つあります。まず、アルバムには可能な限りフィーチャーリングでアーティストを入れたくなかったこと。あとは、とてもいい曲なのですが、テイストがこのアルバムに合うとは思えなかったことです。

レコーディングは、去年の4月ごろ、アルバムの制作時に行っていたんです。曲自体は本当に大好きだったので、絶対に世に出してたくさんの人に聴いてもらいたいなと思って。だから、シングルとしてリリースすることにしました。

—あなたのことをもっとよく知るために質問させてください。もし1枚だけ、影響を受けたソウルのアルバムを挙げるとしたら、何ですか?

1枚だけ……? ちょっと難し過ぎますね……(笑)。

—そしたら3枚で大丈夫です(笑)。

それでも難しいな(笑)。ディアンジェロ(D'Angelo)の『Voodoo』、そしてローリン・ヒル(Lauryn Hill)の『The Miseducation of Lauryn Hill』、あとは……。ディアンジェロの『Black Messiah』でしょうか。ディアンジェロが2つも入ってしまいましたね。

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2026年1月にワールドツアーが日本からスタート

—難しい質問に答えてくれてありがとうございます(笑)。それでは、ライブについて聞かせてください。前回はフルバンドでの来日でした。2026年1月、日本からスタートするツアーはどんな編成でしょうか?

今回もフルバンドでライブします。本当に楽しみです。

—今回のツアーのセットリストは、やはり新作からが中心になるのでしょうか?

そうですね。このレコードからの曲を皆さんに楽しんでもらえたらうれしいなと思っています。以前の曲ももちろん演奏しますよ。

—ワールドツアーが日本からスタートする理由は何でしょうか?

実は偶然だったんですが……。でも、日本の皆さんに喜んでもらえたらうれしいです(笑)。

サム・ヘンショウ
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—私はうれしかったですよ(笑)。

日本の皆さん、いつも応援してくれてありがとうございます。1月のライブが待ちきれません。すぐにお会いしましょう!

サム・ヘンショウのライブを観に行こう

「現代ソウルミュージックシーンの旗手」と称される、イギリスはサウス・ロンドン出身のシンガーソングライター、サム・ヘンショウ(Samm Henshaw)の来日公演が決定。ニューアルバム『It Could Be Worse』を携えて、世界ツアーを東京からスタートする。

ルーツであるゴスペルからの影響が感じられる、オーセンティックなソウルサウンドは必聴だ。そして、唯一無二の力強い歌声を堪能しよう。心の奥底から熱いものが込み上げるような、パフォーマンスを今から心待ちにしたい。

※1月27日(火)19時〜/料金は9,500円〜(ドリンク代別) 

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