世界で最も素晴らしいアール・デコ建築 9選
Photograph: Just dance / Shutterstock
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世界で最も素晴らしいアール・デコ建築9選

誕生から100年を迎えたデザイン様式を巡る

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2025年は、1925年開催の「現代産業装飾芸術国際博覧会(Exposition Internationale des Arts Décoratifs et Industriels)」の100周年に当たる。

この画期的なパリ万国展覧会の名称の、Arts Décoratifsから名付けられたのが、装飾様式の「アール・デコ(art deco)」だ。すっきりとしたライン、大胆な幾何学的な形状、そして鮮やかな色使いを特徴とするこの様式は、当時、野心的な前衛芸術であると評価された。同展覧会には20カ国から出展者が集まったことも手伝い、アール・デコの魅力は世界に広く受け入れられることとなった。

アール・デコの起源は1910年代にあり、同時代のキュビスム美術の影響を受けているとされる。1920年代から30年代にかけて最盛期を迎え、家庭用品や宝飾品、ファッション、自動車など、知的産物のあらゆる領域に浸透したが、なかでもアール・デコ建築としての流行がとりわけ顕著だった。

この様式はさまざまな要素をどん欲に取り込んでいて、アステカ、マヤ、エジプト、古代ギリシャおよびローマなどの文化などから着想を得ている。1930年代には第2次ブームを迎え、より流線的で、装飾をそぎ落とした、アール・デコの派生である「ストリームライン・モダン」様式も同様に人気を博した。 アール・デコはモダニズムほど革新的ではなかったと言っていいだろう。

装飾的な性質や具象的要素は、間違いなくその時代のものであり、新たな時代を先取りしているわけではない。しかしながら、そのより斬新な側面、すなわちすっきりした線と簡潔さは、現代においても新しさを感じさせる。今も若いデザイナーたちがアール・デコ建築に触発されているのも不思議ではない。

アール・デコ建築の傑作を選び抜くのは容易ではないが、ここではひとりの専門家の目線で厳選した、世界の9つの傑作を紹介する。

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デイリーエクスプレス・ビルディング(ロンドン)

1932年にエリス・アンド・クラークが設計し、後にオーウェン・ウィリアムズにより改修された英国登録建造物グレードII*の建物。アール・デコ様式から派生したストリームライン・モダン様式に分類される。

いくつもの層が積み重なったファサードは丸みを帯びた輪郭を持つ。主な外装材として用いられているのは、頑強で黒色のすりガラス「ヴィトロライト」。光沢を放つクロムメッキの細いラインが形作る、控えめな格子模様がこの建物の唯一の飾りといえるだろう。

一方、中に入るとロビーの装飾は極めて華麗だ。デザインはロバート・アトキンソンが担当。鋼製家具のデザインは、彼が依頼したアール・デコ・デザイナーのベティ・ジョエルが考案したものだ。壁面には彫刻家エリック・オーモニエが手掛けた金銀に輝くレリーフが彩りを添えている。

クライスラー・ビル(ニューヨーク)

マンハッタンにある20世紀初頭の高層建築の中でも、クライスラー・ビルは最も象徴的かつ明確にアール・デコ様式を体現している。

例えば、躍動感をもって空に伸びている尖塔。典型的なアール・デコ様式である太陽光線をモチーフとした意匠が施されている。筆者は、このデザインは電波を想起させるものであり、近代性および技術的進歩を示唆していると見ている。

クライスラー・ビルは、クライスラー社の社長であったウォルター・P・クライスラーのために、建築家ウィリアム・ヴァン・アレンによって設計され、1930年に竣工。単純な造形に見えるかもしれないが、目を凝らすと、この建物にはワシの形をしたガーゴイルが取り付けられていたり、クライスラー車のラジエーターキャップから着想を得た、手の込んだ装飾がなされたりしていることが分かる。

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アレックス・シアター(ロサンゼルス)

第一次世界大戦後から第二次世界大戦が始まるまでの間に次々と建てられたアール・デコ様式の映画館は、新しく豪華な建物が人気を博したこともあり、アール・デコの美学を世に広めるうえで大きな役割を果たした。

後に「アレックス・シアター」と略称されるようになった「アレキサンダー・シアター」は1925年、ボードビルの公演およびサイレント映画の上映会場として開館。現在は舞台芸術センターとして機能している。

映画産業の中心地であるハリウッドに近いこともあり、その外観は非常に華やか。入り口の上には、オベリスクがそびえ、夜になるとネオンで照らされる。 チケット売り場の先は、ハリウッドの「グローマン・エジプシャン・シアター」に着想を得た広々とした屋外の前庭を経てロビーへとつながる。この動線が、空間をドラマティックにしている。

アールデコ歴史地区(マイアミ)

1975年にマイアミ・デザイン保存連盟を共同設立したバーバラ・ベア・キャピトマンとその息子ジョンの尽力により、長らく放置されていたサウスビーチ地区のアール・デコ建築が大々的に修復された。

この地区には、アール・デコ建築のホテル、住宅、店舗などが、世界で最も密集している。その多くはストリームライン・モダン様式で建てられ、アイスクリーム・パステル(アイスクリームを思わせる淡く、クリーミーな色合い)と呼ばれる色彩に彩られている。

