タイムアウト東京 > カルチャー > インタビュー:イズミ・セクシー
かつて日本で実際に起きた性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を巡る裁判を題材とした映画『 ブルーボーイ事件』が、2025年11月14日(金)から全国ロードショーとなる。
画像提供:日活 ブルーボーイ事件
主演をはじめ、主要な登場人物にはトランスジェンダーの俳優が起用されており、監督自身も当事者である点でも注目を集めている本作。さらに、劇中のキーパーソンの一人「アー子」を演じるのは、ドラァグクイーンのイズミ・セクシーだ。
イズミは、自らのセクシュアリティーを「一応ゲイ」と表すものの、劇中では演技とは思えないほどのリアリティーのある演技を披露。今回、どのような思いでアー子を演じたのか、話を聞いた。
自分の中の性別違和の感覚を軸に演じた
ー本作が映画初出演とのことですが、ご出演するに至った経緯を教えてください。舞台などご経験があったのでしょうか?
いえ、ほとんど初めてです。新宿二丁目のクラブの企画で、朗読劇をやったことはあるんですが、演技といえばそれくらいしかなかったです。映画のことも、SNSのダイレクトメールにキャスティング担当の方からオーディションのご案内をいただいて初めて知りました。その時、ちょうど40歳になったあたりだったんですね。
Photo: Kisa Toyoshima イズミ・セクシー
これまでもいろいろな仕事をしてきましたが、考えてみると自分の知る範囲ばかりだなと思って。だから、もしチャンスがあるならやってみようと思い、お受けしました。
実際にオーディションへ行ってみたら、思った以上にたくさんの人がいてびっくりしましたね。会議室の扉を開けたらブワッと人がいて「え、何これ?」って思いました。もっとこぢんまりやるものだと思っていたので、その光景はよく覚えています。
ー劇中、アー子が証言台で感情をあらわにして、長いセリフを語るシーンが非常に印象的でした。見ていて、その語りが台本なのか、イズミさんの内側から出てきたものなのか分からなくなるほどでしたが、ご自身のご経験と重なるものがあったのでしょうか?
厳密に言うと、私は自分をトランスジェンダーではないと自認しているんです。一方、アー子さんはトランスジェンダーでしたので、そこはちょっと違うのかなと。ただ、「性別違和」が自分の中でゼロではないと思っています。そうじゃないと、こんな感じのドラァグクイーンはやっていないんじゃないかなって。
Photo: Kisa Toyoshima イズミ・セクシー
私は、ドラァグクイーンの中ではメイクが薄めなんですよね。いわゆる「ドラァグクイーン」ってもっと女性的な表現が極端ですよね。例えば、すごいつけまつ毛をしたり、アイホールにガッツリとダブルラインを引いたり、とんでもないシェーディングを入れたりします。それに比べると、私はナチュラルめです。
最近気付いたことですが、私は自分の中でどこか「本物の女性に近づきたい」という欲が強いみたいなんです。というのも、小さい頃からトランスしたいなという欲求があったからです。
ただ何というか、女性として生まれ変われるわけじゃないという現実や、今も親に一切言えていないんですけど、「受け入れてもらえないだろうな」と自分の気持ちを引っ込めた部分がありました。だから、アー子さんのような自分が、私の中にもいたんだと思います。
画像提供:日活
人それぞれのグラデーションがある性自認
ー「トランスジェンダー」と一口に言っても、性ホルモンによる治療をしているか、どのような性別適合手術をしているかなどの身体的状況、自認するアイデンティティーをどう名乗るかは、人によって千差万別です。
そうですね。私はホルモン治療や手術は一切受けていないこともあって「トランスジェンダー」というのは、なんだか自分にマッチしない感じがして、「ゲイのドラァグクイーン」としてやっているつもりです。
