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蜷川家ゆかりの地、虚構と現実がぶつかり合う

埼玉県川口市に誕生した「川口市立美術館」の開館記念特別展として、写真家・映画監督・現代美術家の蜷川実花による個展「蜷川実花展 はじまりの光」が2026年11月29日(日)まで開催されている。
彼女の表現の原点と家族の記憶に迫る、大規模な個展となっている。
同館が位置する埼玉県川口市は、鋳物産業をはじめとする「ものづくりのまち」として知られる。職人たちの営みが息づくこの地は、演出家・蜷川幸雄の出身地であり、蜷川実花自身も幼少期を過ごした、創作の原風景ともいえる特別な場所だ。
同館館長の建畠晢は、「多忙な蜷川さんにオファーするのはためらいもあった」と振り返る。しかし、蜷川は以前から「いつか川口で展示をしたい」と考えていたそうで、オファーを受けると「待ってました!」と即答。この一言をきっかけに、同展の企画が動き始めた。
オファーを受け、蜷川は初めて自身の創作の原点が川口だと再確認したという。幼い頃に体験した「おかめ市」の見世物小屋やおもちゃの叩き売り、街にあったピンク映画館など、ハレの場とダークな世界観が同居する怪しげな熱気は、彼女の見る者を惹きつける作品世界に繋がった。
当時、父が手掛けていた演劇が心中ものの舞台や豪華なセットの中で繰り広げられる悲劇だったこともあり、現実と虚構が混ざりあう感覚を覚えたという彼女。
展示では、モノクロームのシリーズも存在感を放つなど、鮮烈な色彩というトレードマークにとどまらず、自身が本質的に「いい」と思える表現の原点へと立ち返っている。
展示は2つのフロアで構成され、彼女の過去と現在、そして内面の世界を緻密に織りなしていく。
1階では、父・蜷川幸雄が倒れ、死へと向かう一年半に記録された「うつくしい日々」、デビュー以降約30年にわたり撮り続けているモノクロのセルフポートレートシリーズ「Self-image」などを展示。カメラを通じて自らの存在を確かめ続けてきた軌跡が並ぶ。
最新作「First Light」は、実家で見つけた若き日の両親のアルバムをマクロレンズで自ら複写したシリーズ。高齢になり、記憶が曖昧になっていく母の目線と同化するようにレンズを向け、自身が存在していなかった頃の両親の時間と向き合っている。
階段を下りた展示ホールでは、暗く、より個人的な家族の記憶に迫る空間が広がり、彼女の内面に深く潜るような感覚が伴う。
クライマックスには、10年もの間向き合うことができなかった父の書斎を再現したインスタレーションが登場。愛用の机や書籍、キルト作家である母・蜷川宏子の作品、幸雄が手がけた舞台「海辺のカフカ」で使用された土星のネオンのレプリカや、彼の舞台でよく用いられた彼岸花、20年前から舞台音響として使用していたガヤの音などが配されている。
現実と虚構、過去と現在がぶつかり合う。猥雑で、行き場のない叫びのような、少し怨念じみたものも感じさせる特別な場所となっている。
展覧会だけでなく、今回オープンした川口市立美術館にも注目したい。敷地の丘の形状を生かした自然光の降り注ぐ開放的な空間が特徴。館内にはレストランやミュージアムショップが併設されているほか、ロビーで待ち合わせをしたり食事をしに行くだけでも利用できる。
地域に根ざした公園のようなコミュニティ拠点を目指しているという。いつかここで誰かが結婚式を開催してくれるのが建畠館長の夢だそうだ。
一瞬の光の中に閉じ込められた世界と記憶の輪郭を確かめに、足を運んでみては。
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