中山咲月
Photo: Kisa Toyoshima

トランスジェンダー、無性愛者を告白した中山咲月の22年間の葛藤

フォトエッセイ『無性愛』が9月17日発売

編集:
Hayashi Hisato
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モデル、俳優の中山咲月のフォトエッセイ『無性愛』が2021年9月17日(金)に発売される。自身の性についての違和感や葛藤を抱え続け、22年を経て自身がトランスジェンダーで無性愛者であることを告白し、ジェンダーレスでもなく女性でもない一人の男性として生きることをつづった作品だ。 

中山咲月
Photo: Kisa Toyoshima

自分の性別に違和感を抱えていた22年間

フォトエッセイ『無性愛』では、中山さんがトランスジェンダーで無性愛者であることを告白していますが、公にすることを決意したきっかけはありますか? 

きっかけは生田斗真さんが演じる『彼らが本気で編むときは』という映画を観た時でした。一人のトランスジェンダーの人生が描かれていて、その映画を観た時につらくなってしまって。それまでは自分が何者なのかわかっていなかったのですが、映画を観て、もしかしたら自分はトランスジェンダーなのかもしれないと感じたんです。 

フォトエッセイのなかに「死にたいと思ったことはありますか?」と書いているのですが、実際に自分の性別について悩む時期を経て、あまりにつらくて生きていたくないと思うようになりました。そのとき、一緒に暮らしている親友が「死ぬくらいならもっとわがままに生きてもいいんだよ」と言ってくれて、カミングアウトすることを決意しました。

中山咲月
Photo: Kisa Toyoshima

ー性別の違和感はいつ頃から抱えていましたか?

自分がメンズファッションに目覚めたのは、ティーンズ雑誌のモデルとして活動し始めた中学生の頃でした。その頃からモヤモヤはあったのですが、自分が男性だということには気がつかなくて。周囲には洋服が好きで芸能の仕事をしている女の子が多く、現場でファッションの話などで盛り上がることは多かったけれど、その会話に入れなかったことを覚えています。「モデルの仕事をしたくてこの業界に入ったのに、レディースファッションに興味が持てない」、そういった違和感はありましたね。

当時は女性というフィルターを通して接されることが多く、仕事で男性と一緒になると余計に差を感じてしまいました。ですが、当時はカミングアウトしていなかったので、女性として扱わないでほしいと言えば驚く人もいるだろうし、けれど言わなければ女性扱いされてしまう環境が当たり前で。「ファッションだけはメンズ服が好き」だと言っていたのも、周りの目を気にしていたからだと思います。 

自分自身の性の違和感に気づくタイミングはいっぱいあったのですが、その度に気のせいだと思うようにしていました。気づくきっかけを潰してきてしまったことで、徐々に負の感情が溜まっていき、最終的に生きていたくないとまで思うようになっていきました。

ーモデルとして活動する中で、レディース服を着る機会もあったかとは思いますが、そういった時にも違和感を抱えていましたか?

レディース服が用意されることは当たり前のようにありました。やはり仕事なのでカメラの前ではしっかりとするんですけど、家に帰るとすごくつらくなって。誰も悪いことはしていないのに、なぜか涙が出るという状況が続いていました。モデルという職業だからこそ、世間の理想とする像に当てはまらなければならないプレッシャーを感じていたのかもしれません。 

ーメディアでは中山さんを「ジェンダーレス」という言葉を使って表現されていましたが、そのことに関して当時はどのように感じていましたか?

自分でジェンダーレスと言うことはなかったのですが、世間的に見て自分を表現する一番わかりやすい言葉として使われていたのだと思います。女性と呼ばれるのなら、ジェンダーレスと言われる方が気持ち的には楽でしたが、それでもしっくり来ないと感じていました。 

 中山咲月フォトエッセイ「無性愛」/撮影:高野友也(C)ワニブックス
中山咲月フォトエッセイ「無性愛」/撮影:高野友也(C)ワニブックス

中山咲月という一人の人間へ 

ー22年間を経てカミングアウトした時、周りの反応はどうでしたか?