だから、アー子さんとセクシュアリティーの本質の部分はだいぶ違うんじゃないかなという点が気になって、監督にも確認しました。「私はトランスジェンダーではありません。なので、この役をやることに対して何か問題はないですか?」って。すると、「大丈夫だと思います」と返ってきました。監督からは「当時もいろんな人が一括りにされる時代だったから、そういう感覚で、たぶんいろんな人がいていい」ということでした。
「とにかく心を動かす」ことを大切にする監督
ー役作りをする上で、監督とはどのようなコミュニケーションをとられたのでしょうか。
監督は、とにかく感情を大事にする方でした。アー子さんになるというか、「この気持ちになって」という要求をされていたような気がします。初めての映画出演ということもあって、演技レッスンも受けさせてもらったんですね。私は『外郎売』のような発声練習みたいなことをやるのかなと思っていましたが、全然違いました。
画像提供:日活
アー子さんの感情を引き出していくようなレッスンで、「まず抱き合いましょう」みたいな、フィジカルを使って、役に入るためのルーティンを作るみたいな感じです。細かな台本があるわけでもなくて、「ここに〇〇があります」と言って瞑想(めいそう)をしたり、時には目を閉じて「目の前に大切な人がいます」「その人が死にました」って急に言われた後に「どうなりますか?」と問われて感情を揺さぶるレッスンをしました。
とにかく心を動かす。 せりふ が せりふの様に ならないようにするトレーニングの繰り返しでしたね。
ーだからこそ、イズミさんをはじめ、俳優の皆さんからリアリティーがにじみ出ていたんですね。監督がトランスジェンダーということで、現場でのやりやすさは感じましたか?
それは特にありませんでした。監督は、「演出をしてくださる方」というスタンスでいてくれたので。あとは、「繊細な方」という印象があります。
監督と会うたびに「はじめまして」みたいな(笑)。「この間、仲良くしゃべりましたよね?」と思うくらい、打ち解けたつもりでも、次の現場で会うと「あれ?」って感じてしまうような雰囲気がありました。そういう繊細さがありますね。トランスジェンダー男性だからうんぬん……ということは、私は全く意識しなかったです。
Photo: Kisa Toyoshima イズミ・セクシー
ー確かに登場人物一人一人がすごく丁寧に描かれていて、そういった繊細さが作品に現れているのかもしれません。ほかに印象的なことはありましたか?
安井順平さん演じる検事の時田さんに責められるシーンですかね。撮影の前日か、前々日くらいに交流会があって、安井さんとも楽しく過ごしていたんです。
でも、いざ撮影日になって現場に入ってきた時から、役に入られている感じでした。本当に怖かったです。それがとても印象的でした。
ただ、そのおかげで私も役に入り込むことができた気がします。「誰も味方じゃないじゃん!」っていうアー子さんが抱えていた「一人ぼっち感」のような気持ちを、自分の中でも感じたのを覚えていますね。
自分が幸せになるなら「ブス」になってもいい
ーこの映画についてや、演じられたアー子の魅力を教えてください。
アー子さんは、とても真っ直ぐな方なので、「彼女みたいに生きたいな」っていう憧れみたいなものを感じました。もし私が同じ立場だったら、中村中さんが演じるメイさんみたいになっちゃう気がします。
現実に折り合いをつけているふりをして、自分の痛いところから目を逸らして、なんとなく折衷案で生きてしまうような生き方です。だから、アー子さんのように矢面に立って闘う姿がとても美しく感じます。
だから、この映画は「自分が幸せになるための闘争史」といいますか、そんな映画だと思っています。LGBTQ+に限らず、女性にだって「女性で生きることの苦しさ」とか、皆それぞれに何かしらありますよね。
Photo: Kisa Toyoshima イズミ・セクシー
生きる上で、苦しみ、どんなことでもいいんですけど、そういうしんどさと闘うことは悪いことじゃないというか。ちょっと「ブス」になってもいいいんだよみたいな。
あ、「ブス」って、顔の話じゃないですよ。なりふり構わずぶつかってもいいんじゃないかな、ということです。だからこそ、日々ストレスとか抱えている女性や、悩みを抱える方に観てもらえたらうれしいですね。