検証:あいちトリエンナーレ

私たちはそこから何を学ぶことができるのか? 特別寄稿:太下義之

2019年に開催を終えたあいちトリエンナーレの『不自由展』を巡る一連の騒動について考える。文化政策研究者であり、あいちトリエンナーレのあり方検討委員会のメンバーの太下義之による考察を、全6回に分けて連載。

【連載第1回】「ソーシャル・メディア型のソフト・テロ」と展示中止にまつわる誤解
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【連載第2回】グローバリゼーションの中の「表現の自由」と「検閲」――各国の憲法と自主規制
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【連載第3回】表現の自由はどこまで自由か――「シャルリー・エブド襲撃事件」とフェイクニュース
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【連載第4回前編】「関係性のアート」としての「不自由展」——『遠近を抱えてPart II』と『平和の少女像』を中心に
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【連載第4回後編】「関係性のアート」としての「不自由展」——結局、「不自由展」とは何だったのか
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【連載最終回】副産物としての想定外の効果——希望への第一歩
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情の時代にあって、考え対話し続けること
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75日間の会期を終え『あいちトリエンナーレ 2019』が、10月14日に閉幕した。106あった企画のうちの『表現の不自由展・その後』を巡っての脅迫行為に端を発する一連の騒動については、もうすでに多くのメディアが報じているのでここでは詳述しない。いわゆる「炎上した」ためもあってか、来場者数は過去最高を記録したという。せっかく数多くの人が観覧した芸術祭、一過性の「バズ」にしてしまうことなく、魅力にあふれた展示作品について心ゆくまで語り合おう、というのが本稿のとりあえずの目的だ。表現の自由や検閲、ミュージアムや文化助成の役割、挙げればキリのないほどにさまざまな地平の問題が絡み合っている本件を考える上で、個々の作品に時間をかけて向き合うことから始めることは決して無駄ではないだろう。   愛知芸術文化センター 今回の芸術監督を務めたのは、ジャーナリストの津田大介。ITを使った報道に一貫して携わってきた津田らしく、社会性の強いジャーナリスティックな作品や、映像などの新しいメディアを駆使した作品が目立つ芸術祭だったといえる。とりわけメイン会場の一つ、愛知芸術文化センターでは、映像作品やメディアアートが数多く展示されていた。 前回までと比較して、5万人近くも上回る67万人が来場したという今回のトリエンナーレだが、特に愛知芸術文化センターに限っては33万人と、前回の14万人弱をはるかに超える人数が訪れている。過去に例を見ない混雑に加えて、同会場の『表現の不自由展・その後』の展示中止を受けて、展示を自ら閉鎖する作家も多かったため、全ての作品を見られなかった人も少なくなかっただろうが、『ドクメンタ』や『ヴェネツィア・ビエンナーレ』への出展経験もあるタニア・ブルゲラや、『ベルリン国際映画祭』で短編部門金熊賞を受賞しているパク・チャンキョンなど、著名アーティストがめじろ押しだった。ミリアム・カーンの作品がまとまって見られたのもアートファンにはうれしい限りだろう。 なかでも印象的な作品の一つが、難民を扱ったキャンディス・ブレイツの『ラヴ・ストーリー』。『第57回ヴェネツィア・ビエンナーレ』にも出展された同作は、ジャーナリスティックな視点を持った映像作品という点で、津田芸術監督による今回の出展作品の傾向を代表する作品の一つといえよう。世界的な国際美術展への参加経験や受賞歴をことさらに挙げる必要もないのだが、ざっと見回すだけで国際的な評価の固まっているアーティストが多数参加している点からも「作家選択において過度な偏りがある」という芸術監督への非難が妥当なものか、判断できるのではないだろうか。  《Love Story》 2016、Featuring Alec Baldwin and Julianne Moore、第57回ヴェネツィア・ビエンナーレ、南アフリカ館、ヴェネツィア(イタリア) Commissioned by the National Gallery of Victoria, Outset Germany + Medienboard Berlin-BrandenburgPhoto: Andrea Rossetti Courtesy of Goodman Gallery, Kaufm

