TOKYO meets the WORLD
Photo: Kisa ToyoshimaAmbassador of the Netherlands to Japan, Peter van der Vliet
Photo: Kisa Toyoshima

駐日オランダ王国大使に聞く、東京を自転車に優しい街にする方法

「自転車ハイウェイ」の整備とエシカル消費の潮流

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コーディネート:Hiroko Ohiwa

日本とオランダは旧友と言っても過言ではない。1600年に貿易船「リーフデ号」が九州に漂着して以来、親密な関係を築いてきた。4世紀たった今でも、100以上のオランダ語が日本語の一部として残っており、東京駅の東側に位置するビジネス街である「八重洲」という名前の由来は、オランダ人冒険家のヤン・ヨーステン・ファン・ローデンスタインだ。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている『Tokyo meets the world』シリーズ。今回は東京タワーのたもとにある首都圏で最も美しい大使館の一つで、1928年に建てられたコロニアル様式の邸宅に住んでいる、オランダのペーター・ファン・デル・フリート大使に話を聞いた。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、グリーンエネルギー、環境に優しい投資、自転車インフラなどについて、おすすめの美術館や風車探しのアドバイス、東京での生活の感想などを交えて語ってくれた。

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九州はオランダ人にとって特別な場所

ー日本に対する現在の印象と、就任する前と後の変化について教えてください。

2019年8月に来日するまで、私は日本のことをよく知りませんでした。国際機関で日本の外交官と一緒に仕事をすることが多かったのですが、日本という国やその文化については詳しくなかったのです。日本は魅力的で、一生かけて勉強しても学びきれないほど奥深い国だと思います。私は初心者として日本に来ましたが、今では日本の専門家ではなく、日本の「研究者」だと思っています。

日本にはまだ知らないところも、行きたい県もたくさんあります。しかし、九州はオランダ人にとって特別な場所です。長崎や平戸のような都市が際立っているのは、私たちが共有している長い歴史によるものでしょう。オランダ人は1600年代初頭に初めて日本を訪れ、1609年には徳川家康から日本との貿易を許可されました。平戸に商館を設け、1641年には長崎の出島に移転したのです。

1641年から19世紀半ばまで、日本との貿易を許された唯一の西洋諸国であり、日本の「世界の窓」だったのです。貿易だけではなく、世界で起こっていることに関する知識や、医学、科学、工学の知識などをもたらしました。このような歴史が特別な絆を生み、今でも九州に行くと、その友情とオランダ人がいかに評価されているかを感じます。

オランダのおやつ「ビターバレン」がおいしい店

ー東京でオランダ料理を味わいたくなったら、どこに行きますか。

オランダの料理はそこまで特別ではないので、あまり恋しくはありません(笑)。とはいえ、東京で薦めたいオランダ料理のレストランが1軒あります。それは国分寺のライトハウス。ここで提供しているオランダのおやつ(牛肉とスパイスを煮込んだクリームソースが入った一口サイズのコロッケ)「ビターバレン」がとてもおいしくて、たまに食べたくなります。

唯一恋しくなるのは、オランダの運河に天然の氷が張り、スケートができるようになる時期です。また、日本で風車を見ると、とてもかき立てられるものがあります。実は私は、日本にある全ての風車を見るのが目標なのです。千葉の佐倉市、ハウステンボス、そして土浦市の霞ヶ浦公園にもありますよ。

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自転車で裏通りや街を探索するのが好き

ー東京に風車はありませんが、ほかにお気に入りの場所はありますか。

私は、自転車で裏通りやさまざまな街を探索するのが好きです。特に荒川が気に入っていて、そこなら何キロも自転車で走ることができます。国立近代美術館のような大きなところから小さなギャラリーまで、美術館に行くのも好きですよ。ちなみに、SOMPO美術館にはゴッホの『ひまわり』の原画があります。もう一つの楽しみは、オリンピック会場の多い有明エリアやウォーターフロントでの散策ですね。

ー東京都東部は比較的起伏が少なく、サイクリングには便利ですね。

ええ、でも山の中を走るのも好きなんです。レーシングバイクで筑波山に登ったことがあります。土浦からつくば霞ヶ浦りんりんロードで霞ヶ浦を周ったり、そのまま筑波山へ行ったりもしました。また、妻と一緒に瀬戸内しまなみ海道を走り、尾道のホテルサイクルに宿泊したのは、とても良いひとときでした。尾道から今治までを6つの橋でつなぐ坂道や峠道を登るのは素晴らしい体験ですよ。

このような自転車ルートを中心としたエコツーリズムの開発には、大きな可能性があると思います。しまなみ海道は環境に優しく、美しい自然があり、どこにでも立ち寄ることができて、とても安全なのです。国内には、ほかにもいくつかのルートがありますが、このように開発することができるといいですね。

東京がもっと自転車に優しい街になってほしいと思っています。道路には青い矢印の付いた自転車レーンがありますが、車と同じ車線になり、車のすぐ近くで走らなければなりません。自転車道の充実度で世界ナンバーワンと言われているオランダとは状況が異なります。車道と歩道、どちらとも自転車レーンは分離しています。世界の大都市では自転車道がどんどん整備されていますが、東京でも安全な自転車道を整備できるとよいですね。

