車いす目線で考える
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車いす目線で考える 第27回 障害当事者が変えていく社会へ

バリアフリーコンサルタント大塚訓平が考える、東京のアクセシビリティ

テキスト:
Time Out editors
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日本では124日から10日までの1週間を、人権週間と定めているのを知っているだろうか。世界人権宣言の意義を訴えるとともに、人権尊重思想のさらなる普及高揚を図るために、全国各地で講演やシンポジウムが開催され、さまざまな人権啓発活動が行われている。

僕自身も毎年1112月は、障害者の人権をテーマにした講演の依頼を多くいただく。普段触れることのない、「人権」や「障害」という言葉を聞くと身構えてしまったり、講師が車いすユーザーだと急に距離を感じてしまったり、知らず知らずのうちに意識のバリアが生まれてしまうものだ。

僕は講演や研修をする際、「障害とは何か?」と問いかけることがある。こう問われると、参加している人たちの大多数は、「立って歩くことができない」「目が見えない」「耳が聞こえない」など、身体的、機能的な障害を挙げることが多い。

しかし、障害のある人たちに同様の質問をすると、「階段を目の前にした時に障害を感じる」(肢体不自由者)、「点字ブロック周辺に自転車が停まっている時に障害を感じる」(視覚障害者)、「緊急時の案内が音声のみの時に障害を感じる」(聴覚障害者)という答えが返ってくる。つまり、何かしらのシチュエーションが重なることで生じる、困難さやその状況を「障害」と捉えている場合が多い。24時間365日、障害を感じているわけではないのだ。僕自身もこのコラムを書いている時、会話をしている時や食事をしている時、寝ている時などには、障害を一切感じていない。

また、障害は視点を変えると、面白い解釈ができる。例えば、いつもの飲食店が、以下のそれぞれの状況に変わっていたらどうだろうか。①テーブルのみで座るいすがない、②店内が真っ暗闇、③店のスタッフ全員が手話を使う。いすがなければ屈みながら食事を取ることになるし、明かりがなければ全て手探りで移動しなくてはならない。手話が使えなければ、注文さえままならないだろう。

それに対して、車いすユーザーは常にいすを持参しているし、全盲の人は暗闇移動のプロ、ろう者の第1言語は手話言語のため、いずれの状況でも障害がない(障害は十人十色のため、当てはまらない場合もある)。

その時に置かれた環境や状況によって、障害は逆転することがある。このような視点は従来型の「医学モデル」よりも、「社会モデル」の方がフィットするのではないだろうか。

「医学モデル」は、不利益や困難さが生じる原因が個人にあり、社会適応の手段はリハビリによるものとする考え方だが、「社会モデル」は、障害のない人を前提に作られた社会の仕組みや構造に原因を求め、周りの環境整備をすることで、あらゆるバリアを解消していこうとする考え方だ。

そして、世の中がこの「社会モデル」の考え方にシフトしてきたのは、2006年の国連総会で、障害者権利条約が採択、日本も批准し、のちに障害者差別解消法が施行されたことが大きな要因だと思う。前述の障害者権利条約の本文中には、「他の者との平等」というワードが32回も出てくる。これは、障害者を特別扱い、優遇するものではないことを示すと同時に、一般の人が享受できる恩恵や対応を、同じように受けられることを指している。

日本国内の障害者の数が、2020年度中に1000万人に到達する見込みになり、少子高齢多様化の時代に入った現在だからこそ、障害当事者が何に障害を感じ、社会に対してどのように解消してほしいかを、具体的かつ明確に伝えられなくてはならない。そうして、あらゆる社会障害を解消していけば、社会参加や就労機会も増え、経済活性化にもつながるのではないかと思う。ポイントは、社会の側だけでなく、障害当事者自身のさらなる成長なのかもしれない。

大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)

1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。

車いす目線で考えるを振り返る……

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