グエィニン
Photo: Keisuke Tanigawa店主の陳煥竣

チャレンジャーな台湾人が本格台湾サンドイッチ店「グエィニン」を恵比寿にオープン

台湾の新たな美味を紹介する文化拠点、開店経緯をインタビュー

編集:
Genya Aoki
寄稿:
Michikusa Okutani
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タイムアウト東京 > Things to do > International Tokyo >チャレンジャーな台湾人が本格台湾サンドイッチ店「グエィニン」を恵比寿にオープン

朝、台湾の街をのんびり散策しているとよく目にするのが「早餐店(ザオツァンディエン)」。朝ごはん専門店だ。朝食を外で済ませる習慣のある台湾ならではの商売で、早朝から14時ごろまで営業している。年季が入った小ぶりな店が多く、客が豆乳をすすっていたり、はたまたテイクアウトしていったりするのが日常風景となっている。ことにサンドイッチは朝食の代表格で、台湾ではモスバーガーですら朝にサンドイッチを出しているほどだ。

グエィニン
Photo: Keisuke Tanigawa「台湾ホットサンド」

現地の言葉で「三明治」と表記するサンドイッチは、見かけは日本のものと変わらず、地味なので観光客はあまり手を出さない。だがこのサンドイッチ、台湾化した独特の味わいが魅力的で、試してみるに値する台湾美食の一つなのである。

2022年8月。純度の高い台湾の美味を提供する早餐店「グエィニン(guenin)」が、台湾ブームの波に乗って恵比寿に上陸を果たした。東京で活躍する外国人にインタビューをしていくシリーズ「International Tokyo」。第8回は、店主の陳煥竣(チン・ファンジュン)が恵比寿に店を開くまでの意外なストーリー、そして、台湾サンドイッチがどれほどおいしいものなのか、その魅力を語ってもらった。

東日本大震災後の日本人の姿に衝撃

生まれも育ちも台北の陳は38才。飾り気のない親しみやすい人物で、滑舌よくしゃべる日本語から聡明さがうかがえる。陳は台北屈指の繁華街・西門の外れにある老舗早餐店で、学校に通う傍ら18歳から働いていた。早餐店を熟知するプロである。

陳が働いていた台北の早餐店(現存)は、常連客に恵まれて売り上げは順調、従業員も増えていった。一方で商売が軌道に乗るにつれ、物足りなさを感じるようにもなったという。毎年同じことを繰り返していれば無難に食べていけるが、それで満足できるのだろうか? 新しいことを学び、チャレンジしたい気持ちが陳の中で募っていく。 

その頃、日本で東日本大震災が発生した。陳は2カ月後にあえて日本を訪れる。あちこちに震災の爪痕が残る重たい空気の中、災害に耐え黙々と回復を目指す日本人の姿に衝撃を受けたという。「台湾なら、ああはいかないですよ」と思い出すように語る。日本にはそれまでも観光目的で何度も訪れたことはあった。しかし災害時だからこそ垣間見えた民族性の違い、社会の先進的な姿は一層興味深く、学ぶことが多々あると陳は確信する。

人との触れ合い求め、本格的な早餐店を出店
Photo: Keisuke Tanigawa

人との触れ合い求め、本格的な早餐店を出店

20代で台湾の早餐店から身を引き、2012年に東京へ移住。日本語を学び、明治大学に開設されたばかりの情報コミュニケーション学部に入学した。早餐店というサービス業に身を置いていた陳にとって、コミュニケーションを学ぶことは人生経験の延長にあり、日本特有のコミュニケーションと社会構造を外観する絶好の機会だったという。卒業後は人材派遣会社に就職、現場のトラブル解決、人員、シフト管理の仕事に就いた。 

そして2020年、新型コロナウイルス感染症が世界にまん延し始める。リモートがメインになった仕事のやり方は、人との触れ合いを好む陳とっては不本意なものだった。不満が募る中で、チャレンジ精神が再び発揮される。陳は独立して、本格的な早餐店を東京で開くことを決意した。

