Photograph: Frol Podlesny Three Sisters
Photograph: Frol Podlesny Three Sisters

自宅で観劇:第1回 週末に楽しむストレートプレイ3選

イギリス、ロシアの劇場作品をオンラインでのぞいてみよう

編集:
Hisato Hayashi
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テキスト:高橋彩子

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、世間はすっかり外出自粛モード。それは裏を返せば、家で過ごす時間がいつもよりたっぷりあるということだ。現在、国内外の劇場や団体が、これでもかと演劇公演の映像を無料で配信している。

そこで今回は、英語上演あるいは英語字幕の映像から、2020年4月3日(金)〜5日(日)に配信するおすすめのものをチョイス。なにせ生きた言葉だから、英語の勉強にもなること請け合いだ。シアターゴアー(劇場の常連)のあなたも、普段は演劇を見ないあなたも、お気に入りの演劇がきっと見つかるはず。 

英国ナショナル・シアター:ニコラス・ハイトナー演出『一人の男と二人の主人』
Photograph: Courtesy Johan Persson One Man, Two Guvnors

英国ナショナル・シアター:ニコラス・ハイトナー演出『一人の男と二人の主人』

60年代のイギリスで起こる愉快なドタバタコメディー

クオリティーの高い舞台を次々に送り出している英国ナショナル・シアター。近年「ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)」と称して、ライブビューイングにも力を入れており、日本でも新作を映画館で見ることができる。

そのNTLiveが、感染症対策で引きこもる私たちのため、毎週木曜日のイギリス現地時間19時に1作ずつ、映像を無料配信してくれることになった(1週間視聴可能)。その第1弾、リチャード・ビーン作、ニコラス・ハイトナー演出の『一人の男と二人の主人』が、4月3日(金)から4月9日(木)まで配信されている。本作は、18世紀のイタリアの作家カルロ・ゴルドーニの戯曲『二人の主人を一度にもつと』を下敷きにしたドタバタコメディーだ。

舞台は1960年、イギリス南東部の街。地元のギャングと、悪名高い犯罪者の両方に、いわば「二股」をかけて雇われているフランシス。そのことがばれないよう必死で立ち回る彼だったが……。ジェイムズ・コーデン演じるフランシスの、愛嬌たっぷりにその場しのぎを繰り返す様に大爆笑必至だ。劇中、衝撃の客いじりまで行うコーデンは、この役でトニー賞最優秀主演男優賞を受賞。このほか、まるで60年代の映画を見ているような気持ちにさせられる美術や衣装、所々に入るバンドの演奏など、楽しみどころ満載となっている。

英語がさほど分からなくても愉快さは伝わるが、苦手な人にうれしいのは、YouTube上で再生スピードが変えられること。それぞれ自分のペースでじっくり味わおう。

なお、ナショナル・シアターでは今後、『ジェーン・エア』2020年4月9日(木)〜16日(木)、『宝島』4月16日(木)〜23日(木)、『十二夜』4月23日(木)〜30日(木)を配信予定。

今後の配信の詳細はこちら

レッドトーチ・シアター:ティモフェイ・クリャービン演出『三人姉妹』
Photograph: Frol Podlesny Three Sisters

レッドトーチ・シアター:ティモフェイ・クリャービン演出『三人姉妹』

全編を手話で演じる『三人姉妹』

ロシアのレッドトーチ・シアターによる、気鋭の演出家ティモフェイ・クリャービンの『三人姉妹』が、ロシアの舞台映像を多く持つサイト「ステージ・ロシア」で4月3日(金)〜5日(日)限定で無料配信される(視聴方法は、https://vimeo.com/403367376にパスワード「stayhomewithstagerussiahd」を入れてログイン)。

ロシアが生んだ偉大な劇作家アントン・チェーホフの『三人姉妹』は、亡き父の赴任先である田舎で暮らしつつ、生まれ育ったモスクワへ帰る日を夢見るプローゾロフ家の三人姉妹オリガ、マーシャ、イリーナとその周囲の人間模様を描いた群像劇だ。

