フードテック
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フードテック勃興期、日本ならではのアイデアと技術にポテンシャル

「フードテック革命」共著者の田中宏隆と岡田亜希子に聞く

編集:
Marcus Webb
翻訳:
Time Out Tokyo Editors
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※本記事は、『Unlock The Real Japan』に2021年7月19日付けで掲載された『Future food』を翻訳し、転載。

フードテック市場が拡大し、世界的に大きな注目を集める中で、日本ではどのような動きが起きているのか。『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』の共著者で、コンサル大手シグマクシスの田中宏隆と岡田亜希子に話を聞いた。

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フードテックに対する投資額は5倍に

ここ数年、世界では食の分野にテクノロジーを掛け合わせた「フードテック」が、大きな潮流になっている。アメリカの調査会社によると、フードテックに対する2019年のスタートアップ投資額は、5年前の約5倍、150億ドルに達した。

この流れの中で、日本でもフードテックのスタートアップが徐々に増え始めるととともに、味の素やパナソニック、東京建物など大手の食品、家電メーカー、不動産デベロッパーなども参入している。

年間150億ドルもの資金が投じられ、多様な業種の企業が関心を示すのは、フードテックがカバーする領域が非常に幅広いからだ。食材そのものほか、レシピや調理法、調理器具などのキッチンまわり、デリバリーを含む物流、ロボティクスなど多岐にわたる。

完全栄養食が「マス化」したら人類が健康になる

この中で、今、日本ではどのような企業や商品が注目されているのだろうか? その一つとして田中は、ベースフード(BASE FOOD)社を挙げた。同社は、1食で1日に必要な栄養の3分の1を摂取できる完全栄養食のブランドを展開するスタートアップで、IT大手のディー・エヌ・エー(DeNA)で新規事業開発を経験した橋本舜が、2016年に立ち上げた。現在は、完全栄養食としてパンやパスタを販売している。

「商品開発のサイクルが速く、最近は味の素と協業しておいしさも追求しています。炭水化物の取り過ぎは肥満や糖尿病の原因になりますが、もし完全栄養食がマス化したら、人類が健康になる。日本のスタートアップとして見逃せない存在です」と田中は語る。

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高齢化が進む日本ならではの家電

岡田が挙げたのは、パナソニック発のベンチャー企業であるギフモ社が嚥下(えんげ)障害がある人のために開発した『デリソフター』。これは、家庭料理や市販の総菜などを入れて調理ボタンを押すだけで、味や見た目をまったく変えずに柔らかくできる調理器具だ。対応する料理は100種類超あり、2020年度に発売した500台は完売。現在、生産体制を強化している。

「父の嚥下障害で悩んでいたパナソニックの女性社員が、家族で同じものを食べられたら、という思いから発案した器具です。高齢化が進む日本発の家電を世界に発信したいですね」

フードテックというと、ベースフードやギフモのようにスタートアップの新しいアイデアが脚光を浴びやすい。しかし、田中は日本企業が有する既存の技術やノウハウも、グローバル展開できるポテンシャルを持つと指摘する。

「日本の食品メーカーが長年開発してきた『おいしさの設計技術』は強いですよ。味覚、食感、香りを調整する技術で、これまでは外食企業やコンビニエンスストアに提供されてきました。味の素とベースフードの協業が始まったように、この技術がスタートアップにも共有され始めています。これは強力な追い風になるでしょう」(田中)

フードテックが地方創生の火付け役に
小布施町(Photo:PIXTA)

フードテックが地方創生の火付け役に

岡田は、長野県小布施町の取り組みを例に挙げ、日本の地域に期待を寄せる。小布施町は人口約1万1000人の小さな町だが、特産品の栗を中心とした食を軸に据えた町づくりで、年間100万人の観光客が訪れる。同町では、フードテック関連の活動が発展するにつれ地域コミュニティーへの情熱に火を付け、町内で電力会社を設立。小水力発電によるエネルギーの地産地消も始めた。

「フードテックには、持続可能な開発目標(SDGs)への貢献や、資源からできるだけ多くのものを取り出し、廃棄物を最小限に抑えるサーキュラーエコノミーを実現する要素もあり、私たちは日本の地域に着目しています。日本全体で実現するのは難しくても、小布施町のような単位で、小さく始めてうまく循環させることは可能でしょう」

農林水産省のフードテック研究会が2020年7月に発表したデータによると、日本におけるフードテックへの投資額は、2019年の時点で97億円。アメリカの9,574億円と比較すると、およそ100分の1だ。裏を返せば、まだまだ発展の余地があるということ。日本ならではのフードテックが続々と登場した時、世界に誇る日本の「食」が進化する。

テキスト:川内イオ

Photo by Hiromichi Matono

田中宏隆(たなか・ひろたか)

シグマクシス 常務執行役員、スマートキッチン・サミット・ジャパン主催者、 一般社団法人 SPACE FOODSPHERE理事

パナソニックを経て、マッキンゼーでハイテク・通信業界を中心に8年間にわたり成長戦略立案・実行、M&A、新事業開発、ベンチャー協業などに従事。17年、シグマクシスに参画。 同年、スマートキッチン・サミット・ジャパンを立ち上げ、食を起点とした事業共創エコシステムの形成を通じた新産業創出を目指す。米スマートキッチン・サミット(SKS)、Rethink Food(米CIA)をはじめとした国内外での多数の講演、メディアを通じた情報発信にも積極的に取り組む。『フードテックの未来』(2018年、日経BP総研)監修、『フードテック革命』(2020年、日経BP)共著。

Photo by Hiromichi Matono

岡田亜希子(おかだ・あきこ)

シグマクシス Research、Insight Specialist

アクセンチュアを経て、マッキンゼーでハイテク・通信分野のリサーチスペシャリストとして従事。テクノロジーを軸に幅広い分野の業界分析に携わり、17年にシグマクシスに参画。スマートキッチン・サミット・ジャパン共同創設者としてメインプログラム設計を担当するほか、テクノロジーとウェルビーイングの関係を研究するFood Business Insights活動を立ち上げ、欧米アジアでインサイトの収集に奔走。以来、現地のフードテックコミュニティーと情報連携しながら情報発信活動に従事している。講演活動およびメディアへの寄稿多数。『フードテックの未来』(2018年、 日経BP総研)監修、『フードテック革命』(2020年、日経BP)共著。

健康でおいしい食事を楽しむ……

  • レストラン
  • ラーメン

日本で大衆人気の高いラーメンは東京だけでも3000以上の店がある。濃厚なとんこつスープやチャーシューなど、豚を食材に使用したラーメンは一般的だが、宗教上の理由や食事制限があり豚を食べられない人にもおすすめのラーメンがある。

ここでは、豚の代わりに鶏や野菜などの食材を使ったおいしいラーメン店を紹介。ハラル認証の食材を使った新宿御苑らーめん桜花以外の店は正式な認定を受けているわけではないためイスラム教徒の場合は注意が必要だが、代わりに食べられる素材をトッピングすることも可能だ。

 

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