米田ダニエル大輔

インタビュー:プロBMXライダー米田大輔

「アングラとアスリートの間で魅力を伝える」選手、指導者、スタントマン...数足のわらじを履く男が考える、オリンピックとストリート

テキスト:
Hiroyuki Sumi
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テキスト:鷲見洋之
写真:谷川慶典

2020年東京オリンピックで、若者を中心に人気のスケートボードや自転車BMX、スポーツクライミングなどを含む5競技18種目が、新たに実施される。オリンピック離れが進む若い世代を惹きつけるために追加されたとも言われているが、当の選手たちはどう感じているのか。ストリートとの結びつきが強いこれらのスポーツの文化的価値に及ぼす影響はあるのか。プロBMXライダーで、指導者や解説者、MC、スタントマンなど幅広く活動する米田ダニエル大輔に話を聞いた。

−BMXを始めたきっかけは。

米田:子どもの時に、アメリカの映画を見ていたらBMXが登場するシーンがあり、かっこいいと感じました。その後、テレビ番組「筋肉番付」の「スーパーライダー」という企画で、バイクトライアルを知りました。中学2年くらいから3年間やったのですが、宙返りなど派手なことをやりたいと思い、BMXに転向しました。20歳でプロになり、スポンサーにもついていただき、今ではメディアやCM、スタントマン、ショーなどもしています。

なぜ「ダニエル」と呼ばれているのですか。

米田:僕は日本人で、ハーフでもクオーターでもないのですが、昔バイクトライアルの技で、前輪を上げながら後輪だけでトントン飛ぶ「ダニエル」という技がありました。それが得意で、いつの間にか「ダニエル」と呼ばれるようになりました。呼ばれるのは全然嫌じゃないですよ。

−東京オリンピックにストリートスポーツが加わりますが、BMXライダーやスケーターの中には「あまり興味がない」という立場の人もいます。

米田:オリンピック種目になることには、僕はすごく賛成です。ポジティブなことしか思い浮かばないですね。「遊び」と思われていたことが認められた訳ですから。僕が10代のころは、「BMXなんてガキの遊びで、食っていけない」と言われました。でも僕は、「BMXは、人を楽しませることができる可能性がある」と思っていたので、「ほら見ろ」って感じです。

ご自身も出場を目指しますか。

米田:簡単に「目指します」とは言えないと思うんですよね。本当に選ばれた人しか出られないですから。今アジアで一番可能性があってノッてる選手が、中村輪夢(りむ)君です。彼が一番(代表選手に)ふさわしいと思います。

2020年で僕は30歳になるので、若い子へのサポートやコーチング、解説などの立場で、人々にBMXの魅力を分かりやすく、興味を持ってもらえるように発信できる人間になりたいですね。

別に(選手として出場することを)諦めているわけではないんです。でも、いろんな人が必要だと思っていて、アスリートとして出場することだけが全てではないと思います。28歳はBMXではベテランの領域で、16歳くらいの子が今はトップにいるんです。やっぱり適材適所が大切だと思うので、「オリンピック目指します!」というのは、今の自分には違うかなって感じです。

ああ

−BMXの魅力は。

米田:まず、自転車の見た目がかっこいい。それに子どもからお年寄りまで乗れるし、免許もガソリンもエンジンもいらない。一番身近な乗りもので、いろんな技ができる。ライダーのパーソナリティ(人格)もいいんです。パッションがあって、文化も好き。彼らのファッションや音楽、彼らが描く絵などもかっこいい。

BMXは、東京オリンピックをきっかけに流行ると思うんです。けど、大会が終わって、さーっと(人気が)引かないよう、根付かせたい。流行りは廃れますから。大会やイベントを作ったり、子どもたちを教えたりして、人々が興味を持ち続けるようにしないといけないと思っています。

オリンピック種目になることで、社会がストリートカルチャーを見る目も変わりそうです。

米田:BMXは、「危なそう」「怖いお兄さんがやってそう」みたいなイメージが強く、敷居が高いと思われてきました。でも海外のトップライダーたちは、首も顔もタトゥーだらけですが、めちゃくちゃいい人たちなんです。見た目で判断されがちなんですけど、それはカルチャーであって、実はみんないいヤツっていうこともしっかり伝えたいと思います。

アンダーグラウンドなカルチャーが社会に根付く一方で、アスリートとしてのライダーもちゃんといる。この両方が鍵だと思うので、僕は2つの中間で頑張りたいと思っています。みんながみんな競技志向でスポーティ過ぎても良くないと思います。やっぱり絶対にスニーカーとジーンズで、みんなオシャレじゃないと。

