大道芸術館
Photo:Kisa Toyoshima大道芸術館

「エロかわいい」が正義、都築響一が手がける大道芸術館

奇抜でポップでノスタルジックなニュー美術館

Mari Hiratsuka
テキスト:
Mari Hiratsuka
広告

都築響一は、身近にあるが見過ごされている物事を追いかけることで、現代社会を切り取ってきた編集者、ジャーナリスト、写真家だ。 2022年にひっそりとオープンしたという「大道芸術館」は、そんな都築がこれまで取材で日本全国を巡りながら、手元に集まってきた蒐集物を展示する美術館であり、交流の場でもある。

「ガチの昭和」が好きな外国人が訪れる

館内には「秘宝館」「ラブドール」「バッドアート」「ピンク映画」「見世物小屋」などの要素が入り混じる。都築のファンならば「『ROADSIDERS' weekly』で紹介されていた作品の実物だ!」と、感動できるし、レトロフューチャーな空間は若い女性客から支持が高いそう。海外からは歌手のデュア・リパがお忍びで訪問。さらに、いわゆる「昭和レトロ」ではなく、三島由紀夫などサブカルチャー文脈の昭和好きな外国人がSNSで情報を見つけて多数訪れているそうだ。

大道芸術館
Photo:Kisa Toyoshima料亭の趣を残す入り口

大道芸術館があるのは江戸の花街、向島。料亭や置屋、住宅などがひしめくエリアに2022年10月にオープン。都築は、さまざまな物件を探した結果、かつて料亭だったこの場所を選んだ。

「向島は現役の花街で、料亭がまだ10軒くらいあって面白いエリア。最初はバーを開こうと思ったのですが、悪目立ちはしたくはなかったので、予約制の美術館とすることで落ち着つきました」と話す。

中に入ると、ピカピカに手入れされ広々とした玄関に、かつて「元祖国際秘宝館 鳥羽SF未来館」に展示されていたという、透明な卵型カプセルに入った女性のオブジェがドーンと置かれ存在感を放っている。

大道芸術館
Photo:Kisa Toyoshima電気が付き、巨大な手がインパクト大だ

身近にたくさんあるけど見過ごされているもの

1階から3階に作品が展示されており、1階にはエントランスと、カラオケができるスナック風のVIPルームがある。カラオケはその曲のためにだけに作られたオリジナルの映像(都築いわく「2分30秒の超短編映画」)があるもののみを厳選。

「てんとう虫のサンバ」を見せてもらったのだが、着ぐるみたちがダンスする映像が流れ、レトロかわいくて思わず笑ってしまった。

大道芸術館
Photo:Kisa ToyoshimaVIPルーム

階段の壁面には、都築が収集した「バッド・アート」を中心に展示されている。タイ・バンコクで写真を持っていくと油絵にしてもらえるという店で、ひょんなことから購入したという「バンコクの犬」や、小人プロレスのポスター、昆虫標本、中田柾志の写真作品、佐川一政や空山基、大竹伸朗の絵画などが並ぶ。

都築によると「有名な人の作品だから意識して飾っているということはなく、ごちゃまぜの空間を作りたかった」とのことだ。

大道芸術館
Photo:Kisa Toyoshima「バンコクの犬」と「秘宝オジサン」

2階はバーになっており、今回の美術館のために買い集めたというオリエント工業のラブドールたちがずらり。ドールたちには不思議と人間的な存在感があり、奇妙な感覚に陥る。入館料には、バーでのドリンク代も含まれており、居合わせた人と交流が生まれたり、落語やビデオ鑑賞会、バーレスクダンサーを呼んだイベントなども行われている。

大道芸術館
Photo:Kisa Toyoshimaテーブルのガラス板の下には、ピンク映画のポスターが大量に。壁に飾られているのは見世物小屋の看板

エロ宇宙の未来旅

クライマックスとなる3階には、とんでもないディストピア空間が広がっていた。都築が閉館間際に買い取った「元祖国際秘宝館 鳥羽SF未来館」の展示物の一部が置かれているのだが、その展示のストーリーは、「新人類を誕生させるベく優秀な男女を集めて身体を改造し、新しい地球を作る」という「SF大河ドラマ」のような内容なのだ。 ちょうどこのコーナーに入った時、BGMはCANの「Mother Sky」が流れていた。

 大道芸術館
Photo:Kisa Toyoshima3階 SFコーナー
大道芸術館
Photo:Kisa Toyoshima3階 SFコーナー

意図したわけではないハプニング的な思いつき

この展示空間に「ゴマちゃん」の人形がちょこんと置いてあるのを不思議に思い、都築に尋ねると、ある場所で「なんでこんな所に?」と思う場所にぬいぐるみが置いてあったという体験を語ってくれた。その理由は「ただ可愛いから」「お客さんが置いて行ったから」ということで飾られていたのだそう。

「シリアスなインスタレーションの中に、ぬいぐるみがポツンとあることで、そのシリアスさが全て壊されて、お笑いに転換しちゃうんです。それがすごく面白くて。ここも作ってみたらかなりシリアスな感じになってしまったので、ぬいぐるみを置いてみました」

 大道芸術館
Photo:Kisa Toyoshima大道芸術館

よくよく見るとバーのラブドールたちの間にも動物のぬいぐるみがあったり、1階の蝋人形の足にはタコのキュートなぬいぐるみが置いてあったりと、確かにシリアスさが緩和されている。

 大道芸術館
Photo:Kisa Toyoshima人気者の甘噛みするぬいぐるみ

最後に美術館の楽しみ方を尋ねると「一応、美術館っていう名前はついていますけど、作品を鑑賞してもらうだけじゃなくて、こういう雰囲気の中で楽しく飲んでもらいたいんです。ただ見て帰るんじゃなくて、フロアで和んで、スタッフと話してくれたらいいな」と、思いを語ってくれた。

大道芸術館
Photo:Kisa Toyoshima都築響一
大道芸術館
Photo:Kisa Toyoshima3カ国語で書かれた解説ブックほか、さまざまなグッズを販売している

美術館の解説ブックは日本語、英語、中国語を用意しており、作品にまつわるユニークなエピソードや、秘宝館の歴史などを詳しく知ることができるので、鑑賞後にさらに理解を深めたい人におすすめだ。

入場は予約、入れ替え制で3,000円(ドリンク代、作品の解説付き)。不定期で都築自身が案内するツアーなども実施している。公式Instagramからチェックしよう。

関連記事

東京近郊の変わった博物館19選

進化するラブドール、オリエント工業のショールームがリニューアル

歴史は夜作られる、歌舞伎町の新キャバレー「THE 27 CLUB」

クエンティン・タランティーノ映画、全作品ランキング

原宿の中心でかっけーと叫ぶ、空山基の新作個展「Space Traveler」

東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら 

最新ニュース

    広告