創刊号を読み解く 第6回 - ニキータ

あの雑誌の創刊号に映るものとは? 創刊号蒐集家たまさぶろが分析

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創刊号マニア、たまさぶろによるコラムの第6回。今回は、2004年9月創刊で2008年1月に廃刊した主婦と生活社の女性ファッション誌『ニキータ』を取り上げる。同誌は、「ちょいワル」なるバズワードを生み出した男性ファッション誌『LEON』の生みの親である編集者 岸田一郎が創刊したもの。「モテる大人の女性」像を発信していた誌面には、ほんの10年前とはいえ時代を感じさせるワードがちらほら。アデージョ(艶女)の幻影を今一度、思い出してみよう。

カリスマ編集者、岸田一郎

カリスマ編集者、岸田一郎

「ちょいワルオヤジ」のキャッチコピーにより一世を風靡(ふうび)した男性誌『LEON』の女性版姉妹誌『NIKITA』。表紙の「コムスメに勝つ!」というコピーは創刊当時、すっかり「コムスメ」ではなくなった女性層を立ち上がらせたものである。雑誌名を知らずとも、このキャッチを記憶している人もいるだろう。雑誌プロモーションとしては成功例と言える。

同誌は、主婦と生活社が2004年9月28日に創刊。11月号として世に出た。発行人は坪中勇、編集人は岸田一郎だ。

少しでもメディア業界に身を置いたことのある人にとって、この岸田一郎という編集長はかなりの有名人だ。岸田は大学卒業後、1979年に世界文化社へ入社。1988年に若者雑誌『Begin』を創刊。1993年に『MEN'S EX』を編集長として創刊している。

さらにそんな実績をひっさげ2000年末には主婦と生活社へ。2001年9月24日、『LEON』を創刊。同誌が標榜した「ちょいワル」とうワードは流行語となり、その第2弾「ちょいモテ」は2005年の流行語大賞にもノミネートされたほど。そのおかげで2匹目のどじょうを狙う出版業界では、数多のちょいワル男性誌が発行ラッシュを迎えた。

圧巻の広告枠

その手法を女性版に発揮したのが、この『NIKITA』だ。誌名は、『LEON』同様、リュック・ベッソン監督の映画作品から名付けられている。先のコピーからも分かる通り、この雑誌では「コムスメ」よりも上の年代の女性を取り込むことに成功。

艶女(アデージョ)、艶男(アデオス)などの流行語を生み出した。「アデオス」は私自身あまり耳にした記憶はないのだが、「アデージョ」はそれなりに定着した。アデージョの定義は、モテる成人女性、色気を有する大人の女性といった内容だ。

『LEON』全盛期の創刊だけあって、広告にはかなり気合いが入っている。表4には、ブルガリがドーンと構え、表2には資生堂が見開き、表3にはアウディがやはり見開きを使用している。アデージョなら自分でアウディを購入する人もいるだろう、ということだろうか。

巻頭の広告枠はなんと28ページ目まで延々と続き、当時の岸田の飛ぶ鳥を落とす勢いを感じさせる。1990年代、私が『FMステーション』という雑誌に勤めていた頃、編集長が台割をにらみながら広告を「断らなければならない……」と悩んでいたものだが、21世紀になってもそんな好況を生み出すとは、岸田は恐ろしき編集長だ。10万部少々の雑誌を作りながら、広告収入は毎号5億円を記録したとうわさされている。 

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「モテ」に挑む女性像

「モテ」に挑む女性像

特集内容をのぞいてみると、「コムスメに勝つ!」だけにその内容は女性の「モテ」にこだわっている。特集タイトルは、「ファッション、ビューティ、ジュエリー、時計から立ち居振る舞いまで……。脱『若作り』!脱『無難』! モテる艶女(アデージョ)は『テクニック』でコムスメに勝つ!」だ。

そのほかも「艶男(アデオス)の本能に火を付けるゆ〜ったり口調の『こくまろトーク』」、「足を組み替えるときだけ見せる禁欲?の『チラ赤』」など、女性があからさまに「モテ」に挑む姿勢は、当時は新鮮なものとして受け入れられた。「逆ナン」などという言葉が生まれた背景とも通じるものがあるが、こうして時代は移り行き、そうして現在につながっている。

『NIKITA STYLE BOOK』という別冊も付属している。ここでは「艶女的"大人買い"の心得10」と題された、なんとも物欲に訴えるテーマを扱っている。

第2特集のタイトルも「前がヌードで後ろがカービー」とこれもいやらしい、いや、艶めかしい。しかし実はパンプスの特集だ。

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アデージョ、その後

アデージョ、その後

350ページに及ぶ創刊号で華々しいデビューを飾った『NIKITA』ながら、2008年1月28日発売の2008年3月号をもって廃刊。現在は発行されていない。廃刊に至った最も大きな理由は、カリスマ編集長となった岸田が2006年9月をもって主婦と生活社を退社してしまったことだろう。岸田の退職以降、発行部数も広告収入も伸び悩んでいた。

一方、『LEON』は健在で男性誌業界を今もけん引している。同誌の中にNIKITA姉さんが現在でも頻出するのはご愛嬌。雑誌こそ姿を消したがしかし、「コムスメに勝つ!」お姉さま方は、今もそこかしこに生息しているのだろう。

たまさぶろ

たまさぶろ

1965年、東京都渋谷区出身。千葉県立四街道高等学校、立教大学文学部英米文学科卒。『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後に渡米。ニューヨーク大学およびニューヨーク市立大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。このころからフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社にてChief Director of Sportsとしての勤務などを経て、帰国。『月刊プレイボーイ』『男の隠れ家』などへの寄稿を含め、これまでに訪れたことのあるバーは日本だけで1500軒超。2010年、バーの悪口を書くために名乗ったハンドルネームにて初の単著『【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR』(東京書籍)を上梓、BAR評論家を名乗る。著書に、女性バーテンダー讃歌『麗しきバーテンダーたち』、米同時多発テロ前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』。「あんたは酒を呑まなかったら蔵が建つ」と親に言わしめるほどの「スカポンタン」。MLB日本語公式サイトのプロデューサー、東京マラソン初代広報ディレクターを務めるなどスポーツ・ビジネス界でも活動する。

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