It's Just Love ©Sophie Ebrard
It's Just Love ©Sophie Ebrard

インタビュー:ソフィ・エブラード

ポルノ業界を美しく照らし出す写真家、ソフィ・エブラードにインタビュー

Mari Hiratsuka
テキスト:
Mari Hiratsuka
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タイムアウト東京 > アート&カルチャー > インタビュー:ソフィ・エブラード

インタビュー:平塚真里

ソフィ・エブラード(Sophie Ebrard)は1976年フランス生まれ。広告業界で10年のキャリアを積んだ後、写真家へと転身。ポルノ作品のディレクター、ガズマン(Gazzman)との出会いをきっかけに、4年間にわたり世界中の撮影現場を撮りおさめた作品『It’s Just Love』をアムステルダムの自宅を展覧会場に発表した。

同作を『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017』のサテライトエキシビション『KG+』のプログラムのひとつとして、日本で初公開。本展は、けしていやらしいものではなく、詩的なストーリーさえも垣間見える作品として昇華されている。待ち合わせの場所に現れた彼女は、印象的な赤いリップと明るい笑顔で日本での展示について、彼女なりのポルノを撮るということについて、インタビューに答えてくれた。

日本を訪れることが初めてということで、滞在はいかがですか

日本には初めて来たので、展覧会を開催することで日本の文化に浸れるのは素敵だと思いました。展示は自費で行ったので、すべて自分で動かなければならず大変でした。しかし、日本の文化について、ただ寺や観光地的な場所に訪れるより余程理解することができたと思います。文化や、人々の働き方など、様々な物がとても美しく、感動しました。

—写真家になったきっかけを教えてください

写真家になって7年になります。写真家としてはまだ新人なんです。それ以前は10年間、広告業界で働いていました。この仕事が自分に合っていないと感じ、転職を考えたのがきっかけです。写真家の仕事は自分がやりたかったことなので、プレッシャーもなくて。すぐに私は作品を撮り始めました。美術学校には行っていないので、教師や先輩から必要以上に影響を受けたり、「何でも試しなさい」といった教えを受けることがありませんでした。

—独学で技術を取得したということでしょうか

はい。自分の作品の99パーセントはアナログカメラで撮っています。自分で技術を身に付け、色合いや、自分なりの仕事の方法、撮影したい人物など、色々なことを試すのに専念し、多くの時間を費やしました。そういったことを最初の数年間行っていました。

私が見た世界、ポルノの世界を見せる必要があると感じました

私が見た世界、ポルノの世界を見せる必要があると感じました

—どのような経緯でポルノ産業に焦点を当てた写真を撮ろうと決断したのでしょうか

今まで自分の友人を撮影していましたが、彼らにヌード写真をお願いするのはやり過ぎだと思いました。そこで、私はフリーセックスパーティーへ行き、その行為を眺めていました。人生で初めての経験だったので、衝撃を受けました。しかし、私が考えたようなマスクやら何やらがあるわけではなく、パーティーは品性を持って行われていて、とても綺麗でした。そのときに、このプロジェクトを本当にやりたいと思いました。

—この際にポルノ監督のガズマンと出会ったのでしょうか

はい。この夜に偶然、ガズマンと出会いヌードに関するプロジェクトをやりたいということを話しました。そうすると、彼は「撮影現場に来るといい」と言ってくれたんです。これはとてもラッキーなことでした。ポルノ産業はとても閉鎖的で、関わりたくてもコネクションがなければ実行するのはとても難しかったと思います。私はある撮影現場へに訪れ、その後4年間彼を追ってアメリカではロサンゼルス、ヨーロッパではポルトガル、スペイン、スコットランド、ウェールズと、様々な撮影現場を巡りました。

—現場を追い続けた理由はありますか

私はポルノ産業に対して偏見を持っていました。怪しげで美しくなく、女性は酷く扱われ、そこでは人間性が軽視されていると。しかし、実際に撮影現場に行ったときの感想はその逆でした。現場では多くのリスペクトがあり、俳優、スタッフともに仕事を楽しんでいたんです。女優たちは情熱を持っていました。現場を追い続けたのは、そこに美しさや、人間性を見出し、その産業が好きな人たちを見つけたからです。そして、私が見た世界、ポルノの世界を見せる必要があると強く感じました。

—あなたにとってヌード写真とは何でしょう

誰かが私に質問したんです。「ヌードと裸体の違いはなんですか」って。ヌードと裸体に違いがあるかなんて、考えたこともありませんでした。「ヌード」という単語の中には、より芸術的な意味合いや、それ以上の要素が含まれており、一方で裸体という言葉は、裸になるという行動、状態を示しているのだと思います。私は自分の写真がヌードとして、芸術性のあるものとして扱われて欲しいと思います。肉体、人間の身体とその美しさに特に関心を持っています。

—美しさを表現したかったということですが、あなたにとって美とは何ですか

私はどこに行っても美しさを見出したがります。それは写真家としてのDNAのようなものでしょう。たとえ荒涼とした場所においてさえ美しさを見出せると思います。美しくない世界を「スキップ」して美しさを見ようと、私の目はそんな風に鍛えられています。 

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—最初の展示はアムステルダムの自宅で行ったそうですね。反応はどうでしたか

訪れる人にとっては驚きだったと思います。自宅で展示を行うにあたり、大きなセットデザインも作りました。家具を動かしたり、塗り直したりと、全部やりました。そして訪れた人は、私の家に来ることも、写真家の家で展覧会を見られることも気に入ってくれました。近所の人たちも来てくれて、楽しい展示になりました。最初は『Creator's Project』や『VICE』などの雑誌が取り上げてくれるだろうと予測していましたが、『Marie Claire Brazil』には見開き8面で掲載されるなど、早い段階からメインストリームで取り上げられるようになりました。