インタビュー:津田大介
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「情の時代」をテーマに、開催された国際芸術祭『あいちトリエンナーレ2019』。今年3月の記者会見では、参加アーティストの男女比を半々にする方針を打ち出し、大きな話題を呼んだ。主導したのは、同祭の芸術監督を務めるジャーナリストの津田大介。国内の芸術祭としては初となる「ジェンダー平等」を実現した理由を聞いた。 「アーティストの選定を進めていた昨年夏、選ばれた作家の男女比が男性6割、女性4割になっていることに気が付き、なんとなく違和感を覚えたんですね。そんなとき、耳を疑うような事件が起きた。東京医科大学で女性の受験者を一律減点していた不正入試問題です」 津田は、現代の日本でこのような女性差別が横行していることに衝撃を受けたという。一方、アート界に目を向けると、そこにも同様の構造的差別が存在していた。 「例えば、美術館の常設展示における作家の男女比や主要な国際芸術祭の男女比などを調べると、やはり男性が圧倒的多数なんです。だからこそ今回のトリエンナーレでは、アート界のみならず日本社会全体に変革を促す契機として、ジェンダー平等を強く発信すべきだと考えました」 その結果、同祭の参加アーティストは、全74組のうち男女混合グループなどを除いた63組の半数を超える32組が女性となった。男女比にこだわることには疑問の声もあったが、津田は「まずは数をそろえることが重要」と力を込める。 「決定権や発言権を持つ男女の数が同じになると、あきらかに場の雰囲気が変わります。だからこそ、まずは男性と同じテーブルに付き、男性と同じように意見を言う女性の数を増やす必要があると思うのです。数の上での男女平等を明確な態度として表明する意義はそこにあります。今回の取り組みが前例となり、社会全体にジェンダー平等が広がっていくことを期待しています」

ジェンダー差別を可視化するアートプロジェクト「Our Clothesline with Monica Mayer」
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ジェンダー差別を可視化するアートプロジェクト「Our Clothesline with Monica Mayer」

メキシコのフェミニストアーティスト、モニカ・メイヤーの作品『The Clothesline』を もとに活動するアートプロジェクト『Our Clothesline with Mónica Mayer』が、2020年度の川村文化芸術振興財団支援助成(※)の対象に選出された。 『Our Clothesline with Mónica Mayer』は、あいちトリエンナーレ2019参加作家のモニカ・メイヤーによるレクチャーワークショップに参加した有志グループによるプロジェクト。フラワーデモ名古屋の参加を筆頭に、メキシコ大使館「移民女性のエンパワーメントワークショップ」、上智大学主催のジェンダー暴力と闘うキャンペーン「Raise Our Voices For Empowerment」など、を日本各地で『The Clothesline』を開催する活動を行う。  可視化された声なき声『The Clothesline』  あいちトリエンナーレ 2019 の展示風景 モニカ・メイヤー 《 The Clothesline 》 2019 Photo: Akane Yorita モニカ・メイヤーの『The Clothesline』は、鑑賞者が質問の記載してある小さな紙に回答を記入し、会場の物干しロープ(The Clothesline)に干すというインタラクティブアートの手法をとった作品だ。日常生活の中で感じる抑圧、ハラスメントの経験を紙に書き、物干しロープに展示することで世の中に埋もれていく「声なき声」を可視化し共有する空間を生み出している。 あいちトリエンナーレ2019ではこの作品を通じて、日常生活の中で埋もれている性に関する嫌がらせや暴力、明らかな犯罪的行為が日常的に行われていることを浮き彫りにし、話題となった。また同トリエンナーレを巡る騒動の標的となった『表現の不自由展・その後』の展示中止期間には、物干しロープに干された小さな「声」を引きちぎり『沈黙の Clothesline』と内容を変えた抗議としての展示も行っており、同氏の敏捷(びんしょう)かつアーティストとしての感度の良さが示されていた。 このアート作品の特徴は、紙とペンと物干しロープさえあればどこででも開催が可能なこと。特別な知識や情報必要なく凡用性が高い反面で、アートとしてのレイヤーは多岐にわたる。そのため開催地のコミュニティーグループと協働し、その土地で現在どのような問題が起こっているのか、重要な問題は何かをまずグループ内で話し合い、作品に反映させているそうだ。そして1回の作品づくりでは終わらせずに、その土地で継続していくこと、派生した各地でそれぞれの『The Clothesline』の開催を、作家は希望すると表明している。  国際女性デーへ向けた取り組み 『The Clothesline』photo by Akane Yorita   本プロジェクトは国際女性デーに合わせ、未だ解消されないジェンダー問題をテーマに東京、名古屋での『The Clothesline』開催を企画。2021年3月8日(日)の開催に向けて、プロジェクトを進めている。また2020年度は、コロナウイルス感染症の影響により、フラワーデモ名古屋のみの開催となる。  フラワーデモ名古屋  2020年3月8日(月)17時00分~17時30分 場所:久屋大通公園希望広場/

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2011年に拘留が解かれて以来、芸術家の艾未未(アイ・ウェイウェイ/Ai Weiwei)は中国を離れることを禁じられている。しかしそれをもってしても、彼が世界で最も有名な芸術家であることは変えられない。ロンドンでの作品展を翌日に控え、タイムアウトは当局の監視、彼の成功、メディアへの頻繁な登場について、彼と対話を行った。 ※2014年に行ったインタビューです(原文)

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