創刊号を読み解く 第9回 - CREA

あの雑誌の創刊号に映るものとは? 創刊号蒐集家たまさぶろが分析

テキスト:
Kunihiro Miki
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創刊号マニア、たまさぶろによるコラムの第9回。今回は、1989年に創刊され、2019年に30周年を迎えたライフスタイル誌『CREA』。

30年間変わらないコンセプトを貫く同誌だからこそ、硬派なテーマを多く扱った当時の特集やコラムは、今現在の世情と比較すると、栄枯盛衰、変わったもの、相変わらずのもの、多くの事象を浮き彫りにする。

文藝春秋社から「初の女性誌」としてスタートした『CREA』の創刊号は、1989年12月号。2019年の10月で30周年を迎えた。

表紙のキャッチコピーは「美しき野次馬たちへ」。誌名および社名のロゴの下には「Full Of Curiosity」とタイプされている。現在の同誌のウェブ版にある「好奇心旺盛な女性たちへ」というコピーを見るに、そのコンセプトが30年間変わらずに維持されてきたことが分かる。

誌名の「CREA」の語源は、creationから来ている。イタリア語でcreareの三人称単数現在形と命令形を表す語だ。創刊号の最終ページには「creare:神は人間を創造した、モードを作る、芸術を創作する」などに文例があると記されており、「騒ぎを起こす、先例を作る」の例もある。

ロゴデザインはイタリアのデザイナー、マッシモ・モロッツィの手によるもの。同国のプロダクト・ブランドALESSIのサイトに彼のプロフィールを発見したが、それを読んでも私には彼のキャリアのほどは計れなかった。ロゴは、25周年となる2014年に行われたリニューアルの際に変更されている。

創刊から、20〜30代の経済的に自立した女性をターゲットに据えている。当時は政治や社会問題、地球環境、サブカルについても取り上げているが、同時代に鳴り物入りで登場した他社の創刊号と比較してみると、能書きの類いは極めて少ない。創刊に当たってのステートメントも誌面上には見られない。

しかし、現在はグルメ、旅、ファッション、ビューティなどがメインとなり、いわゆるライフスタイル誌として他誌との差別化が難しくなっている。1980年代の女性と現代の女性を比較すると、21世紀の現在の方が社会問題に関心が薄いという傾向の現れ……ではないと願いたい。

創刊号の表紙は文春らしく非常に硬派。当時、男性向けに創刊された『マルコポーロ』などと同じテイストに見える。写真はアルド・ファライ。モデルはVerde。クリエーティブは長友啓典である。長友は田中一光に師事し、黒田征太郎とK2を興した、装丁の世界では広く知られたグラフィックデザイナーだ。アートディレクターの高橋雅之は長友、黒田に師事し、出版のほか舞台なども手がけ、現役として活躍中である。

発行人は川又良一。川又は開高健とのゆかりの深い人物として知られ、名作『最後の晩餐』を手がけた名物編集者でもある。編集人の斉藤禎(ただし)は満州生まれの同社元常務。2007年に日本経済新聞出版社に移り会長まで務めた。今振り返るとひとしおだが、控えめに言って精鋭と言える布陣である。昔の雑誌にはそうした人々を集結させる力があったように思う。

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表2は資生堂のファンデーション「エリクシール」の見開き広告だ。この時期、資生堂は前年同様、CMにアン・ルイスを起用している。アン・ルイスは1984年以降『六本木心中』『あゝ無情』など大きなヒットを飛ばしていただけに、今振り返るとこの優等生的な起用は意外である。

目次の第1特集は「地球と楽しむ」。「PLANET of The YEAR~1990年の主役は地球」と題して、米誌『TIME』のシニアエディター、チャールズ・アレキザンダーとジャーナリストの青木冨貴子の対談が組まれている。

「地球」特集は続いて、当時、映画『フィールド・オブ・ドリームス』を大ヒットさせたばかりのケビン・コスナーを取り上げていた。地球と同作との関係性が見い出せない。さらに残念なのは、それに続くページが単なる雑貨の特集に終始する点だ。「地球と楽しむ」はずが、そのまま物欲に流れてしまっている。