日本は見た目で敬遠する傾向が強いのでしょうか。

米田:強いと思いますね。オーストラリアに結構長くいたのですが、向こうの人はタトゥーが腕にびっしり入っていたりして、本当にすごいんです。東京オリンピックでやって来るライダーたちは、全員タトゥーだらけだと思うんですよ。でも彼らのパーソナリティをもっと見てほしいんです。

タトゥーで温泉やプールが使えないのって、日本だけじゃないでしょうか。日本の文化だからという考え方も分かるんですけど、オリンピックをきっかけに、外見だけで判断する社会がなくなっていくと嬉しいなと思います。

ああ

海外と比べた時、東京のストリートカルチャーの特徴は何でしょうか。

米田:東京はストリートが盛り上がっていますよね。ライダーとスケーターも仲が良いし。お洒落なBMXライダーも多いです。パークライダーは少ないかもしれませんが、その分、ストリート系が多く、よりカルチャー寄りだと思います。

オリンピックでは、代表ユニフォームがダサくならないかという不安もあります。

米田:アメリカ代表のように、かっこいいジャージはいっぱいあります。日本も、みんなが憧れるようなユニフォームになるといいですよね。「あれを着て世界に挑戦するぞ」と思えるように。

オリンピックを迎えるにあたり、東京などの練習環境は充実していると言えますか。

米田:近年、スケートパークは徐々に増えているんですが、世界を目指せる環境が少ないですね。海外のコンテストの仕様になっているセクションがほとんどない。

例えば、高さ2メートルのジャンプ台が必要なのに、日本は1.5メートルだったりするんです。パークが増えるのはいいのですが、日本人がもっと抵抗なく海外に挑めるような環境を作らないと、どんどん世界に置いていかれてしまいます。

もうひとつは、安全な施設です。宙返りとかするわけですから、いきなりコンクリートでは練習できない。床がスポンジになっているものが必要ですが、日本には少ない。安全に、段階を踏んでビッグトリックを覚えられる環境が必要です。海外の選手たちの中では、宙返りをしながら何か技をやるっていうのは標準装備になっていますから。

ああ

日本のBMXの競技レベルについて教えてください。

米田:輪夢君は、4月に広島で開催された『FISE World Series2018』(UCI BMXフリースタイルワールドカップ)で決勝に残り、9位になりました。これは信じられないくらいすごいことだと伝えたいですね。僕も世界戦は45回出たんですけど、一番最初が約100人中57位、翌年が70位、その次が90位でした。

輪夢くんは、16歳ですでに海外のトップライダーよりエアーが高いし、高難度の技もできる。世界が注目している日本人と言えます。世界と戦える子どもが日本にはいっぱいいるので、そういう子をサポートし、ケアする。それが自分の課題です。

−BMX教室を開催しているのですか。

米田:湘南の鵠沼海岸のスケートパークで、マンツーマンで毎週やっています。だいたい4歳から1213歳までが対象です。ライダーの心得なんかも教えていますよ。

近年は、親の理解も増えてきています。「ケガをさせないで」と言う親は少なく、子どもが転んでも文句は一切ない。むしろ「挑戦させてくれてありがとうございます」なんて言われるんです。BMXを通して、挑戦を諦めない、心が強い人間を育てたいですね。例えばBMXをやめて就職して、会社で嫌なことがあっても、「チャリで転ぶよりマシっしょ」と思えるようなマインドが形成されるといいなと思って指導しています。

行きつけの店はありますか。

米田:鵠沼海岸にある「カウンターアトラクション(Counter Attraction」という店です。BMXとかビーチルーザーを扱っていて、自分もたまに働いています。

今後の意気込みを聞かせてください。

米田:まずは、自分自身もライダーとして最前線で頑張るということですね。あと最近は、大会MCや解説も始めました。BMXをかっこよく、魅力的に人々に伝えられるようになりたいです。子どもたちもどんどん育てたい。そんな、1人で何でもできるライダーになりたいです。日本のシーンをもっと盛り上げ、選手たちが生計を立てられるような環境を作るのが、ミッションだと思っています。

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米田“ダニエル”大輔(よねた だにえる だいすけ)

1989年生まれ、神奈川県出身。14歳でバイクトライアルを始めた後、BMXに転向。20歳でプロクラス昇格。日本人で初めて、コーク720(斜め2回転)を成功させた。現在は湘南・鵠沼海岸のスケートパークを拠点に、国内外の大会に積極的に参戦している。Instagramは@danielyoneta

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