小山田徹
Photo: Kaito Mizuno | 小山田徹
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インタビュー:小山田徹

「あきれるほど考えていた、うらやましい時間」、ダムタイプ初期の活動を知る展覧会

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世界的に活躍するアーティストグループ「ダムタイプ」の、あまり知られていない初期の活動についてうかがい知れる展覧会が、2026年10月25日(日)まで京都のギャラリー「ARTRO」で開催されている。同グループの創設メンバーであり、京都市立芸術大学の学長でもある小山田徹(こやまだ・とおる)の個展「DUMB TYPE 1984–1997|小山田徹」は、ダムタイプの伝説的名作『S/N』の頃までに小山田が書き溜めていた「メモ」を中心に構成されている。

自身は「落書きが多いねん」と言うが、資料的価値のみならず作品としての完成度も高いドローイングなどが約100点並ぶ見応えのある展覧会になっている。本稿では、小山田へのインタビューを交えながら、同展を紹介する。

小山田というと、たき火を「共有空間」として捉えて対話を促すなど、多様な人が緩やかにつながり合える場を生み出す活動で知られるが、ダムタイプ時代においては膨大な量のドローイングを描いている。それはメンバー間でアイデアを共有するためのイメージ図であったり、舞台装置の図面であったりするが、それらが本展のようにまとまった形で紹介される機会はなかった。小山田による個展自体が2度目の開催というから、その貴重さが理解されよう。

ダムタイプ創設の時代から伝説的名作『S/N』まで

小山田徹
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ギャラリーの階段を上り展示会場に入ってすぐ右の壁面から反時計回りに、基本的には時系列に沿って作品は展開されている。まだ学生だったダムタイプ創設の時代から、初めての海外公演を行ったパフォーマンス『Pleasure Life』の頃までのものが最初の壁面に並ぶ。

続く南側の壁には『Pleasure Life』の展覧会バージョンである『PLAYBACK』や、ビデオ作品も残っている『pH』の頃までのものが中心になっている。次の壁面が『S/N』の頃までを扱っており、会場に足を踏み入れるとまず、この時代の作品が正面に現れることになる。 

2022年には「第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」で日本館の展示を担当し、新型コロナウイルス感染症の影響で初演が先送りになった『2020』の上演も2026年の12月に控えて、若年層からも再評価の波が訪れているダムタイプ。しかし、やはり多くのアートファンが名前を知ったのは、中心的メンバーだった故・古橋悌二(ふるはし・ていじ)がHIV(エイズウイルス)キャリアであることを公表し制作された『S/N』がきっかけだろう。

同作の最終盤で使われる楽曲のタイトル「アマポーラ」という手書き文字も、本展に出品される「メモ」には見られ、メンバー間の話し合いを重ねて作品を作り上げていく、ダムタイプの制作現場を目の当たりにするような臨場感がある。

小山田徹
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小山田:ミーティングの中でいろいろな言葉が生まれてきます。この「人間を発明する」という言葉も、誰が言ったかなどは関係なく、その場でとにかくメモしていく。世界観やイメージを共有するためのドローイングも、膨大に描いていました。そういうメモやドローイングを切り取ってコピーしたものを、レジュメとしてメンバーに配っていたんです。

「俺からは『アマポーラ』提案せんな(笑)。(古橋)悌二か山中君か」と振り返る。ダムタイプの初期に音楽で関わっていた山中透(やまなか・とおる)については、2024年の記事「ダムタイプ初期作品を伝える貴重なカセットブック2作品がLPレコード化」も参照してほしい。

MoMA収蔵の古橋悌二『LOVERS』の原型?