それにしても、30年が経過した現在においても、人間はまだ真摯(しんし)に地球の環境問題と向き合おうとしない。日本も韓国もアメリカも中国も、為政者は自身のケツを拭くことに専念するばかり。グレタ・トゥーンベリの国連での演説のような訴えがティーンエイジャーから起こるのも、もっともである。

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「NEWSY CREA」とした時事ネタコーナーでは、曽野綾子、上野千鶴子、浅田彰、田中康夫、柴門ふみ、林真理子、玉木正之、山田詠美、中沢新一など、文春ならではそうそうたるメンバーが対談や執筆に登場する。30年前のドナルド・トランプも取り上げられ、今は亡き近鉄バファローズの好調についても伝えられている。

その後、橋本龍太郎が「わが女性問題と消費税」についてインタビューを受け、「裸の江副浩正」を彼の側近が寄稿。文春の気概を感じる。リクルートの元社員と挨拶すると、ふた言目には「私、元リクルートなんです」となぜか自慢されるが、彼らは「リクルート事件」を知らないのではないか……と勘ぐりたくなる。

以降、「日本初セクシャル・ハラスメント裁判」も取り上げているが、30年を経た現在もいまだ世界では「#METOO」が叫ばれ、日本では伊藤詩織さんにまつわる事象など、何一つ変わっていない状況にめまいを覚える。ホモ・サピエンスとは、成長することのない生き物なのだろうか。これでは1997年に「スカイネット」に滅ぼされていたとしても、不思議はなかった。

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塩野七生による「男たちのミラノ」、橋本治による「W浅野はもういらない」、「SEXと癌の危険な関係」、「アンディ・ウォホール、ゴシップ日記」と、どの特集を読み進めても非常に読み応えがある。

平綴じの中ほどの広告特集では、景山民夫をキャラクターに据えたSHARPの小カラー広告が8ページも続く。同社が将来、台湾の鴻海(ホンハイ)傘下に入るなどと、当時誰が予想しただろう。

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終盤にはスタンダードにグルメのページなども設けられている。しかし、掲載されている6軒中、21世紀の現在も残るのは、浅草の大黒屋と銀座のみかわやのみ。どちらも私が子どもの頃から残る懐かしい店だ。結局、時の洗礼を受けてまで生き残るのは、そうした老舗だったりする。もっともその老舗もいつまで続くかは予断を許さない。老舗を見つけたなら、いの一番に試しておくべき。それが私の人生訓だ。

編集後記は見られないものの、創刊記念として「男たちへ」のエッセイや読者投稿を募集。付随するアンケートハガキも海部首相など政治的設問となっており、多いに期待を持たせた。

表3の見開きはノエビアの象徴、鶴田一郎のイラストを使用したカラー広告だ。やはり、独特のタッチで描かれた日本の美人画は今見直しても艶めかしい。ノエビアは上場廃止されたがホールディング設立を経て、今なお健在なのは喜ばしい。

マガジンハウスの『an・an』、集英社の『FRaU』、日経BPの『日経ウーマン』と並ぶかたちで、女性誌を代表する存在であり続けている同誌。文春唯一の女性雑誌の威信をかけて、これからもなんとか生き残ってほしい。

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たまさぶろ

たまさぶろ

1965年、東京都渋谷区出身。千葉県立四街道高等学校、立教大学文学部英米文学科卒。『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後に渡米。ニューヨーク大学およびニューヨーク市立大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。このころからフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社にてChief Director of Sportsとしての勤務などを経て、帰国。『月刊プレイボーイ』『男の隠れ家』などへの寄稿を含め、これまでに訪れたことのあるバーは日本だけで1500軒超。2010年、バーの悪口を書くために名乗ったハンドルネームにて初の単著『【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR』(東京書籍)を上梓、BAR評論家を名乗る。著書に、女性バーテンダー讃歌『麗しきバーテンダーたち』、米同時多発テロ前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』。「あんたは酒を呑まなかったら蔵が建つ」と親に言わしめるほどの「スカポンタン」。MLB日本語公式サイトのプロデューサー、東京マラソン初代広報ディレクターを務めるなどスポーツ・ビジネス界でも活動する。

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