この地区の多くのホテルを設計したことで知られるのが、地元建築家ローレンス・マレー・ディクソン。1939年に建てられた丸みを帯びたデザインの「マーリン・ホテル」は彼の代表作の一つで、パウダーブルーとバターミルクイエロー色を配したファサードが特徴だ。

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エロス・シネマ(ムンバイ)

アール・デコ建築はインド、なかでもムンバイで大いに発展を遂げた。1930年代頃から、勢いを増していた中流階級は西洋の影響を積極的に受け入れ、住宅、ホテル、映画館を同様式で建設。その中には孔雀のデザインなど、土着のモチーフも巧みに取り入れられていた。 実業家シャワックス・カワスジ・カンバタが、1935年に建築家ソーフラブジ・ベードワールに依頼し、マリーン・ドライブ沿いに建てたのが壮麗な「エロス・シネマ」だ。

段状のファサードは滑らかな象牙色を基本に、赤いアグラ砂岩が生み出す濃厚な土色も使われている。華美なエントランスホールには、黒と白の大胆な模様をあしらった大理石床が敷かれ、古典様式とインド様式のフリーズ(柱の上部の水平な構造体のひとつで装飾的な役割を果たす部分)が見られる。

エルサム宮殿(ロンドン)

ロンドン南東部にある「エルサム宮殿」は、14世紀に建てられたが、イングランド内戦の際に甚大な被害を受けた。

1933年、繊維業で知られるコートールド家の御曹司、スティーヴン・コートールドとその妻バージニアが、中世時代の広間を修復。さらに、建築事務所シーリー&パジェットに監修を依頼し、目を見張るほど豪華なアール・デコ様式の内装を施した空間の増築も行った。

円形でドーム状の玄関ホールの設計は、デザイナーのロルフ・エングストロームによるもの。食堂にある黒と金の扉には、夫妻が飼っていたワオキツネザルの「マージャン」を含む、異国の動物たちが描かれている。バージニアの浴室は息をのむほどぜいたくで、輝く金のモザイクを背景に、オニキス製の浴槽が据えられている。

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パレ・ド・トーキョー(パリ)

パリ16区に位置するこの広大かつ複雑な建築物は、コロネード(列柱)によって結ばれた2つの翼棟から成り、広場、長方形の水盤、そして噴水と行き来できるようになっている。1937年のパリ万国博覧会のためにジャン・クロード・ドンデル、アンドレ・オベール、ポール・ビアール、マルセル・ダストゥーグの4名の建築家が設計し、現在は20世紀および現代アートを所蔵する美術館として用いられている。

そびえ立つ列柱を備えた堂々とした外観は、1930年代の仰々しい国家主義的な建築様式を想起させるが、アルフレッド・オーギュスト・ジャニオが物憂げな人物たちを描いた巨大なフリーズのおかげで、建物の大仰な美的スタイルがある程度和らげられている。

セントラル・ファイアー・ステーション(オークランド)

ニュージランドのオークランドには、目を引くアール・デコ建築が数多く存在している。1944年に完成したセントラル・ファイアー・ステーションもその一例だ。建築家ダニエル・ボイズ・パターソンによって設計されたこの建物は、機能性が求められる消防署にふさわしく、ストリームライン・モダン様式で建てられている。常駐職員のための居住施設もまた、同じ様式で設計されている。

もっとも、アール・デコ建築である以上、機能を重視しつつ高いスタイル性も実現している。幾何学的なファサードには、優美な縦溝の柱やジグザグ模様が配され、いずれも典型的なアール・デコの色調であるオードニル(青みがかった淡い緑)に彩られている。

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フーバー・ビルディング(ロンドン)

英国登録建造物グレードII*の華麗な建物で、ウェストロンドンのA40号線沿いにある。建築設計事務所ウォリス・ギルバート・アンド・パートナーズが、電気掃除機メーカーのフーバー社のために設計―し、1933年に竣工。かつては同社の本社および工場として機能した。

詩人ジョン・ベッチェマンは、この建物の外装に施された華麗な装飾をマヤ文明およびアステカ文明に着想を得たものだと述べ、壮大な建物がマヤやアステカの人々の誇りや共同体意識を高めたように、こうした意匠は従業員の士気を高めるためのものだと指摘している。

建築家トーマス・ウォリスは、父権的な経営者目線でこう述べた。「装飾、特に色彩にいくらかの金をかけたとしても、労働者の心理によい効果をもたらすのなら、無駄金にはならない」

建築デザインに興味があるなら……

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関東大震災や第二次世界大戦の東京大空襲で大きな被害を受けるまで、東京には、現在も京都で見られるような木造の家が立ち並んでいた。その後、鉄鋼やコンクリート、独創的な形状に重きを置いたさまざまな建築物が建てられ、東京は現代的に生まれ変わった。

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建築家・クマタイチが手がけた建物や店舗を訪れると、知らなかった日常への扉が用意してある。「建築におけるソフトとハードをつなぐ」をコンセプトに、設計から管理、運営までを行うTAILANDの主宰であるクマ。彼が携わった店は、いずれも食、街づくり、コミュニティーといった多様な側面から注目されている。

ここでは、東京で現在訪れることができる店を紹介しよう。ぜひ足を運んでみてほしい。

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