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Photo: Kisa Toyoshima

ブライアン・イーノの大規模展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」でしかできない9のこと

世界初公開作品も展示、この夏は時間の存在しない惑星へワープしよう

テキスト:
Shiori Kotaki
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アンビエントミュージックの創始者であり、ビジュアル・アートに革命をもたらした英国出身アーティスト、ブライアン・イーノ。イーノの国内最大規模となる展覧会『BRIAN ENO AMBIENT KYOTO』が2022年6月3日、時代と文化が交差する京都を舞台に開幕した。

アンビエントミュージックとは、音を興味深く聞くことも、ただ聞き流すことも、無視することもできる、リスナーのあらゆる聴き方を受け入れる音楽だ。絶え間なく変化し続ける音と光に飛び込むような本展覧会も、アンビエントミュージックのように観客のあらゆる楽しみ方を受け入れ、その人によって感じ方の異なる空間となっている。

ゆえに、ほかの誰かと同じ体験をするということは難しい。しかしながら、「共感」というものを常にどこかで意識せざるを得ない現代においては、正解も間違いもなく、自由や開放に満ちたこの空間を心地よい場所だと感じる人もきっと多いだろう。

開催期間は9月3日(土)まで。日々の理不尽さや積み重なったストレスはいったん下ろして、この惑星に身を委ねてみてほしい。きっと本当の自分自身で過ごすことができるはずだ。なお、会場に入ると本当に時間を忘れてしまうので、この空間を存分に堪能したい人は、時間に余裕を持ち、一人で訪れることを推奨する。

1. 新しい人間と遭遇する。

築90年の歴史を持つ建物、京都中央信用金庫 旧構成センターを一棟丸ごと使った本展覧会では、3階から1階にかけて順に作品を見て回るのがおすすめ(もちろん楽しみ方は自由だ)。3階までの階段を上ったすぐの部屋に展示されているのが、世界初公開となる『Face to Face』である。

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Photo: Kisa Toyoshima|『Face to Face』

実在する21人の顔写真を用いた本作は、ランダムなパターンとその組み合わせによって予期せぬアート作品を生み出す可能性を追求したもの。特殊なソフトウエアによって、本物の顔から別の顔へとピクセル単位でゆっくりと変化していき、毎秒30人ずつ、3万6000人以上の新しい顔を誕生させることができるのだそうだ。

まつ毛が伸びたり、頬が膨らんだり、うっすらひげが生えたり……、本物の顔の間に「新しい人間」が誕生していくのだが、全くと言っていいほど違和感を感じないのが不思議。年齢や性別、国籍といったものは関係なしに、人間という生き物が混じり合っていく感覚を体感できるはずだ。

2. 楽曲に潜り込む。

同じく3階に展示されているもう一つの作品が、代表的なオーディオインスタレーション『The Ship』。部屋には多数のスピーカーが設置されており、それぞれが個別の音を鳴らしている。つまり、部屋のどこにいるか、どんな体勢で音を聞いているかによって、楽曲『The Ship』の聴こえ方が変わってくるという仕組みである。

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Photo: Kisa Toyoshima|『The Ship』

首を右から左に動かすだけでも音の変化が楽しめるので、目をつぶってみたり、椅子に横たわってみたり、部屋の中を歩き回ったりと、心のままに楽しんでみるといい。目を閉じると音が自分の周りを飛んでいるような感覚になるし、部屋の中を移動すればそれぞれのスピーカーから鳴る音を自発的にミックスすることもできるのだ。

ただし、部屋の中はとても暗いので、歩き回るのは目が慣れてからにしておこう。

3. 光の箱に吸い込まれる。

一つフロアを下りた2階では、LED技術を駆使した光の作品『Light Boxes』が展示されている。

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Photo: Kisa Toyoshima|『Light Boxes』

光りながら常に新しい色の組み合わせへと変わっていく本作は、錦玉羹(きんぎょくかん)のように透き通る色彩が印象的な作品。流れるような光の変化を眺めていると、じわじわとインスピレーションが湧いてきそうだ。

4. 紙とインクでつながる。

2階ではラウンジへ立ち寄ることも忘れずに。ラウンジの奥にはノートが置かれており、イーノへのメッセージを書くことができるのだ。

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Photo: Kisa Toyoshima

ノートは展覧会が終了した後、イーノの元に届けられるとのこと。英訳されることはないが、メッセージは日本語でも問題ないし、イラストで伝えるという手もあり。この機会にイーノへの愛をページに込めよう。