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Photo: Keisuke Tanigawa

店の場所は、半年かけて熟慮を重ねた末、住まいにも近い恵比寿に決定。中華や東南アジア系料理の密集地帯とあえて距離を置き、インテリアも日本の台湾料理にありがちなゴテゴテの派手なイメージを一掃すべく、白を貴重としたカフェ風にした。駅からほど近い大通り沿いにあってすぐ目につくが、通りかかっただけでは台湾軽食の店とは気付かないほどだ。

店名は中国語の「歸寧」から取られている。「新婚の夫婦が里帰りして実家の両親を訪ねる」という意味で、初々しく故郷に戻るような気持ちで訪れることができる店にしたいという願いが込められている。入り口脇のラブリーな2人席は、その象徴といったところだろう。

台北の街角の味を完全再現
Photo: Keisuke Tanigawa

台北の街角の味を完全再現

看板商品は「台湾ホットサンド」と「台湾ガレット」(各500円から、以下全て税込み)。台湾ガレットはいわゆる蛋餅(ダンビン)で、小麦粉や片栗粉の生地を薄く焼き、卵などの具材を巻き込んだものだ。まだ日本で馴染みが薄いので、イメージがつかみやすいようガレットの名前で提供している。

どちらも台北で勤めた早餐店の味を完全再現した。ただし日本では朝食を外で食べる習慣はあまりないので、営業時間は11時30分から20時まで。ボリュームを多めにするなど微調整をしている。

ホットサンドの具は目玉焼き、細かく刻んだキュウリと至ってシンプル。物足りなければハムやチーズなどトッピング(プラス100円から)もできる。

味の要は特製マヨネーズだ。酸味が抑えめでほんのり甘く、実にうまい。メーカーが業者向けに作っているサンドイッチ専用のマヨネーズで、日本では手に入らないという。グエィニンではメーカーから特別にレシピを教えてもらい、自家製マヨネーズで対応している。陳が長く早餐店に勤めていたからこそできる職人技である。

使う食パンも重要だ。台湾のサンドイッチは庶民の味。高級過ぎるとかえってそれっぽい味から離れてしまうので、オーソドックな食パンを厳選して使っている。

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まだ日本では知られていない美味を紹介
Photo: Keisuke Tanigawa

まだ日本では知られていない美味を紹介

ボリューム満点のガレット(蛋餅)は、通常出来合いの冷凍生地を使うことが多いが、昔ながらの作り方にこだわり、溶いた小麦粉を焼き上げるところからしっかり行う。ネギが入った薄焼きの皮が香ばしく、モッチリした食感がなんとも心地よい。

同店では、タピオカミルクティーや台湾カステラといったはやりの品はあえて置かない。まだ日本では知られていない美味を紹介するべく務めている。このあたりの姿勢も、陳はチャレンジャーだ。

菓子・飲み物・雑貨いずれも一癖ある逸品ばかり
Photo: Keisuke Tanigawa

菓子・飲み物・雑貨いずれも一癖ある逸品ばかり

菓子類や飲み物も充実している。日本初紹介の「雪花餅」は、滑らかな食感のミルク餅にココナツフレークをたっぷり振りかけたスイーツ。とろとろのごまあんが入った水まんじゅう風の「華舞餅」も見逃せない。キンモクセイのほのかな甘味が印象的な台湾茶「金木犀入り烏龍茶」、ジンジャーが喉に優しいさっぱり味の「自家製レモネード」など、試してほしいメニューばかりだ。

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Photo: Keisuke Tanigawa

看板に「Taiwan Zakka Cafe」を掲げているだけに、雑貨も扱う。台湾の披露宴でちょっとしたプレゼントを渡す時に使う革製ギフトボックスをオリジナルの小物入れとして提供するなど、目の付け所が面白い。

自然とおしゃべり文化交流の場へ
Photo: Keisuke Tanigawa

自然とおしゃべり文化交流の場へ

試しに食べに来てそのまま常連になる客も多いという。派手ではないものの印象に残る素朴なおいしさは、ふいにまた食べたくなる日常食の魅力といえよう。

現地そのままの味を求めて、台湾人の客もしばしば訪れる。注文を受けた店主が品ずつ丁寧に作っていくので、大概、順番待ちとなってしまうのだが、待っている客同士、日本人と台湾人が店内でまったりおしゃべりに興じ始めるのも毎度のこと。