良い意味で変わらないですね。自分はブログでも性別を意識して書くことがなく、日常でも一人の人間として扱ってほしいと言っているので、カミングアウトしたあとも周りは変わらずに接してくれています。発表前は認められるかどうか不安でしたが、カミングアウトして「大丈夫だよ」とか「むしろ知ってたよ」と言ってくれる人たちが思った以上にいて、救われていると実感しました。 

つい数日前には家族にも伝えられて、親子でも考え方は違うこと話しました。否定的な反応はなく、「薄々は気づいていたよ」「自分のやりたいようにやればいいんじゃない」と最終的には言ってくれてよかったです。カミングアウトを通し、自分が気づいていないだけで周りの人からこんなにも分かってもらえる環境だったのだと初めて知ることができました。

ー自分らしい姿に変わってきているなか、現在はどのような気持ちでお過ごしですか?

周りからは生まれ変わったみたいだと言われるのですが、まさしくその通りに感じています。さまざまな負の感情を抑え込んでいた時期から急に爆発しているので。今までは内向的で自分から発言することもできなかったのですが、最近は当たり前のことなんですけど、言いたいことが言えるようになったのは自分にとっての大きな変化ですね。 

中山咲月
Photo: Kisa Toyoshima

ーほかに変わったと感じたことはありますか? 

見た目なども結構変わっていますね。発表前までは前髪を下ろすスタイルが多かったのですが、最近は顔を出すヘアスタイルをするようになりました。当時は好きだと思ってやっていたのですが、今考えるとそれも気持ちの変化なのかなと。また、服装は夏でも長袖を着ることが多かったのですが、それも今思い返せば体型を隠すために無意識にやっていたのだと思います。何をするにも性別のことが脳裏にまとわりついていた時代から、自分らしく生きられるようになり、今は「楽しい!」の一言に尽きますね。

ーカミングアウトすることで、活動への影響はありましたか?

自分が生きていたくないと思うくらいだったので、自分の気持ちを抑えてまで仕事を続けられるとは思いません。仕事よりも自分の命が一番大切ですし、もしカミングアウトしたことで仕事が減ったとしても、「息しやすくなった分生きているからいいよね!」といったスタンスで考えるようにしています。

中山咲月
Photo: Kisa Toyoshima

フォトエッセイを通して悩んでいる人へメッセージ

ー『無性愛』というタイトルを付けた理由は何ですか?

最近、トランスジェンダーについて語られる機会が増えてきたものの、無性愛(アセクシュアル)については、未だ認識が広がっていないと感じています。フォトエッセイでは自分だけでなく無性愛についても知ってほしいと思ったので、そこを強調するためにタイトルに入れました。

ーフォトエッセイについて公表したとき、ファンの方からはどのような意見が寄せられましたか?

フォトエッセイを通して自分自身を知る人も多いと思ったので、自分の写真だけでなく絶対にトランスジェンダーや無性愛について書きたいという気持ちがありました。ですが、やはり世間の顔を見る前はやはり恐怖にも感じていました。いざ、発表したら思った以上にポジティブな反応が多く「知っていたよ」という人や、写真集のタイトルを見て「そうだったんだ、初めて知った」と言ってくれる人もいて、偏見なく純粋に自分の意見として感じてくれることが嬉しかったです。 

ー最後にメッセージはありますか? 

フォトエッセイのなかには悩んでいた当時に残していたメモを載せています。リアルな苦しい思いを書いているので、生々しくて載せられない内容もあったのですが、共感できる人もいるかもしれません。

性別にかかわらず、生きていく中で、理不尽なことやつらいことはみんなが抱えていると思います。なので、このフォトエッセイを見たときに、「こういう表に出る仕事をしている人でも同じようにつらい思いを抱えているんだ。じゃあ頑張ろう」と思ってくれたらうれしいです。 生きることを諦めなくてよかったと思っています。

最低限他人を思いやる気持ちとかは大切ですが、今悩んでいる人がいるのなら、もっと自分を大切にしてもいいということを伝えたいです。

 中山咲月フォトエッセイ「無性愛」/撮影:高野友也(C)ワニブックス
中山咲月フォトエッセイ「無性愛」/撮影:高野友也(C)ワニブックス

テキスト:Honoka Yan

モデル、ダンサー、ライター、記者、LGBTQ当事者。タブーについて発信する日本のクィアマガジン『purple millennium』編集長を務める。『THE OTHER』発売中。Instagram:@honokayan

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