「自転車ハイウェイ」を整備すれば都市全体を移動できる

ー東京の自転車インフラを改善することは、将来的に環境に優しい都市にするための一つの解決策であることは確かですね。

方法はいろいろあります。いわゆる「自転車ハイウェイ」を整備して、いくつかの「自転車専用の動脈」があれば、都市全体を自転車で移動できるようになるでしょう。どこにでも自転車専用道路を作るのはほぼ不可能ですが、このようなハイウェイがあるだけで多くのことが実現できるのです。

車線を削るので、ドライバーから反感を買うかもしれないので、政治家の勇気が必要ですね。東京ではすでに多くの親が子どもを自転車で通学させています。少しでも安全で利用しやすいものにしてくれれば、自転車通勤の促進も期待できるのではないでしょうか。

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オランダの消費者は環境に悪いものは買いたくない

ーその話にちなんで、日本ではSDGsが注目されるなど、持続可能な開発への関心が高まっています。オランダはどのようにサステナビリティに取り組んでいますか。

SDGsは誰もが最大の努力をしなければ達成できません。それは世界の全ての国、特に先進国、そして政府だけでなく、民間企業や家庭、個人も含めてです。SDGsには「持続可能な消費と生産」という項目がありますが、私たちは皆、消費者で、この目標は政府が達成すべき遠い他人事ではなく自分自身から始まるものでしょう。

フードロス、プラスチックの使用、個人の二酸化炭素(CO2)排出量など、あなたに何ができるかが重要なのです。また、あなたは有権者でもあるので、SDGsに賛同しない政治家ではなく、賛同する政治家に投票することもできます。そのためには政府や企業、個人など、全ての人が努力する必要があるでしょう。

企業の社会的責任(CSR)については、市民社会やオランダでは法制度からも、社会的、環境的責任を果たすよう企業への働きかけが高まっています。先日、ある国際非政府組織(NGO)が世界的なエネルギー企業であるシェルを提訴したところ、裁判所はNGOを支持し、シェルに対し温室効果ガス排出量削減への取り組みを強化し、持続可能なエネルギー企業への転換を図るよう命じました。これは非常に大きな意味を持つ出来事です。

CSRを積極的に推進する企業もあれば、より責任ある行動を取らなければならないと感じている企業もあります。どちらでもよいのですが、積極的であることに越したことはありません。

オランダの消費者は、環境に多大なコストをかけて作られたものを買いたくないという気持ちが強くなっています。この傾向はまだ世界的なものではありませんが、これから強まっていくでしょう。

ー持続可能性の追求に加えて、日本は気候、環境政策にもっと意欲的に取り組むべきだと思いますか。

私は、2050年までに温室効果ガスの実質排出量をゼロにするという目標を掲げた菅総理の姿勢を非常に嬉しく思います。これは非常に重要なコミットメントであり、日本は気候変動対策に関して積極的でありたいと考えている国の一つなのだと思います。

日本政府は最近、2030年までに温室効果ガス排出量を46%削減することも発表しました。私はこのような目標を歓迎しますが、同時に課題もあることを認識しています。エネルギー転換の問題は、原子力発電を巡る論争もあって、難しい問題でしょう。まだまだやるべきことはたくさんありますが、これらの前向きなステップは歓迎すべきものだと思います。

オリンピックはインクルージョンのためのもの

ー最後に、東京オリンピック・パラリンピックは、東京にどのような影響を与え、何が変わると思いますか。

まずは、コロナ禍を脱して普通の日常を取り戻すことが最優先であり、そのためにはワクチン接種が欠かせないと思います。

より長期的な課題としては、人口動態の問題があります。日本では高齢化と人口減少が進んでおり、これは社会や経済のあらゆる側面に影響を及ぼす可能性があります。この問題に直面しているのは日本だけではありませんが、これに対処しなければならないことは明白です。ロボットや自動化は助けになるでしょうが、それだけで十分なのでしょうか?

最後になりましたが、オリンピックはインクルージョンのためのものでもあり、その精神が大会後も引き継がれることを願っています。それは、スポーツにおけるものだけでなく、女性の活躍やLGBTIの権利の受け入れなどの面でも意味があります。

ペーター ファン・デル・フリート(Peter van der Vliet)

駐日オランダ王国大使

1988年に在ロッテルダムエラスムス大学(政治学・国際関係学)修士課程を修了。 1990年、在ハーグ オランダ外務省入省。1991年から在ジュネーブ国連軍縮会議オランダ代表団メンバー 、在ハーグオランダ外務省安全保障政策局事務官 、在ジュネーブ国連軍縮会議における包括的核実験禁止条例 (CTBT) オランダ代表特別補佐官 、在ハーグオランダ外務省 安全保障政策局事務官 、在インド・ニューデリーオランダ王国大使館経済・商務担当一等書記官、在ヨルダン・アンマンオランダ王国大使館全権公使、在ハーグオランダ外務省国連政務法務部部長に続き、同省国連・国際金融機関局次長 、在ニューヨーク国連オランダ政府代表部発展途上・人道人権部部長の後、同代表部次席代表兼発展途上・人道人権部部長を歴任。2015年から在ハーグ オランダ外務省 国際機関・人権局局長 持続可能な開発目標担当大使を務め、2019年から現職。

高橋政司(たかはし・まさし)

ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント

1989年、外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局で経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。 2009年、領事局にて定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。 2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、ユネスコ(国連教育科学文化機関)業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」などさまざまな遺産の登録に携わる。

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