松本市立博物館
Photo: Yuki Yokosawa

松本は「屋根のない博物館」、新たな文化拠点となる博物館がオープン

10月7日から、江戸時代から続く松本城下町の姿を巨大ジオラマで再現

編集:
Genya Aoki
寄稿:
Kosuke Shimizu
広告

2023年10月7日、長野県松本市に「松本市立博物館」がオープンした。同館は、日露戦争へと出征した「開智学校」の卒業生たちが持ち帰った資料を保存・展示する施設として1906年に開館した「明治三十七、八年戦役紀念館」にルーツを持つ。

これまでにも幾度の移転を経てきたが、松本城の二の丸にあった施設を2021年に休館。かつて三の丸があったエリアへと場所を移し、市民や観光客にとってより親しみやすい博物館として装いを新たにした。

本記事では、博物館に収蔵されている資料だけに注目するのではなく、松本市全体が「屋根のない博物館」とコンセプトに掲げる同館の魅力を紹介する。

松本市立博物館
Photo: Yuki Yokosawa

JR松本駅に降り立った観光客の多くが、国宝にも指定されている「松本城」へと向かう際に通る大通り沿いに新築された同館は、近隣の建築と比べても低い3階建てだ。開放感のあるガラス窓に覆われたファサードで、歴史を感じさせる町並みに威圧感を与えることなくマッチしている。

松本市立博物館
Photo: Yuki Yokosawa

21時まで使用できる1階部分には、松本市で人気のコーヒースタンド「ハイファイブコーヒースタンド(High-Five COFFEE STAND)」が運営するカフェが入居しており、椅子にも松本民芸家具が使われているなど、新旧織り交ぜた同市の魅力が感じられるようになっている。

松本市立博物館
Photo: Yuki Yokosawa

標高の高い地域特有の澄んだ光が、天井まで届く大窓から差し込むロビーには、同地に伝わる手工芸品「松本てまり」をモチーフとしてあしらったモビールが備え付けられている。

江戸時代には、主に童女の遊具として全国的に親しまれていた「手まり」だが、ここ松本では色や柄に特徴のあった「松本てまり」の再現に注力してきた歴史がある。ともすると武家の町という印象の強い松本城下町に、愛らしい印象を添えるシンボルとして市民からも親しまれてきた。

松本市立博物館
Photo: Yuki Yokosawa

松本城下町の巨大ジオラマを常設展

肝心の展示では、この度、新たに制作された松本城下町の巨大ジオラマが常設展示されている。

松本市立博物館
Photo: Yuki Yokosawa

現在の松本市街地は明治期の大火や近現代の開発によって大きく変わっており、江戸時代から続く松本城下町の姿を正確に伝えるものではない。そこで今回の博物館リニューアルに当たり、江戸時代後期の城下絵図をもとに古い写真や建築図面などの情報を市民に広く募り、ジオラマ制作に乗り出したという。そうして完成したジオラマは、縮尺が約300分の1、縦約8.6メートル、横約5.2メートルという、城下町のジオラマでは最大級の規模に仕上がった。

松本市立博物館
Photo: Yuki Yokosawa

そのほか、温泉についての資料が豊富な「開かれた盆地」や、今なお続く新春の名物行事「松本あめ市」を紹介する「にぎわう商都」など、8つのテーマで構成される常設展示には、最奥部に「ともにある山」コーナーが設けられ、「岳都」としての松本の魅力を多角的に取り上げている。

松本市立博物館
Photo: Yuki Yokosawa
松本市立博物館
Photo: Yuki Yokosawa

先述の松本てまりや「みすず細工」など、工芸の町でもある松本の手工芸品についても、同館3階にある常設展示でつぶさに学ぶことができる。

松本市立博物館
Photo: Yuki Yokosawa

2階は特別展示室となっており、その時々の企画による展示を行う。12月10日(日)まで開催中の特別展では、生産量が日本一である長野県ならではの個性豊かなギターや、「クラフトの街」としても知られる松本市にあって全国的なファンを持つ三谷龍二の木工作品など、多方面から「今」の松本が持つ魅力を知ることができる。

松本市立博物館
Photo: Yuki Yokosawa

子どもも大人も楽しめる「アソビバ」

リニューアルオープンに当たって、建築や展示空間にさまざまな工夫が見られる本館だが、なによりも注目したいのが、入館料のかからない1階にある「子ども体験ひろばアソビバ!」だろう。

松本市立博物館
Photo: Yuki Yokosawa

未就学児および小学生以下の児童と、その付き添いの大人のみが入室でき、県内産の木材を使用した積み木をはじめとしたさまざまな玩具が用意されている。子どもたちの自発的な遊びを促す同スペースでは、「あそびとまなびのヒント」というハンドアウトがあるものの、基本的にはそれぞれの利用者による自由な遊び方が期待されている。

松本市立博物館
Photo: Yuki Yokosawa

気取らない居心地のいい空間でありながら、本物の縄文土器の破片に触ることができたり、長野県で活躍するイラストレーター古荘風穂のイラストが壁に描かれていたりと、上質なものがさりげなく配されており、大人でも楽しめるすてきな空間に仕上がっている。

市内に音楽・アート・舞台などの魅力が拡大中

コロナ禍を経て、ますます移住者が増えたこともあり、文化的にも注目すべきものが松本市には多くある。

長野県全体としても「信州アーツカウンシル」が発足したほか、松本市を代表する劇場「まつもと市民芸術館」にも芸術監督団として、「木ノ下歌舞伎」の木ノ下裕一や、薬物依存症の人々との作品制作が評判を呼んでいる倉田翠などが就任。書店「栞日」のほか、「りんご音楽祭」を主催する「瓦レコード」、「ギブミーリトルモア(give me little more)」や「マーキングレコーズ(marking records)」などの音楽ヴェニューも充実している。

松本市立博物館がうたう「屋根のない博物館」である松本市は、歴史や自然だけでない魅力を今後もますます増やしていくだろう。

関連記事

松本市立博物館

東京、10月から11月に行くべきアート展

京都の地下に広がる大音響空間でアンビエントに没入、AMBIENT KYOTOが開幕

マツモト建築芸術祭でしかできない6のこと

東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら

最新ニュース

    広告