Tohoku Update: Hope swings

東北アップデート:希望のブランコ

東京のとあるNPOが被災地に笑い声を運んできた

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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マイケル・アノップが、宮城県気仙沼市のとある公園で遊具を修理していると、近くのガソリンスタンドで給油をしていた男性がポンプを止めて彼に歩み寄り、握手を求めてきた。「彼は、この辺りには子どもたちが遊べる場所が全然ないんだと言っていた」と語るアノップはマサチューセッツ生まれのアメリカ人。NPOのプレイグラウンド オブ ホープを主宰し、2011年の東日本大震災で被災した町に子どもたちが遊べる公園を作る活動を続けている。「本当に何もないところへあなたが来てくれ、こうして遊具を直してくれる。感謝の気持ちでいっぱいです」と彼は語ったそうだ。

1989年から東京で暮らすアノップは、3.11の大震災の直後にSAVE南相馬プロジェクトに参加。その翌年には、事故を起こした福島原発周辺の放射線避難指示区域と隣接する町々へ、定期的に新鮮な食材や飲料水を届けた。

アノップはそこで、仮設住宅で暮らす人々が近所付き合いをする機会が、食料を積んだトラックが到着する日しかないようだと気が付いた。男たちは並んでたばこをふかし、女たちがおしゃべりをしている。その間、子どもたちはコンクリートで固めただけの駐車場を走り回っていた。

母親が「危ないから駐車場で遊ぶのは止めなさい」と叫ぶ声を何度も聞いたという。「そこで、ここに仮設ブランコを作ってあげられないだろうかと考えたんだ」。そしてすぐにアメリカのレインボープレイシステムズという会社に木製の遊具セットを納めている知り合いに連絡をとったところ、破格の条件でアノップに日本での販売権を与えることを承諾してくれたそうだ。

しかし、戸外に遊び場を造るには、南相馬の放射線量は非常に高すぎた。そこでアノップはさらに北の石巻市に目を向ける。そして2012年4月、同地に最初のプレイグラウンド オブ ホープが誕生した。「ちょうど小学校の再建計画が進んでいたのですが、市には校庭を整備するまでの資金は無かったのです」とアノップは当時を振り返る。

「そこでその学校に行って、遊具のセットを無料で提供したいと話したところ、皆さん喜んで賛成してくれました」それ以来、プレイグラウンド オブ ホープは東北の50ヶ所に遊び場や遊具のセットを整備してきた。また、関東では児童養護施設の遊び場を改装し、2016年秋には、熊本大地震の被害を受けた九州の小学校に新たに遊び場を作った。

この建設費用は1件当たり平均で400万円にものぼるため、アノップは地域住民とともに作業にあたる30〜50人ほどの従業員をボランティアとして派遣してくれるスポンサー企業を探して回った。プレイグラウンド オブ ホープの活動に初期からボランティアとして協力してきたマイク・コノリーは、地面に穴を掘り、遊具を建てるための基礎を造って基本枠を立ち上げるまでの事前工事を手伝う。

こうして多くの人の手を借りながら作業は1日で完了し、ボランティア全員でハンバーガーとホットドックを楽しんで完成セレモニーは終了する。「最も難しいのは、公式オープンの前に子どもたちの安全のための防護柵を設けることです」とコノリーさんは言う。「児童たちが遊具で遊び始めたら、それを止めることなんて暴れ牛に立ち向かうよりも難しいことですから」

津波で建物の5分の1が破壊され110人の町民が亡くなった新地町の駒ヶ嶺小学校にも、こうした遊び場が造られた。それ以来、この小学校は近隣の町々から家を失った家庭の子どもたちを受け入れている。

「ボランティアや父兄、地域住民の皆さんと力をあわせて遊び場を作る作業は、様々なバックグラウンドの人々を結びつける良い機会となっています」と話すのは、同小学校の高橋澄子校長だ。「ある意味で、新しいコミュニティができあがろうとしているのです」

インタビューした日の午後、アノップは麻布十番のオフィスの椅子に座り、大震災後に初めて建てた気仙沼の遊具セットの思い出を語ってくれた。

「ガソリンスタンドから道を横切って歩み寄ってきた男性。その人がいたからこそ、私はこの活動を今日まで続けて来れたのです」とアノップは語る。「完成式を開くたびに、いまだに私は涙が溢れます。皆さんが喜び、笑う声が聞こえる、それだけで十分に報われるのです」

NPO法人「Playground of Hope」の詳しい情報はこちら 

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東北探索 第1回『武士の歴史を追って 福島県西部』
  • トラベル

タイムアウト東京 > トラベル > 東北探索 第1回『武士の歴史を追って 福島県西部』 in association with NHK WORLD テキスト:Joel Meares 写真:Keisuke Tanigawa 翻訳:Momoko Asai 今年で東日本大震災から5年が経つことを受け、タイムアウトニューヨークの記者が東北地方を巡り、現在の東北をレポートする記事をタイムアウトニューヨークのウェブサイト、タイムアウト東京の英語サイトで連載している。全4回の連載の第1回目は、『Following the samurai in western Fukushima』と題し、会津若松の名物を紹介。 第1回『武士の歴史を追って 福島県西部』第2回『東北で見つけた海の生き物たちとフラダンス』第3回『宮城で島めぐりと人間観察』

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