車いす目線で考える 第20回 東京の水上交通の利便性とバリアフリー

バリアフリーコンサルタント大塚訓平が考える、東京のアクセシビリティ

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Time Out Tokyo Editors
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ハード面とソフト面の双方からバリアフリーに関するコンサルティング事業を展開している大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)とともに「東京のアクセシビリティ」について考えるコラム『車いす目線で考える』の第20回。

今回は、間近に迫る『東京オリンピック・パラリンピック』での交通網について。東京でも進みつつある水上交通の利便性をバリアフリー目線で、タイの首都バンコクを例に出しつつ考えてみた。

※タイムアウト東京では通常「障がい」と表記していますが、視覚障害などを持つ方々が文章読み上げソフトを使用すると、「さわりがいしゃ」と読み上げられてしまうため、このコラムでは「障害」としています。

いよいよ2020年、『東京オリンピック・パラリンピック』イヤーが幕開けした。世界のトップアスリートたちが競い合う姿を見ようと、日本、そして世界中から、多くの人が東京に集まる。オリンピックは、早朝から深夜にわたって339種目もの競技が開催され、大会関係者や観客の合計が800万人を超えると言われており、パラリンピックでも240万人を超えるそうだ。これだけ多くの人が大会期間中に移動するということで、当然ながら道路や鉄道など、交通網の混雑が懸念されている。昨年からこの混雑緩和対策として、テレワークや時差出勤、鉄道の増便、首都高の交通規制や料金上乗せ、そして船通勤などの実証実験が行われてきた。

鉄道の増便も良いが、車いす目線で考えると、交通の幅が広がる意味でも、水上交通を生かした船には期待をしたいところだ。船を使った移動で手本にしてもらいたいのが、微笑みの国、タイの首都バンコク。

僕は年末年始をバンコクで過ごしてきた。近年バンコクは急速な都市化と道路整備の遅れに伴い、交通渋滞が日常化している。そんな世界有数の渋滞都市でありながら、チャオプラヤ川を行き来する水上バスだけは渋滞知らずで、日本は船をもっと活用すべきだと感じた。水上バスは、昔から広くバンコク都民の足として定着していて、通勤はもちろん、チャオプラヤー川沿いにある寺院や王宮など主要な観光名所をボートで巡ることもでき、とても便利だ。

車いすユーザーにとって、ボートの乗降はハードルが高いように思う人もいるかもしれない。確かに、ボートと乗り場の間には、少々怖さを感じるくらい隙間もあるし、段差もある。しかしタイの国民性なのか、観光地だからなのか、必ずその場にいるスタッフだけでなく、乗客までもがみんな笑顔で気さくに手助けしてくれるのだ。日本のように、「サポートする人員が整っていない」とか、「係員がスロープを持ってくるまで待っていなくてはならない」などのマニュアルには縛られていない。ハード面のバリアフリー化が不完全だからこそ、その場にいるみんなで手伝うのが当たり前といった感じで、とても心地よかった。

そして、行き先や時間帯によっても異なるが、5〜10分間隔で運航しているので待ち時間も短く、船は定員が決まっていて満員電車のようになることがなく、ストレスフリー。

今年の訪日外国人旅行者数は3430万人と予想されており、鉄道や道路の交通網はパンク状態になりかねない。そんなときに水上バスや、水上タクシーを使って、空の玄関口となる羽田空港から都心まで容易にアクセスすることができるようになれば、混雑緩和にも期待が持てる。これは、車いすユーザーにとってもありがたいことで、混雑する中で複雑な乗り換えが必要な鉄道を使うよりも、船でダイレクトに都心にアクセスできる方が格段にスムーズで安心だからだ。

今後ますます水辺の開発が進む東京において、あらゆる人のシームレスな移動を実現するには、船乗り場のバリアフリー化はマストだと思う。しかし、スロープがあったとしても天候や潮の満ち引きで水位が変わってしまうだろうから、やはりそこには人の力が必要不可欠だ。僕がバンコクで体験したように、周りにいる乗客がさっと手を差し伸べて手助けすることができれば、余計な時間もかからず、よりストレスフリーな移動を楽しむことができるだろう。

大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)

1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。

車いす目線で考えるを振り返る……

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