レッドトーチ・シアターは代表作の一つである本作で昨秋、来日公演を行ったが、3日間のみ、しかも上演時間が休憩込み4時間という大作ゆえ、見るのを断念した人も多かったことだろう。オンラインなら好きな時に休めるので、うってつけかもしれない。

このプロダクションの特徴は、登場人物のほとんどがろう者に見立てられ、全編、手話によって演じられること。レッドトーチ・シアターはろう者の団体ではなく一般の劇団で、あくまでこのプロダクションのための表現として、手話を体得し、演じているのだ。これが実に面白い趣向になっていて、声が発せられない分、さまざまな音がこれまでにない意味や効果を持ったり、ろう者という設定に合わせて台詞やト書きが斬新に読み替えられていたり、才気とアイデアあふれる舞台だ

ロシア語上演、英語字幕。戯曲の日本語訳を持っている人は、手元に置いて鑑賞するのもいいだろう。珠玉の舞台をお見逃しなく。

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ハムステッド・シアター:ジェームズ・マクドナルド演出『WILD』
Photograph: Stephen Cummiskey Wild

ハムステッド・シアター:ジェームズ・マクドナルド演出『WILD』

スノーデン事件にインスパイアされた戯曲

英国ハムステッド・シアターでは、マイク・バートレット作、ジェームズ・マクドナルド演出『WILD』を配信中。昨年、日本でも小川絵梨子演出、中島裕翔主演で上演された作品だ。

この作品をおすすめするのは、ネット環境にある皆にもリアルに感じられるであろう、極めて現代的な事柄を扱っているから。というのもこの戯曲は、アメリカ国家安全保障局 (NSA)の大規模な内部告発事件を引き起こし、FBIなどに追われて現在はロシアの庇護下にあるNSA元局員エドワード・スノーデンにインスパイアされ、2016年に発表された戯曲なのだ。実際、主人公のアンドリューを演じるメガネ姿のジャック・ファーシングは、我々が知るスノーデンにそっくりである。

物語は、アメリカが規模な監視を行っていたことを告発して追われる身となったアンドリューが身を潜める、ロシアのホテルの一室。そこに女が訪ねてくる。あけすけでウィットに富んだ会話をする女。次に男がやってくる。こちらは表情に乏しくどこか不気味なようだが、やはり言葉の端々にはユーモアがある。

台詞に頻出するのは「truth(真実)」という言葉。真実を暴露したことで窮地に追い込まれているアンドリュー。しかし、謎の男女との会話を通して、アンドリューにとっての真実とは何か、何が正しいのかが、揺らいでいく――。これはまさに、私達が今、日々経験していることではないだろうか。象徴的なラストも必見。

英語はかなり早口だが、これまたYouTube上で再生スピードを調整可能。英語字幕は自動生成なので過信は禁物だが、ある程度の手引きにはなる。

ハムステッド・シアターは今後、2020年4月6日(月)〜12日(日)にベス・スティール作、エドワード・ホール演出『WONDERLAND』、4月13日(月)〜19日(日)にハワード・ブレントン作、ハワード・デビース演出『DRAWING THE LINE』を無料配信予定。

今後の配信の詳細はこちら

※配信日時は、各国の現地時間で表記。

高橋彩子
舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。「エル・ジャポン」「AERA」「ぴあ」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜を連載中。

 http://blog.goo.ne.jp/pluiedete

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外出自粛を余儀なくされる日々が続く。それは裏を返せば、家で過ごす時間がいつもよりたっぷりあるということだ。現在、国内外の劇場や団体が、これでもかと演劇公演の映像を無料で配信している。その中から、英語上演あるいは英語字幕が付く映像を紹介するこのシリーズ。 今回は閉じこもる日々に刺激をもたらし、既成概念を打ち破ってくれる演劇作品を紹介する。イギリスの名門、グローブ座で上演されたシェイクスピアの名作『ハムレット』、アートプロジェクトユニット、リミニ・プロトコルが手がけた、人型ロボットが出演する衝撃作『不気味の谷』をチョイス。シアターゴアー(劇場の常連)のあなたも、普段は演劇を見ないあなたも、のぞいてみれば刺激あふれる演劇作品に驚かされるだろう。 ※配信日時は、各国の現地時間で表記。 関連記事『自宅で楽しめるダンスビューイング』

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