Chinatown in New York
Photograph: Shutterstock

今守るべき、アメリカのアジア系飲食店

ヘイトに立ち向かう、4組のアジア系フードビジネスオーナーが語る

Morgan Olsen
テキスト:
Morgan Olsen
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2021年3月16日、アメリカのアトランタ周辺にある三つのスパで次々に銃撃事件が発生し、8人が殺害された。犠牲者のうち6人はアジア系の女性。これは単なる一つの恐ろしい事件ではない。アメリカのアジア系コミュニティーに対する暴力やハラスメントが増加したこの1年を象徴し、さらなる警鐘を鳴らす出来事といえるだろう。

アジア系や太平洋諸島系の人々へのヘイトや差別を調査している民間非営利団体(NPO)、Stop AAPI Hateへ報告された事案は、2020年3月19日から2021年2月28日の約1年で、3785件に上る。この中に含まれる被害は、口頭やネット上における嫌がらせ、身体的な暴行、市民権の侵害など。

アメリカにおける反アジアの暴力の歴史は長く、その勢いは衰えていない。昨今、特に被害を受けやすいのは、コミュニティーの中でも目立ちやすいアジア人が経営する飲食店やフード関連のビジネスだ。

例えばテキサス州サンアントニオでは、3月中旬にラーメン店Noodle Treeが破壊される事件が起きた。店へ憎悪に満ちた中傷が浴びせられたのは、店主のマイク・グエンがテレビ番組に出演し、テキサス州知事のグレッグ・アボットがマスク着用義務を解除したことについて非難した後だ。また、その数週間前の旧正月には、メリーランド州のアジア系レストラン4軒が一晩で強盗に襲われ、破壊された。こうした事件が相次ぐなか、ニューヨークにあるチェーン店Xi'an Famous Foodsは、従業員が安全に帰宅できるように、午後8時30分に店を閉めるという対応を取り始めている。

これらは、この3カ月で報告された事件のほんの一部に過ぎない。アメリカではアジア系レストランに対する根強い外国人排斥感情が、生活を脅かし、命を危険にさらしているのだ。各地のアジア系フードビジネスのオーナーたちに話を聞いた。

エリック・ファン

ニューヨークの人気店、Pecking Houseのシェフ兼オーナーであるエリック・ファンは、彼と彼の家族が店の売り上げが落ち始めた2019年12月、つまり「新型コロナウイルスが単に中国からの潜在的脅威としてみなされていた」頃のことを語ってくれた。

ファンによると、新型コロナウイルスが流行し始めた初期の段階で、彼と彼の家族に自分たちがアメリカ市民であり、アメリカ人の従業員を雇い、食材をアメリカ国内で調達していることを宣伝するように人から勧められたそうだ。ファンは当時を思い出してこう語った。

「率直に言って、馬鹿げていて、信じられないほど無知なことをアドバイスしてくるなと思ったよ。僕は自分の『アメリカ的』な部分を宣伝したり、証明したりする必要はまったくない。日本人の強制収容や1980年代のデトロイトにおける反アジア感情、1992年のロサンゼルスでの暴動など、アジア系アメリカ人コミュニティーが受けてきた偏見を思い出してしまった」

そして、さらにファンは心に響く言葉で、シンプルに訴える。「ぜひ、アジア系飲食店の支援をお願いしたい。私たちの料理を愛するように、私たちも愛してほしい。アジア料理はアメリカ文化の中で非常に複雑なかたちで存在しているが、先人たちの頃から価格も評価も正当なものではないんだ」

キム・ファム、ヴァネッサ・ファム

Omsom co-founders Kim and Vanessa Pham
Photograph: Deanie ChenOmsom co-founders Kim and Vanessa Pham


姉妹であり、東南アジア料理を気軽に楽しめる調味料などを販売している、Omsomの共同創業者であるキム・ファムとヴァネッサ・ファムも、ファンの意見に賛同。「危険で有害な」固定観念は人種差別を助長し、人々の精神をむしばむことになると、次のように述べている。