—写真だけではなく、展示している空間そのものもアートの一部ということで、空間づくりで意識したことはありますか

この展覧会は没入感のある体験です。音や動画、匂いなど、セットデザインのセンスを捉えた写真を超えた、多くの要素があります。また、この空間をシックにしたいと思っていました。会場を全部可愛らしいピンクでガーリーな感じにしたくはありませんでしたし、低俗にもしたくありませんでした。何よりも会場の心地よさを重視しました。日本では、ヨーロッパ風の家具を見つけるのは難しいと思い、展示のためにアムステルダムから壁紙、家具、塗料など、すべてを持っていきました。

—カーテンで覆われていた作品もありましたがなぜでしょう

日本の会場ではいくつかの作品をベルベットのカーテンで覆いました。作品を覆った理由は日本の「性器を見せてはいけない」という法律(刑法175条)のためです。しかし観客が、ちょっと驚いて、楽しそうに声を上げているのは面白かったです。なので、もし展覧会を他の場所で開くとしても、私はベルベットの仕掛けを続けたいと思っています。

—カーテンを使って男性器の写真を展示することが出来たのは興味深いです。法律やそのほかの問題はありませんでしたか

この展覧会のために8ヶ月ぐらい準備してきましたが、常に気がかりだったのは、税関で止められるのか、展示の準備が終わった際に止められるのか、人が来た時に止められるのか、ということです。こういったリスクはいつでも存在しますが、公の目に完全に触れないようなある程度の配慮を行うことが大切なのではないでしょうか。京都は伝統のある街だと思うので、問題が起きる可能性はあると思いますが、今のところは大丈夫です。

 

—このプロジェクトにとりかかる際に決めたことなどはありますか

常にアートプロジェクトであることを心に留めるようにしていました。実際、ポルノとアートの線引を見つけるのは非常に難しくて。また、現場でのバランスの取り方が重要と考え、彼らから影響を受けないように心がけました。私とは異なるスタイルでしたし、作品に適した方向性とは違っていました。写真監督の真横に立って撮影していて、同じモデル、同じ照明だというのに、彼らが撮影しているのは私にとって不快な、典型的なポルノで、私が撮影しているのはアートだったんです。

それにポルノを悲観的な視点で撮影するのは嫌でした。撮影現場にいると、「ああこれは酷い、女優たちは大変な目にあっている」というように思ってしまいがちです。たとえば女の子が疲れているからソファで寝ていたとして、彼女を悲しく見せるように撮ることは可能なんです。

—実際にポルノ産業には悲しい側面もあると感じたことはありますか

あまりそういうことはありませんでした。もし不快な物だけを見ていたら、私はプロジェクトを続けていなかったと思います。唯一の部分としては、撮影現場にいた女優たちは20代ですが、ほかの仕事を見つけるのが難しいだろうということです。履歴書を持って面接に挑んでも、ポルノ作品に出たことが分かったら、まともには扱われないでしょうし、この仕事について偏見があるだろうということです。

—4年間の撮影のなかで見えてきたポルノ業界とはどのような業界でしょう

私はポルノを見ません。なので撮影現場へ行ったときは無知でしたが、人々が言うような偏見は知っていました。4年間で変わったことと言えば、ポルノを産業として見るようになったことでしょう。この産業について、素晴らしいと言いたいわけではありませんし、私の見たことが世界のどこでも同じだと言いたいわけでもありません。そこに美しさを見出し、人間性を見出し、その産業が好きな人たちを見つけたということです。

ひとつ言えるのは、一昔前までは、常に多くのお金が回っていましたが、今ではポルノ産業が衰退しているということです。若い世代がポルノ作品を買わず、オンラインで無料で観るのがスタンダードになってしまったからです。なので、最近は40代以上に向けた作品が多く、作品で主演になる男性は40代以上で、若い女優が登場するような作品を制作して顧客を集めています。しかし、彼らが年をとった頃には、ポルノ産業がどうなるか分かりません。

—「It’s Just Love」というタイトルですが、どのような意味が込められているのでしょう、現場から、愛を感じましたか

当初は撮影や出演者に愛が存在するなんて予想していなかったです。「It’s Just Love」は1日の終わりに使うような結びの言葉のようなものです。また、撮影現場で出会ったポルノ俳優の2人が実際に結婚しました。彼らの関係の始まりから見ていたので、結婚したのを見れたのはとても素敵なことでした。私がプロジェクトを始めた頃に考えていたことと逆だったので、より一層素敵に感じられたんです。

ソフィ・エブラード 『It’s Just Love』

2017年4月15日(土)〜5月7日(日)

会場:FRANK WORK STUDIO

住所:京都市下京区中堂寺前田町9-9

開館時間:13時00分〜19時30分

料金:500円

ソフィ・エブラード 公式サイトはこちら

KYOTOGRAPHIEに行ってみる…

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭の4つの魅力
  • アート

『KYOTOGRAPHIE(キョウトグラフィー) 京都国際写真祭 2017』が4月15日、京都市で始まった。国内外で活躍する写真家の作品の展示や体験イベントなどが、市内各地で5月14日(日)まで行われる。2013年の初開催以来、年々、注目が高まる『KYOTOGRAPHIE』。写真祭の特徴や注目の展示、見どころなどを紹介する。

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