特にリーダーなどを設けず、メンバー間の膨大な話し合いの中で作品を作り続けて来たダムタイプだが、セクシュアリティーをはじめとしたさまざまなアイデンティティーに関わる問題に取り組んだ意欲作『S/N』は、HIVポジティブの同性愛者であることをメンバーに公表した古橋が「今回は仕切らせてほしい」と宣言した異例の作品だった。

小山田徹
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小山田:前作の『pH』の後すぐに次の作品の構想は始まっていて、基本構造としてはもう出来上がっていました。本展で『Hot & Cool』とタイトルが付いているものがそれです。悌二が仕切ることになって「一回全部忘れよ」と。でも期限までに作品が仕上がらない。そこで、できているシーンの上演と、エイズやセクシュアリティーなどのトピックについての討論会を行うセミナーショーという形式を取りました。

作品が完成できず、苦し紛れのような形で開催したセミナーショーだったが、結果的に「逆に作品に深みが出たと思います」と小山田は述懐する。実際に、スタイリッシュな舞台だけでなく、生々しい肉声が聞けたセミナーショーに衝撃を受けたという感想も多い。セミナーショーでの経験を経て、1994年にオーストラリアで上演した『アデレード・フェスティバル』が、同作の世界初演となった。

小山田:この頃は人間が映像に入るということを考えていますね。巨大なスクリーンの上からパフォーマーが落下するというシーンに落ち着きますが、エレベーターを装置に仕込むなど、実現しなかったアイデアも描かれています。今の技術ならもっといろいろと方法はあるけど、当時はまだまだアナログでした。

実現しなかったアイデアが見られるのも本展の興味深い点だ。小山田と古橋の2人で準備をしていたが実現に至らなかった展覧会についてのドローイングを見ると、回転する装置の両端に2人の人物が背を向けて立っている図がある。古橋の作品として「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」にも収蔵されている『LOVERS』の着想がすでにあったことが見て取れた。

小山田徹
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小山田:2人で会場の下見まで行ったけど、実現しなかったものです。これを見ると『LOVERS』の原型がもうできていますね。悌二からは「(描かれている人物が)何で男と女なん?」と言われたりしましたが。「あくまでプランやから分かりやすく描かなあかんやん」って(笑)。

解散の危機、初の海外公演『Pleasure Life』で負った借金

ダムタイプ名義で小山田が描いたドローイングとして珍しいところでは、週刊誌「朝日ジャーナル」に寄せた挿絵の下絵なども本展には出品されている。『Pleasure Life』の頃からダムタイプの良き理解者であり続ける評論家の浅田彰が、本誌の連載のために依頼したものだそうだ。

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小山田:この頃は本当にお金がなくて、私はダムタイプのオフィスに暮らしていました。『Pleasure Life』で初の海外公演をできたのはよかったんですが、借金がすごいことになって、いったん解散に近い形になりました。『pH』でセゾン文化財団やワコールから支援してもらえ、辞めたメンバーも呼び戻せたという流れです。

芸術的な成功が必ずしも経済的な成功に結びつかないのは世の常だが、『Pleasure Life』以降、外部に向けた企画書や、展示のためのインストラクションのようなものが多くなり、アートシーンにおけるダムタイプの存在感が増していったろうことが推測できる。その意味でも『Pleasure Life』は画期的な作品だったことが分かるが、テクノロジーをテーマとして扱った同作以前の、よりロマンティックな印象のある作品について知れるのも本展の興味深いところだ。

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小山田:以前はもっと「人間と歴史」や「人間と物語」といったことを考えてパフォーマンスや展覧会を作っていました。見た映画や読んだ本をメンバー間で共有して、それぞれにイメージを持ち寄ってましたね。私は当時ガブリエル・ガルシア=マルケス(Gabriel García Márquez)などのマジックリアリズム小説に漂うある種のイマジネーションが好きでした。反論できないくらい圧倒的な風景が立ち上がって、大きな歴史に飲み込まれ最終的に人間が小さくなっていくような感じに興味がありました。

日本初の世界演劇祭「利賀フェスティバル」で知った「パフォーマンス」

大阪府吹田市にあった映画館「吹田映劇」でのオールナイト上映にメンバーで出かけるなど、貪欲にインプットを行っていたというが、何よりも影響を受けたものとして日本を代表する演出家の鈴木忠志が富山県南砺市利賀村で開催している日本初の世界演劇祭「利賀フェスティバル」(現・SCOTサマーシーズン)が挙げられるだろう。

小山田:1982年から84年まで毎年、利賀村で合宿していました。初めて「パフォーマンス」という概念を知る経験でした。世界で同時多発的にパフォーマンスというものが生まれた時代です。

