インタビュー:プロクライマー藤井快

「クライミングをメジャースポーツに」寡黙なトップクライマーが見据える、2020年とその先

藤井快
作成者: Hiroyuki Sumi |
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タイムアウト東京  Things To Do > 「クライミングをメジャースポーツに」藤井快インタビュー

テキスト:鷲見洋之
写真:谷川慶典

藤井快(こころ)という男を知っているだろうか。2020年東京オリンピック正式競技に採用されたスポーツクライミングの日本代表候補の1人で、国内最高峰の大会『ジャパンカップ』3連覇を達成したクライマーだ。口数は少なく、決して華があるタイプとは言えないが、男子クライミング界の期待を一身に背負う。正式競技化によってにわかに注目を集め始めたクライミング界だが、野口啓代や野中生萌らスター選手がひしめく女子に比べると、男子選手の知名度はまだまだ低いのが実情だ。東京大会での活躍が期待される藤井に、克服すべき課題やクライミングへの思いなどを聞いた。

東京オリンピックでのメダル獲得に期待がかかる藤井快

昔は「ボルダリング?それ何すか」だった

 

−スポーツクライミングが東京オリンピックの正式競技に決まりました。このニュースをどう受け止めていますか。

藤井:全然ポジティブに捉えていますよ。選手活動する上で、サポートが足りていないという部分も少なからずありましたから。メディアでの露出が増えたことで、競技自体の認知度の高まりも感じています。

−どんなところで感じますか。

一般の方に「何をやっているんですか」と聞かれて「ボルダリング」と答えた時、昔よりも伝わりやすくなっているなと思います。昔だとボルダリングと言っても「何すかそれ。ボウリング?」みたいな感じで、全然ピンときてなかったと思います。最近はみんな趣味でやるようになっていますからね。

−日本は強豪なんですよね。

めっちゃ強いと思います。ほかの国に比べたらジムも多いし、練習環境は整っていると思います。 

−メディアでの露出は女子選手が多い印象です。

男子でテレビなどに出る選手はあまりいないですよね。日本のメディアでは、男性より女性の方が好まれるのかな…。今はワールドカップで優勝すれば、新聞やテレビにニュースが流れる時代ですので、活躍すれば自然と認知はされていくと思います。ただ、スポンサーがそっち(女子)に偏ってしまったりすると、寂しいなと思います。メディアの露出は女子に任せ、男子が結果を残す、みたいな心持ちで頑張ります。 

錦織圭やイチローも、才能だけでは片付けられない

 

−競技の人気が高まったきっかけはなんでしょうか。

一番大きかったのは、オリンピックが決まった2016年。楢崎智亜選手が世界選手権ボルダリング種目で初優勝して、新宿のテロップや電車内のニュースで流れたりして、そこから露出が増えたなと思います。「次世代スポーツ」として注目されるようになり、「ボルダリング」という言葉が通じるようになった気がします。 

−ご自身は東京オリンピック出場を目指していますか。

はい。大きな人生のピーク(のイベント)として見据えています。 ですが、自分に足りない部分は挙げ切れないくらいいっぱいあります。オリンピックでは、「ボルダリング」「リード」「スピード」の3種目が行われます。これまでは単種目に特化し、ボルダリング7割、リード3割くらいで練習をしてきましたが、今はボルダリング5割で残りをリードとスピードに当てています。単純に練習が足りていないです。 

今年6月の(準決勝で敗退した)ワールドカップ八王子大会では、メンタルも技術も足りませんでした。フィジカルコンディションは良かったのに、それを引き出す勝負強さや集中力がなかった。技術は紙一重なのに、ミスしてはいけないところでミスしたり、そこから立て直せなかったり(しました)。トップクライマーとの差を感じましたね。

−「会社員クライマー」とも呼ばれる藤井選手ですが、普段はいつ練習をしていますか。

朝昼にボルダリングジムで練習をし、その後夜11時ごろまで仕事をしています。秋葉原のボルダリングジムのB-PUMP TOKYOで受け付け係などをしています。長くクライミングをやっているお客さんだと、たまに写真や握手を求めてくれますよ。 

−壁を登る以外にはどんな練習をしていますか。

最近だとテニスやサッカーなど、ほかのスポーツの動画や雑誌などを観て、股関節や骨盤の使い方など体の動きを学んだりします。競技が違うので真似はしませんが、知識として身に付けています。 

