AMBIENT KYOTO 2023
Photo: Kisa Toyoshima坂本龍一 + 高谷史郎 | async – immersion 2023

京都の地下に広がる大音響空間でアンビエントに没入、AMBIENT KYOTOが開幕

坂本龍一の「async」に入り込む体験やコーネリアス書き下ろしの新曲も

テキスト:
Shiori Kotaki
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アンビエントの創始者であるブライアン・イーノ(Brian Eno)を迎えた大規模展覧会を2022年に開催した「AMBIENT KYOTO」。会期を2週間延長するほど大きな話題を集めた集めた同展覧会の第2回が、2023年10月6日に開幕した。

今年は、会場を2つに拡大(ライブ会場も含めると合計4つ)。テリー・ライリー(Terry Riley)とコーネリアスによるライブや、「アンビエント」の可能性を広げるような実験的な展示、京都のヴェニューとコラボレーションした企画など、かなり盛りだくさんの内容になっている。

ここでは、「AMBIENT KYOTO 2023」を実際に体験して印象的だったポイントを紹介。アンビエントをテーマにした展覧会に「おすすめ」「見どころ」なんて言葉は似合わないが、「こんな体験もできるのか」というくらいで読んでもらえたらうれしい。

昨年の様子を振り返るなら:
ブライアン・イーノの大規模展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」でしかできない9のこと

AMBIENT KYOTO 2023
Photo: Kisa Toyoshima会場の一つ、「京都中央信用金庫 旧厚生センター」の外観。キービジュアルはシガー・ロス(Sigur Rós)のアルバム「Takk...」のアートワークも手がけたアレックス・ソマーズ(Alex Somers)が担当。ロゴデザインは、グラフィックデザイナーの田中せりが手がけた

普段は一般開放されていないスペシャルな環境で坂本龍一の「async」に入り込む

今年、新たな舞台として加わった「京都新聞ビル」の地下1階では、日本を代表するアーティストの一人である坂本龍一と、ダムタイプのメンバーとしても活動するアーティスト・高谷史郎の作品を展示している。ここは、かつて京都新聞が印刷されていた印刷工場だ。

坂本がアルバム「async」をリリースした2017年、「良質な環境で音楽に向き合ってもらえたら」という思いから、ムジークエレクトロニクガイザイン製のスピーカーで5.1ch サラウンドを再生するインスタレーション空間が「ワタリウム美術館」に登場したが、この場所もまた「良質な環境」の一つであることに間違いない。インダストリアルな空間に高い天井、まだ色濃く残るインクの匂い......。こんな空間で「async」を聞く機会は、なかなかない。 

AMBIENT KYOTO 2023
Photo: Kisa Toyoshima坂本龍一 + 高谷史郎 | async – immersion 2023

音響ディレクションは、エンジニアで音響ディレクターのZAKが手がけており、この環境だからこそ堪能できる音響は我々をこの展示の深みへと導いていく。音が波のように押し寄せてきたり、引いていったり。はたまた生き物のように会場内を飛び回ったり。そんな音の中でぼーっとしていると、ありとあらゆるものから解き放たれていくような感覚になるだろう。

フィッシュマンズをはじめ、坂本の晩年の作品を手がけたことでも知られるZAK。さまざまな魅力のある同展の中でも、「音」というものは一つ重要なポイントになっているので、ぜひ彼の立体音響に没入してみてほしい。 

AMBIENT KYOTO 2023
Photo: Kisa Toyoshima坂本龍一 + 高谷史郎 | async – immersion 2023

また、会場内の大きなスクリーンに映し出される高谷の映像作品は、音に合わせて動いていくが、音楽とは完全に一致していない。そんな効果もあってか、この空間に「永遠にいられる」と感じる人も多いかもしれない。

アンビエントの可能性を広げるような実験的な挑戦を見る

昨年開催されたBRIAN ENO AMBIENT KYOTOの会場でもある「京都中央信用金庫 旧厚生センター」では、コーネリアス、バッファロー・ドーター、山本精一の作品が楽しめる。いわゆるアンビエントアーティストという枠には当てはまらないかもしれないが、ここには「ワールドワイドに活躍する彼らがアンビエントを表現したらどうなるか」という実験的な挑戦が込められている。