ダムタイプの前身は「劇団 座☆カルマ」ですが、演劇というものには窮屈さを感じていました。演出家を頂点に、主演俳優がいて脇役がいてというピラミッド構造とは違う形で作品を作りたいと思っていました。

小山田徹
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「さすがに『座☆カルマ』ではパフォーマンスはどうかな(笑)」と、大学4回生の夏休みにメンバーたちで辞書をめくりながら考案されたのが「ダムタイプ・シアター」という名前だった。「演劇から離れたいと思いながら、まだ未練があってこの頃はシアターが付いている」と小山田は笑顔を見せる。そうして1984年、ダムタイプ・シアターの初作品『睡眠の計画』が誕生した。

本展会場の入り口から左側の壁面に展示されているのが、『睡眠の計画』のイメージドローイングだ。そして、その頃の気持ちに戻って小山田が今回新たに制作したドローイング『高さへの崇拝』の20点が、その奥の小部屋に続いている。

新作は全て販売されているが、小山田自身の売上は全額が2つのプロジェクトのためにドネーションされるという。詳細は会場で確認してほしい。

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世の中は簡単に変わらない、だから話し続けられる「場づくり」が必要

ダムタイプの活動からは次第に距離を置くようになる小山田は、冒頭に述べたように「共有空間」としての場づくりを創作の中心とした活動に軸足を移していく。「風景収集狂者」という肩書きを使用することもあり、「風景」や「場所」には常に関心を寄せていた小山田だが、『S/N』以降は特に、完成した作品よりもカフェやパーティーなどの「場」を生み出す活動に注力するようになったのはなぜか。

小山田:ダムタイプはリーダーがいない状態で作品を作っていました。もともと集まる場所のレイアウトや会議の進め方などに関心がありましたが、特に『S/N』では、本格的に多様な人が加わり、「場づくり」を考えることがどうしても必要だと感じました。

『S/N』は良いプロジェクトでしたが悌二は死んでしまうし、世の中はそう簡単に変わらない。作品をただ一つの結論として見せることより、問題について話し続けることができ、意見交換ができる場を作ることの方が重要だと思ったんです。

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多様な人が対等な関係で一つの作品を作るための一例として、ダムタイプのオフィスのレイアウトも参照したい。それぞれのデスクを壁に向かって配置したオフィスでは、部屋の真ん中に立つと他メンバーがどんな作業をしているかを見ることができる。

反対に、作業中の様子を誰かに見られているかもしれないという緊張感もありそうだ。19世紀イギリスの哲学者、ジェレミ・ベンサム(Jeremy Bentham)が考案した監獄「パノプティコン」を想起させもするが、見られるだけでなく見る側にもなれるという点で異なる。 

小山田:「観察の視線」ということを良く考えてましたね。観察することで他メンバーともプロセスが共有されていく。観察にさらされることで、自然にアイデアが混ざっていくということが起こるんです。また、対象を客体化して客観的に見るので、没入することを抑制します。

作品でも観客が上から見下ろす舞台を作ったりもして、演劇的な没入から離れようともしていました。今のダムタイプは没入的な傾向が強いけど、私は観察的なものが好きなんだと思います。

小山田徹
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ダムタイプのオフィスで24時間メンバーと一つの作品に向き合い続ける時間は、小山田にとって幸福な時間だったのだろう。「大学の教員の仕事を引き受けたのも、『ダムタイプのオフィスみたいなのがずっと続けば良い』と思ってん。というか大学くらいはそういう場であってほしい」と語る。

2025年には京都市立芸術大学の学長・理事長に就任したが、ほぼ同時期に大腸がんで「余命半年」と宣告される。「2年前に死にかけてん」と淡々と話す小山田だが、本展の実現にも尽力した「初期ダムタイプアーカイブプロジェクト」について「ありがたいよね」と語った。 

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小山田:あのまま死んでいたら、これらは段ボールにしまわれたまま捨てられていたかもしれません。自分では、もう通過してしまったものだから貴重な資料とは思っていなかったけど、こうして見るとどのタイミングでどういうことを考えていたかが分かって面白い。当時は、あきれるほど物事を考えているよね。ある意味、とてもうらやましい時間です。

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