大体のスポーツは、利き手利き足があると思うんですが、僕らクライマーは左右偏っていてもダメで、バランスが大事なんです。僕は右利きですが、左手で一応ご飯を食べられるんですよ。そこまで考えている人はあまりいないかもしれないですが。笑

−憧れの選手はいますか。

会ってみたいのはテニスの錦織圭選手と、野球のイチロー選手です。なんであのレベルまでたどり着けたのだろうと思い、2人の本を読んだりするのですが、やっぱり才能だけでは片付けられないんですよね。誰でもメンタルが落ちる瞬間はあるのですが、2人はそこから立ち上がる力がすごいなと。 

女性とムキムキの男性が同じ課題にトライできるのがクライミング 

 

−そもそもなぜクライミングを始めたのですか。

中学1年で山岳部に入り、ボルダリングに出会いました。最初はテニス部に入ろうと思っていたんです。でも友だちと部活見学でクライミングを体験してみたところ、面白いなと。全然登れなかったのに、とても楽しめました。 

−それで一気に虜になったと。クライミングの魅力はどんなところにありますか。

初めての人は全然できないのですが、コツが分かればできるようになる。そうして頂上に到達できた時、達成感を感じ、成長を実感できます。 

もちろん体力的に衰えが来ればできなくなることもありますが、まだ楽しみ方はあります。ボルダリングではなくリードクライミングをしてみたり、自然の岩場に行ったりしながら、成長曲線に沿った遊び方ができるんです。ジムには50代、60代くらいのお客さんも来ますし。このように、年齢や性別、体格差に大きく依存しない「生涯スポーツ」と言えるのが魅力ですね。女性とムキムキの男性が同じ課題にトライしていたりするんです。

−高さは怖くないのですか。

最初はむちゃくちゃ怖かったですね。リード種目では、高さ15メートル以上にまで登るんです。でもだんだん、高さよりも、「この動きで滑ったら、足を擦りむくな」とか「すねを削っちゃうな」というような、体の向きや動きに対する怖さに変わりました。逆に初心者の人は、その心配はしないと思いますが。 

−「やってみたいけど怖そう」という人にはどう声をかけますか。

楽しさというのは、やってみないと分からないんですよ。まずは1回やってみてほしい。意外と全然けがしないんです。最初から「高所でも怖くない」という人は絶対いない。経験が一番大事かなと思います。

今後どうメジャーなスポーツにしていくべきか

 

−スケートボードやスポーツクライミングのようなアーバン(都市型)スポーツの注目度は高まる一方です。

うーん…。そもそもクライミングって都市型スポーツなのかっていう疑問が結構あるんですよね。もともとは自然の中でスタートした競技で、登ることが第一で居心地は二の次でした。昔はめちゃめちゃ汚いジムもあったし、「アーバン(都市型)」みたいな、こぎれいなものではなかったんです。ジムの壁も基本的には、外の岩場を登るための練習として作られたわけで、アウトドアありきだったわけです。時代の流れを感じますね。 

−今後の人生設計について教えてください。

競技は30歳まではやりたいなと。選手としてのキャリアを終えたら、スポーツクライミングの業界自体を盛り上げられたらなと思っています。コーチとして日本代表を育てるという選択肢もありますし、協会に入り全体を盛り上げるのもありだと思います。 

そう思うきっかけになったのが、フェンシングの太田雄貴さんです。以前お会いしたことがあるのですが、太田さんは選手から協会会長になった。すごいですよね。実際、僕もそれまでフェンシングを知らなかったのに、太田さんが会長になってから観るようになりました。フェンシングと同じように、スポーツクライミングをどうやってメジャーなスポーツにしていくのか、そういうことを考えながら働くのも面白いかもしれませんね。

B-PUMP TOKYO 秋葉原店の詳しい情報はこちら

藤井快(ふじい・こころ)

1992年、静岡県浜松市生まれ。中学で山岳部に入り、クライミングを始めた。ボルダリングを主戦場に、『ジャパンカップ』では2016年から男子史上初の3連覇を達成。日本代表オリンピック強化選手にも選ばれており、2020年東京大会での活躍が期待される。普段はB-PUMP TOKYO 秋葉原店に勤務。Twitterは@ClimberHeart

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