AMBIENT KYOTO 2023
Photo: Kisa Toyoshimaコーネリアスの作品「霧中夢 -Dream in Dream-」。立体音響と高田政義による照明、そして特殊演出の霧が交わる。作品の後半は霧が濃くなったり、暗転する瞬間もあるので、移動には要注意だ

バッファロー・ドーターと山本の作品が展示される部屋は、向き合うように2つのスクリーンが設置されている。映像のインスタレーションが呼応しているように感じられるのも面白い。 

AMBIENT KYOTO 2023
Photo: Kisa Toyoshimaバッファロー・ドーターの作品「Everything Valley」。2021年にリリースされたアルバム「We Are The Times」に収録されている楽曲で、映像のインスタレーションは映像クリエーターの住吉清隆が手がけた
AMBIENT KYOTO 2023
Photo: Kisa Toyoshima山本の作品「Silhouette」。音楽は、本展のために書き下ろされたアンビエントの新曲。映像は、ビジュアルアーティストの仙石彬人と山本が共同制作した

正方形の上で立体音響を体感する

京都中央信用金庫 旧厚生センターに展示される全作品も、ZAKによる立体音響で楽しめる。中でもコーネリアスが2023年にリリースしたアルバム「夢中夢 -Dream in Dream-」に収録されている「火花」のカップリング「QUANTUM GHOSTS」の作品は、「音の球の中」に入ったような感覚が強く、印象的であった。 

AMBIENT KYOTO 2023
Photo: Kisa Toyoshimaコーネリアスの作品「QUANTUM GHOSTS」

360度に配置された20台のスピーカーから鳴る立体音響と、高田政義による照明がシンクロする本作では、ぜひ会場中心にある正方形のステージのような場所に上がってみてほしい。ステージ下とはまるで違う音の体験ができるのだ。たとえ一人でもちょっと勇気を出して上ってみると、はっとするような感動に出合える。

思わぬ場所でコーネリアスの新曲に遭遇できる?

京都中央信用金庫 旧厚生センターの会場内では、展示室以外でも「耳」に集中してみよう。なんと、コーネリアスが同展のために書き下ろした新曲が展示室以外の空間で流れているのだ。ちなみに、会場内のトイレは展示の音漏れがないため、意外にもゆっくり聞ける隠れスポットかもしれない。

オリジナルグッズや「音のような文字」で、家でも浸る

昨年も京都の老舗和菓子店「鍵善良房」との限定商品を販売していたが、今年はさらにパワーアップ。唐紙工房「かみ添」の「かみ添 特製 唐紙カード - 『流跡』」や、ローチョコレート専門店「カカオマジック」の「MELTING AMBIENCE」など、京都のアンビエントな店とコラボレーションしたオリジナル商品を多数展開している。

AMBIENT KYOTO 2023
Photo: Kisa Toyoshima京都中央信用金庫 旧厚生センターの展示空間をコンディショニングしている香りはアーティストの和泉侃が制作。その香りもオリジナルフレグランスとして販売されているので、手に入れれば、会場で体験した記憶や感じたことを思い出すきっかけになるだろう

また公式ウェブサイトでは、小説家の朝吹真理子がアンビエントをテーマに書き下ろしたエッセイ「幽霊に似ている」を公開中。「Apple Podcast」ではデビュー作「流跡」を朝吹自身が朗読した作品を聴くこともでき、「音のような文字」に触れる新体験を自宅で楽しめるのもうれしい。

AMBIENT KYOTO 2023のチケットは、大人3,300円、大学生・専門学校生2,200円・中学・高校生1,800円(全て税込み)、小学生以下無料。京都新聞ビル地下1階のみに入れる無料チケットもあり、いずれも公式ウェブサイトから入手可能だ。

定員に達し次第、チケットの販売は終了となる。今年も大盛況となる予感の同展覧会。気になる人は、早めに予定を立てておこう。

「AMBIENT KYOTO 2023」の詳しい情報はこちら

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