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かつて「西の鎌倉、東の荻窪」と称されるほど、善福寺川がつくり出す起伏に富んだ地形と、美しい眺望に恵まれていた荻窪周辺。明治時代の末には、この豊かな環境に惹かれた財界人や学者、政治家たちが集まり、英気を養うための「別荘地」として人気を博していた。
その象徴ともいえるのが、日本の内閣総理大臣を3度務めた近衛文麿が晩年を過ごした邸宅「荻外荘」だ。2024年12月にはその建物の復元が完了し、一般公開されている。

そして2025年7月16日(水)、荻外荘の東側に、新たな文化拠点「荻外荘 展示棟」が誕生する。荻窪ゆかりの人物たちの足跡をたどる常設展示や特別展を開催するほか、ショップやカフェを併設し、誰でも気軽に立ち寄れる空間となる。

同施設が建つ土地には、かつて実業家・山田直矢の別荘が建っており、瓦葺の大きな三角屋根が印象的な建築だった。今回設計を担当した建築家の隈研吾は「屋根は家の個性、そして思想を表す」と語るように、曲線や曲面を取り入れたアジア的な雰囲気の屋根をデザインし、外観にその考えを反映させた。

隈が「住宅のイメージで設計した」建物の1階は、まるでリビングルームのように明るく開放的だ。併設されたカフェでは、山田家が建っていた当時から残る植物や石が配された庭を眺めながら、荻外荘を望む贅沢なひとときが楽しめる。

カフェで提供されるのは、2025年に西荻窪でオープンした「粒」のおにぎりや、荻窪の人気店「パンとcafé えだおね」の惣菜パンなど、杉並区各所の名店の味。ドリンクや「東京繁田園茶舗」の抹茶を使用したかき氷はテイクアウトできるので、「荻外荘公園」に持って行き、のんびり過ごすのもいいだろう。


また、併設のショップでは、荻外荘の200分の1スケールで再現されたペーパークラフトや、近衞文麿が住み始めた昭和12年当時の杉並区を描いた地図パズルなど、ユニークなグッズも販売している。


2階に上がると雰囲気はガラリと変わり、消し炭色の壁に囲まれた屋根裏部屋のような空間が広がる。ここでは、荻外荘および荻窪ゆかりの人々の軌跡を伝える常設展と特別展が行われている。


特別展「近衛家 荻窪でのくらし」では、たび重なる政務に疲弊し、心身の安らぎを求めて荻外荘に移り住んだ近衛文麿が実際に使用していた食器や家具など、貴重な遺愛品を展示。常設展「荻窪 実業家、政治家、芸術家たちがすごしたまち」では、荻窪にゆかりのある歴史的人物たちに焦点を当て、地域の文化的背景を丁寧に紹介している。


荻外荘を見学したあとに立ち寄れば、さらに理解が深まるだろう。カフェのみの利用もできるので、荻窪エリアを訪れた際に一息つける場所としても重宝しそうだ。
展示室は入場無料。静かな空間で、歴史に思いを馳せてほしい。
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