アムステルダムの循環型経済を支える「ドーナツモデル」

コロナ禍でも見えた成果

Derek Robertson
テキスト:
Derek Robertson
広告

アムステルダムを「罪の街」と呼ぶのは簡単だ。この街は観光客にとってはもちろん、一部の地元の人たちにとっても、(毎晩ではないにせよ)酒色にふけり楽しい時間を過ごせる場所だろう。しかし、きらびやかな運河と絵のように美しい切妻屋根の家々が並ぶアムステルダムは最近、持続可能性とグリーンイノベーションの砦(とりで)としての地位を確立しつつある。それを裏付けるように、今年タイムアウトが実施した都市調査でも、この街は世界で3番目に「環境に優しい都市」「サスティナブルな都市」に選ばれた。

同市がそうした状況にあるのは、循環型経済への全面的な取り組みとして、いわゆる「ドーナツモデル」を採用している結果といえる。これはオックスフォード大学の経済学者であるケイト・ラワースが、2012年に発表した現代的な持続可能性を実現するためのビジョンで、「廃棄物と汚染を可能な限りの排除すること」「製品や素材を使い続けること」「自然のシステムを再生させること」の3つの要素が指針とされる。アムステルダムではこのように、再生可能なエネルギーと素材の利用に重きを置きながら、さらに「デジタル・イノベーション」にも焦点を当てている。

これらの取り組みのゴールは、人類のニーズを満たしつつ、地球のために実行可能な未来を創造すること。そういう意味では、このスイートスポット(つまり「ドーナツ」)は、あらゆる政府が目指してもいいのかしれない。

ドーナツモデルの採用

アムステルダムは2015年、世界で初めて都市レベルでドーナツモデルの可能性について検討するため、調査を実施。その後は報告書に基づいて、再生可能エネルギーや緑地、持続可能なフードシステムの構築、消費の削減など、数多くの野心的な政策や目標を採択してきた。

市は2030年までの目標として、「二酸化炭素排出量の55%削減」「電力の80%を再生可能エネルギーで賄うこと」「個人消費の50%削減」を設定。さらに公園の数を増やしたり、あらゆる製品を修理して再利用するためのインフラを整備するといった、市が長期的な視点を感じ取れる具体的な目標も掲げている。

アムステルダム版ドーナツモデル『Amsterdam City Doughnut』の影響範囲は幅広く、市の『Circular Strategy(循環戦略)2020-2025』の中心的構成要素としても位置づけられている。この戦略は「地球の限界を尊重しながら、全ての市民に繁栄をもたらす、リジェネラティブでインクルーシブな都市」の実現するために策定されたものだ。

コロナ禍のドーナツモデル

「変革のためのツール」と銘打たれたこの戦略は、ラワース本人も協力した開発フェーズを経て、2020年4月に発表された。しかし、その頃ちょうど世界中でロックダウンが発生。ところが、パンデミックはこの戦略の障害になるどころか、多くの都市住民が根本的な「変化」を待ち望んでいたことを気付かせてくれるきっかけとなった。

「タイミングには疑問も感じていましたが、結果的には人々は危機後の経済を立て直すためのアイデアを求めていることが分かりました」と語るのは、アムステルダムサステナビリティ担当副市長のマリーケ・ファン・ドーニンクだ。

彼女は同市の循環戦略について、「単に 『それまでのビジネス』に戻るのではなく、経済を異なる形にする方法を模索するためのツール。経済回復のための計画としても注目されています」と教えてくれた。さらにそのメリットは誰の目にも明らかであるべきだと、次のように強調した。「循環型経済は生産、消費、再処理が地域で行われるため、より回復力のある経済となるのです。そしてもちろん、労働集約型であるため雇用創出にもつながります」

ドーナツモデルが生んだ取り組み

実際、公的機関や民間企業によるさまざまな新しい取り組みも行われている。デザイナーの服を有料で借りられるファッションライブラリーのLENAや、73メートルとオランダで最も高い木造住宅プロジェクトであるHAUT(ザイダス地区ではさらに高層の木造オフィスビルが建てられる予定)はその好例だろう。

また、協同組合であるMeerEnergieでは、アムステルダムのサイエンスパークにあるデータセンターのサーバーから発生する余剰熱を利用して、5000戸以上の住宅に暖房と温水を供給する計画を準備中。教育的な要素を盛り込んだ「ラボガーデン」であるTuinen van West(西の庭)では、食料生産、バイオマス、土壌、肥料などの実験を行っている。

アムステルダムは元々フォンデルパークをはじめとする公園や緑地が充実していることで知られているが、最近では2,650万ユーロ(約34億円)が18の大規模なプロジェクトに割り当てられ、緑化がさらに増加。その中には市内中心部の交通量の多いラウンドアバウト(Weteringcircuit)の改修や、アムステルダムセ・ボス(Amsterdamse Bos)への500本以上の植樹などが含まれる。また、緑化プロジェクトへの市民参加も盛んで、最近では住宅やオフィス、アパートの前庭にある5万枚以上のタイルを剥がし、茂みや樹木に置き換える作業が行われた。

さらに素晴らしいのは、市がクリーンテックのスタートアップ企業を支援していることだろう。オープンイノベーションプラットフォームであるSmart Cityは、データとテクノロジーを使って生活の質を向上させるというシンプルなアイデアに基づきソルーションを提供。データの透明性、電子政府、アルゴリズムの偏り解消が必要な領域で活躍中だ。さらに公共交通を中心としたスマートモビリティ領域で、彼らは特に注目を集めている。あるプロジェクトでは自動車、公共交通、自転車、歩行者を考慮した問題点や潜在的な混雑を浮き彫りにするデータを作成し、交通の流れを管理しているという。

モビリティに関してのトピックとしては、アムステルダムを含むオランダの市で進められている「モビリティデータの標準化」がある。これは、ヨーロッパの厳しいデータ保護規制に対応した、処理しやすいフォーマットで交通情報を共有するためのデータを開発するというものだ。

「刺激し、協力を促す」

これまで見てきたような過激な施策を採用している都市は、アムステルダムを除いてはほとんどないといえる。幸いなことに同市の循環戦略は機能し始めていて、二酸化炭素排出量の軽減、(そして重要なことだが)社会における認知度アップにも役立っている。ドーニンクが書いた『サーキュラー・ストラテジー』の序文にあるように、地球が人間社会を支えながら生態系を保護する新しい状況を作り上げるためには、「みんなを刺激し、協力を促す」ことが必要。この2つの要素は、一緒に進めていかなければならないのだ。

彼女は「新しい経済モデルを選択することで、アムステルダムは世界で最も循環する都市、つまり革新的で繁栄し、包括的で魅力的な場所になるでしょう」と自信を見せる。アムステルダムの高貴で難しい目標は、「ドーナツモデル」のパイオニアとして街の新たな評判を固めるものでもある。ほかの多くの大都市でも、アムステルダムのような動きが見られることを期待する。

原文はこちら

関連記事

南米コロンビアの首都ボゴタが「サイクリスト天国」になった理由

パリ市が100%自転車で移動できる街になるための計画を発表

ニューヨーク、ブルックリン橋の自転車専用レーンが完成

人気コーヒー店も入居、清澄白河にTOKYOBIKE旗艦店がオープン

駐日オランダ王国大使に聞く、東京を自転車に優しい街にする方法

東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら 

最新ニュース

    広告