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創刊号を読み解く 第10回 - メトロポリターナ

あの雑誌の創刊号に映るものとは? 創刊号蒐集家たまさぶろが分析

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創刊号マニア、たまさぶろによるコラムの第10回。今回はフリーペーパーを取り上げる。二十世紀の雑誌屋としては、雑誌は有料で購読してもらってこそ「雑誌」と長らく思い込んで来た。フリーペーパーは「しょせん広告の延長、それを作るのは広告屋であって雑誌屋でない……」そう切り捨てて来た。

しかし、時代はすっかり変わった。インターネットの到来とともにコストをかけ取材したコンテンツでも無償で読むことができ、そのコストの回収のために、広告セールスにより収益を得る。ビジネスモデルの変革は自然の流れだ。

デジタルメディアのビジネスモデルが成り立つのであれば、雑誌が同じモデルへと転換したとしても、おかしくはない。2004年7月に創刊された『R25』がその成功例だろう。あくまで公称ながら一時は55万部を発行したとされる。

それに先立ち2003年1月に登場したのが今回取り上げる『メトロポリターナ』。サンケイリビング新聞社とその親会社、産経新聞社により2003年1月に創刊された女性向けフリーペーパーだ。知名度は『R25』に劣るが、東京メトロの各駅に配布されるモデルを先んじて確立。現在も生きながらえている点として、一瞬で燃え尽きて姿を消した『R25』よりも、フリーペーパーとして、むしろこちらを評価すべきだろう。

創刊号のコピーは「こんにちは。果てしなく 美しい人生」

創刊号のコピーは「こんにちは。果てしなく 美しい人生」

誌名は「メトロポリタン」の女性系なのだろう。女性誌『コスモポリタン』の名称がそのままである点を考えると、違和感を覚えないことはないが、そこは愛嬌として見逃そう。創刊メンバーが広告セールスの際、各社広告部のお偉いさんから「ああ、『ナポリターナね』と」と笑われたエピソードを披露してくれたほど。創刊時にはそれなりの苦労もあった。

本誌のキャッチは「もう一歩、私になる」。創刊号のコピーは「こんにちは。果てしなく 美しい人生」。表紙は、真っ赤な包装紙のようなデザインに、題字とコピーは白抜き文字で載せられているシンプルなもの。創刊から10年ほどは、このデザインで統一されていた。

発行責任者は、信原尚武(のぶはら・なおたけ)。当時は、産経新聞社の常務。同社顧問を勤めた。プロデューサー名義で、石井雄一。実質的な編集長となる。以下、編集者、広告スタッフはすべて女性で固めており、男性的な黒いイメージの産経新聞からすると、物珍しい……。と表現して差し支えないだろう。

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6名の女性をフィーチャー

6名の女性をフィーチャー

いつも通り表紙からめくろう。表2見開きは、三菱自動車。パジェロの広告なれど、マッチョな描写は皆無。ただ、男の子とその父親らしい写真に、父が少年時代を回顧するコピー。左下欄外に小さく「今年も、2003ダカール・ラリーがスタートしました(以下略)」とあるのみ。2ページには「Meネット証券」の広告。3ページに目次を配している。つまり表紙と表2はページ数に換算しないページネーションを採用していることが分かる。

表題の特集では、宇宙飛行士の角野直子(現・山崎)、女優の中嶋朋子、宝塚の春野寿美礼など6名の女性をフィーチャー、その半生にスポットを当てている。ファッション誌でタレントなどきらきら女子だけに焦点をあてる切り口とは異なり、母体が新聞社であるだけに、社会的な題材を取り上げらられており、その気骨を感じる。巻頭は産経新聞から女性向けに雑ネタを集めたコンベンショナルな構成だ。特集の第2弾では、雲仙にスポットを当てている。

中綴じのセンターは「アヴァンティ」という派遣会社の広告と振り袖のショーケース。「AVANTI」とはイタリア語で「前進」を意味するが、BAR好きにとっては、FM東京でサントリーが一社提供していた著名番組内に登場する架空のレストラン、バー名として知られている。まるでそれとシンクするように銀座の同名の有名バーが存在する。

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2020年、味のある東京らしい姿は、すっかり消えてしまう

2020年、味のある東京らしい姿は、すっかり消えてしまう

切り取った過去を振り返ることができるのが、雑誌の長所。32ページでは、当時まだ健在だった「同潤会青山アパート」を「並木道がみつめる、今むかしの表参道」として取り上げている。1927年に建てられたこのアパートは長きにわたり表参道の象徴だった。現在は、表参道ヒルズなるものに変わってしまい、表参道も東京のどこにでも存在するクローンのような味気ない街に成り下がってしまった。前回の東京五輪当時に生まれた原宿駅舎も姿を消す。2020年、味のある東京らしい姿は、すっかり消えてしまうのだろう。五輪の功罪だ。

広告をビジネスモデルの柱に据えたフリーペーパー

広告をビジネスモデルの柱に据えたフリーペーパー

広告をビジネスモデルの柱に据えたフリーペーパーのケースは、男性よりも女性をターゲットとしたほうが、より息が長くなる傾向にある。広告掲載可能な商材は女性向けのほうがより多様であり、広告主としても女性向け商材のほうが予算が潤沢なのだろうか。男性向け広告となる自動車程度しか思い浮かばない。本誌がひそかに17年にもわたり生き延びているのが、何よりもそのニーズを体現している。

表3は、あいおい損保。起用されているのは、藤井フミヤ。今振り返ると、まだまだ若い。この最終ページには、アンケート用紙がついており、記入の上、メトロの駅に備えられた回収BOXに投函する仕掛けになっている。インターネット時代になったというのに、牧歌的なソリューションだ。奥付編集スタッフには、知人の名も見える。

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表4は「ネッツトヨタ」による「ヴィッツ」の広告。広告戦略に長けたこうしたページは、サンケイリビングや産経新聞社広告局の強みを活かした結果だろう。今となっては、ほぼ雑誌を手放してしまったが、産経新聞出版はかつて、意外にも骨太の雑誌を刊行しており、それなりに人気があった。

本誌は創刊号のみならず、数号自宅に保存してあった。「なぜだろう…」とそれぞれのページを刳ると、そうだ、ありがたいことに弊著『【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR』の書評を掲載して頂いたのだ。

産経新聞社は、無理やり右寄りの新聞を作り続けるよりも、こうした小回りの効くメディアを増やしたほうが、今後の新聞社生き残りの中では、その特色を活かすことができるのではないだろうか。デジタルの強みを活かし、バーティカルメディアを増やすのもひとつの手法だろう。今後の展開に注目したい。

たまさぶろ

たまさぶろ
たまさぶろ

たまさぶろ

1965年、東京都渋谷区出身。千葉県立四街道高等学校、立教大学文学部英米文学科卒。『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後に渡米。ニューヨーク大学およびニューヨーク市立大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。このころからフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社にてChief Director of Sportsとしての勤務などを経て、帰国。『月刊プレイボーイ』『男の隠れ家』などへの寄稿を含め、これまでに訪れたことのあるバーは日本だけで1500軒超。2010年、バーの悪口を書くために名乗ったハンドルネームにて初の単著『【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR』(東京書籍)を上梓、BAR評論家を名乗る。著書に、女性バーテンダー讃歌『麗しきバーテンダーたち』、米同時多発テロ前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』。「あんたは酒を呑まなかったら蔵が建つ」と親に言わしめるほどの「スカポンタン」。MLB日本語公式サイトのプロデューサー、東京マラソン初代広報ディレクターを務めるなどスポーツ・ビジネス界でも活動する。

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