「私たちのコミュニティーが受けたダメージは並大抵のものではありません。それが個人の生活や仕事にさまざまな形で影響を及ぼしています。私たちは深く怒り、傷ついている一方、アジア系アメリカ人であることの多様性を示して自らを祝福するという、私たちが最も得意とすることを行うために、苦しいながらもモチベーションを維持しています」

彼女たちはまた、アジア系アメリカ人(特に女性)に対する人種差別の高まりが、新しい世代におけるものづくりの担い手の誕生を妨げているのではないかと心配している。

「その危険性は、想像し得る最悪の形ですでに顕在化しています。ヘイトクライムや女性蔑視、人種差別的で軽蔑的な言葉、そして真っ赤な偽りの言葉が増えることで、恐怖と外国人排斥の感情が生まれ、未来のアジア人経営者の素晴らしい可能性を脅かしているのです」


ケビン・ティエン

Kevin Tien of Moon Rabbit
Photograph: Courtesy Moon Rabbit


ワシントンD.C.にあるレストラン、Moon Rabbitのシェフであるケビン・ティエンも、自分が属するコミュニティーに対する、最近の攻撃に心を痛めているうちの一人だ。彼は今、地元の45のシェフやレストランに呼びかけ、『Stop AAPI Hate』の資金調達を目的としたテイクアウトイベントの立ち上げ準備をしている。ベトナム系アメリカ人のティエンは、この1年間に職場以外で経験した嫌がらせや拒否が「常に思い出される」と明かした。

「『中国に帰れ』と怒鳴られたり、差別的な発言をされたりすることも多いです。精神的にも影響を受け、仕事をするのも難しく、自分の家族や文化について話すことができません」

ティエンは、バイアスについて真実を知り、憎悪に満ちた発言に対して声を上げるよう、人々に呼びかけている。

「消費者は、テイクアウトを注文したり、今起きている憎悪や暴力についてソーシャルメディアで声を上げたりすることで、地元のAAPI(アジア太平洋諸国系のアメリカ人)やBIPOC(黒人、先住民、有色人種)のビジネスをサポートできます。 私たちは、ジョークのオチにされることや、それを受け流せと言われるのは嫌です。これまで何も言ってこなかったからといって、差別的な発言や行動が大丈夫だということにはなりません」と、強い思いを語ってくれた。 


シャーリー・チャン

Shirley Chung of Ms Chi Cafe
Photograph: Courtesy Ms Chi CafeShirley Chung of Ms Chi Cafe

ロサンゼルスのカルバーシティにあるMs Chi Cafeのオーナーシェフ、シャーリー・チャンはこの1年、パンデミックを乗り切りながら、誤った情報を否定することに疲れたという。彼女と店のスタッフは、人々の間違った懸念を和らげるために、最大限の努力をしてきた。北京出身のチャンは、「私たちは、保健局からの要求以上の感染対策を行えば人々がより安心して食事ができるだろうと期待して、特別な対策を取りました」と語るが、良くないことが起きてしまった。店の裏手が落書きの被害を受け、彼女は店を守るために新しい鍵と監視カメラを設置したのだ。

彼女のレストランをはじめとするアジア系ビジネスを支援するために、消費者は何をすればいいのだろうか? チョンの答えは二つだ。彼女の店のような、小規模経営の飲食店を頻繁に利用すること。そうした店で食事をしたり、テイクアウトをしたりすることは、コミュニティーが生き残るために必要なことだと、彼女は強調する。「小さな飲食店を支援することは、そこで働く人々や家族の生活を直接支えていることを忘れないでください」

しかし、さらに重要なことは、問題のある行動を目撃したときに自分は正しい行動をとることだと、チョンは指摘する。それは、単に友好的で礼儀正しくしているのではなく、自分の特権を使って他人を守っていくことだ。アジア系ビジネスの未来を守るために、何かをしなければならないと、彼女はこれからのことについて考えを教えてくれた。

「私たちは転換点に到達しているのです。これからは、より大きな声で、より激しく戦っていきます。自分たちの味方にも同じことをしてもらう必要があるでしょう。つまり、私たちと一緒に声を上げ、立ち上がってもらいたいのです。団結した支援は、より強力でパワフルなものになるからです」 

原文はこちら

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