5. いかなるときも耳福である。

作品の鑑賞中はもちろんのこと、移動中であっても我々を楽しませてくれるのが同展覧会のにくいところ。

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Photo: Kisa Toyoshima

実は、日本初公開となる音源『The Lighthouse』が、『Light Boxes』と『Face to Face』が展示されている部屋のほか、会場内の廊下や階段、さらには化粧室などでもSonosスピーカーを通じて流れているのだ。会場内をシームレスに歩けるというのは、なんともイーノの展覧会らしい。

6. ただそこにいる人になる。

本展覧会で楽しめる最後の作品として紹介するのは、1階に展示された『77 Million Paintings』。これは、音と光が途絶えることなくシンクロして生み出される空間芸術作品で、2006年にラフォーレミュージアム原宿で初公開された後、世界を巡回しながらアップデートを繰り返してきた。16年ぶりに再会を果たすという人もきっと多いことだろう。

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Photo: Kisa Toyoshima|『77 Million Paintings』

タイトルにある「7700万」という数字は、システムが生み出すことのできるビジュアルの組み合わせだそう。色や絵柄がじりじりと変化を続けるのだが、「一体いつの間にピンクから緑に変わったの?」という感覚の連続に驚く。

もちろん、一部だけ目を凝らして見ていればその変化に気づけるのだが、そんなことよりも、ぜひこの空間に身を委ねてみよう。不思議なことに『77 Million Paintings』を「作品」としてではなく「ただそこに存在しているもの」として捉えられるようになり、自分自身も「ただこの場所にいること」が、とても心地よくなってくるのだ。

作品の入り口に吸音シートが貼られていることもあってか、この空間に流れるのは、外の世界とは遮断されたようなしんとした空気。部屋の中に立てられた北山杉が、神秘的な空間に一役買っている。

7. 興奮は持ち帰る。

グッズコーナーのイーノショップ(ENOSHOP)では、ここでしか手に入らないアイテムも販売している。

注目は、京都の老舗和菓子店、鍵善良房が手がけた和菓子。古くから伝わる技術と美意識を持って、イーノのアートを州浜(すはま)と落雁(らくがん)で表現した一品だ。1日18個限定、本会場のみでの販売となり、連日売り切れが続く人気商品となっている。

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Photo: Kisa Toyoshima

そのほか、入手困難となっていた1990年代を代表するイーノの名盤や、ラフォーレミュージアム原宿で開催された展覧会で1000枚限定で販売された『77 Million』の再発盤もあるので、家宝級のレア版もぜひ手に入れておきたい。

8. 時代のパイオニアはハシゴする。

今年の京都では、ブライアン・イーノを皮切りに、デヴィッド・ボウイやアンディ・ウォーホルに焦点を当てた展覧会が続々と開催されることを記念し、3展覧会をちょっとお得に回れる相互割引も実施される。

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Photo: Kisa Toyoshima

対象となるのは、『BRIAN ENO AMBIENT KYOTO』『時間〜TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA リターンズ 鋤田正義写真展』(2022年6月25日(土)〜7月24日(日))、『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』(2022年9月17日(土)〜2023年2月12日(日))。

『BRIAN ENO AMBIENT KYOTO』や『時間〜TIME BOWIE×KYOTO×SUKITA リターンズ 鋤田正義写真展』を鑑賞した後、会期中にほかの2つの展覧会を訪れれば、当日券から100円オフになるという仕組みだ(対象となるチケットは当日券のみで、ほかの割引との併用は不可)。この機会に、世界のカルチャーシーンを切り開いてきたレジェンドたちを追求したい。

9. 深める。

もう一つ、イーノショップで忘れずに手に入れたいのが、本展覧会の図録だ。

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Photo: Kisa Toyoshima

図録には、イーノの書き下ろしエッセイのほか、アートスクールから現在にいたるまでのビジュアルアーティストとしての軌跡も収録されている。

イーノという人間を捉えることはなかなか困難だが、彼の考えを読むこと、そして本展覧会の真髄を知ることで、きっと何かを手に入れられるはず。展覧会の会場のみでの販売となるので、余韻とともに自宅に連れて帰ろう。

『BRIAN ENO AMBIENT KYOTO』の詳しい情報はこちら

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