単なる料理店ではなく、日本人と台湾人の文化交流の場もねたサロン的な場所を目指す陳としては願ってもない話である。「(台北時代の店の仲間からは)10年かけてまた同じようなことしているんだね、と言われました」と陳は楽しげに語る。

過去への回帰では決してない。さまざまな経験の積み重ねが東京のこの地に結実したハイブリッドな早餐店なのである。

  • レストラン
  • カフェ・喫茶店
  • 恵比寿

※2022年8月18日オープン

台湾出身の店主が、台北で勤めていた早餐店の味を完全再現した「台湾ホットサンド」と「台湾ガレット」(各500円から、以下全て税込み)をメインに提供する台湾軽食の店。ホットサンドの具は目玉焼き、細かく刻んだキュウリと至ってシンプル。物足りなければハムやチーズなどトッピング(プラス100円)もできる。

「台湾ガレット」はいわゆる蛋餅(ダンピン)で、小麦粉や片栗粉の生地を薄く焼き、卵などの具材を巻き込んだものだ。ボリューム満点で、昔ながらの作り方にこだわり、溶いた小麦粉を焼き上げるところからしっかり行う。ネギが入った薄焼きの皮が香ばしく、モッチリした食感がなんとも心地よい。

菓子類や飲み物も見逃せない。日本初紹介となる「雪花餅」(550円)は、滑らかな食感のミルク餅にココナツフレークをたっぷり振りかけたスイーツ。とろとろのごまあんが入った水まんじゅう風の「華舞餅」(550円)も見逃せない。キンモクセイのほのかな甘味が印象的な台湾茶「金木犀入り烏龍茶」(650円)、ジンジャーが喉に優しいさっぱり味の「自家製レモネード」(650円)など、ドリンク類も充実している。

もっと東京で台湾を満喫する……

  • レストラン

「ご飯食べた?」を意味する「呷飽没?」があいさつになってしまうほどおいしいものであふれる台湾。気軽に旅ができない今、台湾ロスに陥っている人も多いだろう。

そんな人の願いをかなえるべく、ここでは「東京の台湾」をピックアップ。本場の味が楽しめる料理店はもちろんのこと、現地感のある内装でプチ旅行気分に浸れる一軒や話題の新店、隠れた名店などをタイムアウト東京の台湾出身スタッフ、ヘスター・リンとともにセレクトした。台湾の豆知識も時々交えたヘスターのコメントとともに紹介するので、台湾の情報収集としてもぜひ活用してほしい。

  • Things to do

東新宿は、近くにある歌舞伎町ゆかりの台湾人が多く暮らしてきたエリアである。2022年2月、そこに本場濃度の高い台湾屋台料理の店、台湾小館が登場。すでに東京で暮らす台湾人の間で話題になっている。

明治通り沿いの真新しい3階建ての建物に掲げられた、東洋趣味のノスタルジックな大看板が目印。「民以食為天(人にとって食が何よりも尊い)」「吃飯我最大(メシ時はオレ様がナンバーワン)」といった意味合いの大仰な標語が、ユーモラスに添えられているあたりからムード満点だ。

メニューは、台湾に数度足を運んで屋台料理を満喫し、より現地度の高い美味に箸を伸ばしたくなってきた向きにはたまらぬ品ぞろえ。観光客定番の小籠包からディープな黑白切まで食べられるのだから驚く。さらにこの店では「布袋劇」の定期開催まで始めている。

ここでは、実際にどんな劇が楽しめるのか、その魅力とは一体何なのかを紹介しよう。

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  • Things to do

日本における台湾人気が止まらない。往来をコロナ禍にふさがれ、現地を気楽に訪れることができない飢えが拍車をかけるのか、台湾関連のフェスティバルは都内各所で次々に開催され、軽食やスイーツを供する店が着実に増えている。

台北から現地直送の本格店が上陸する一方、イメージ優先の「台湾風カフェめし」を出す店がもてはやされ、今や玉石混交の状態だ。「哈台族(ハータイーズー=台湾マニア)」のはしくれとして、台湾人も通う現地そのままの味や雰囲気が味わえる場所を都内から厳選し、台湾(具体的に台北)旅行気分で散策できるルートを組んでみた。台湾と変わらぬ夏の暑さが続く近頃の東京。台湾気分で楽しく乗り切ろう。

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