[title]
2009年に再開発の影響やオーナーの高齢化により閉店した、下北沢の「ジャズ喫茶マサコ」(以下、マサコ)。1953年開店という歴史ある同店が2020年に復活した際、かつて通っていた人たちが歓喜していたのは記憶に遠くない。
そんなマサコの、なんと2号店「マサコ パルファン店」が誕生。場所は同じく下北沢で、老舗喫茶店「カフェ ド パルファン」の跡地だ。2025年8月中のグランドオープンを目指し、取材時はプレオープン中だった同店を訪れた。

1号店の近くに2号店をオープンした理由とは
入店すると、1号店の倍くらいに感じるほど広々とした空間が広がる。テーブル席や1人でも過ごしやすいカウンターに加えて、カフェ ド パルファンだった頃に3つあったボックス席は2つを残し、1つをオーディオルームに改築した。また、いくつかの机や椅子は、カフェ ド パルファンが閉店後に売りに出されていた同店のものをたまたま発見し、買い戻して使用しているという。


両店舗で合計3000枚ほどあるレコード、そして新店にあるCD、食器類、キース・ジャレット(Keith Jarrett)をはじめとするジャズミュージシャンの写真などは、オリジナルのマサコから引き継いだものばかりだ。1994年から2009年まで旧マサコのスタッフとして働いていた店主のmoeが「いつかマサコを復活させる」という思いで、友人の倉庫や実家などで保管してきた。


そもそも近くに1号店があるのに、なぜ同じ下北沢に2号店をオープンしたのか。それは、またしても再開発が理由の一つだ。
今の1号店がある建物も、すぐではないが、いずれ再開発の対象になるかもしれないという。マサコを復活させるのに紆余(うよ)曲折を経て10年ほどかかったことから、「いつ再開発の対象になってもいいようにもう1店舗あったほうがいいのでは」と、moeはうっすらと考えていた。
「旧マサコの家具やレコードなどは、友人の倉庫でしばらく保管してもらっていましたが、友人がそこを取り壊すことになりました。その後は実家で保管していたのですが、その実家も売却して整理することが決まったんです。マサコの1号店オープン後も、まだまだ入り切っていないレコードや写真などが実家にあったんですよね。
そのタイミングで『いい場所に空き物件が出た』と、1号店を紹介してくれた不動産屋さんから連絡がきました。全部入れられるようにいっそ2店舗目を始めるのもいいかも、と思ったんです(笑)」とも、2号店開店について語ってくれた。

祖母の「TANNOY」から響く深淵なるジャズの世界
マサコといえば、ジャズが「JBL」の巨大なスピーカーで鳴らされているイメージ。オリジナルのマサコにあったスピーカーは1号店に受け継がれており、2号店にはmoeの祖母が所有していた「TANNOY」のものがインストールされていた。両店舗とも、同じく下北沢にあるジャズ喫茶「トンリスト(tonlist)」の店主が、オーディオのチューニングを担当している。

「1号店と同じように、お客さんの様子を見ながら、なるべくいろいろな『ジャズの世界』を旅できるように、そして同じようなテンションにならないように選曲できたらと考えています。
ただ、『フュージョンはバキバキに聞こえて難しいな』とスピーカーごとの音楽との相性を感じることもありますし、なによりお店の持つ雰囲気でかけてしっくりくるものが違うのだと、ここを営業してから気付きました」とこれまでを振り返る。
旧マサコでは、ジャズ専門誌「スイングジャーナル」を読んで、新譜を注文していた。ここ2号店にあるCDの多くは、moeが当時選盤していたものだという。
現在も1号店、2号店ともに新譜を仕入れることがある。そのセレクトの基準は、メインストリームな現代ジャズではなく、アメリカ・シカゴのレーベル「International Anthem」やフィンランドの「We Jazz Records」からリリースされている作品など、「ジャズの深淵」を感じるものを多く選んでいるそうだ。

看板商品の「あんトースト」とこだわりのオリジナルブレンド
メニューは、1号店と同じものを提供。看板商品の「あんトースト」は、初代マサコ時代から人気だが、moeの意向でホイップクリームを付けるようになった。アズキの優しい甘さのあんとトーストに染みたバターの塩気、そしてそこにホイップクリームを乗せれば、三位一体のおいしさだ。

また2020年に復活する際、コーヒーにもっと力を入れようと考えたという。「マサコ ブレンド」は、初台の「ジーピー コーヒーロースター(G☆P COFFEE ROASTER)」に、「ジャズ喫茶をイメージしたブレンドを作ってほしい」とリクエスト。3種類のブレンドを提案され、さらっと飲みやすいものを「ホット ブレンド」、喉にガツンとくるコクがかえって清々しい方を「アイス ブレンド」として採用した。
どちらも、2009年の旧マサコ閉店後にmoeが働いていた「但馬屋珈琲店」にならって、ネルドリップで提供する。

旧マサコにはサルがいた? 「民クル」リーダーがデザインした店舗ロゴ
看板やメニュー表に描かれた店舗のロゴは、サルをモチーフにしている。moeも現在メンバーとして名を連ねるバンド・民謡クルセイダーズのリーダーがデザインした。

なぜジャズ喫茶なのにサル?と思い尋ねてみたところ「初代のマサコ、正確には店舗の上階にあったオーナーの住居でサルを飼っていたんです。そこにあるサルの写真は初代のキューちゃん。店舗の屋根で日向ぼっこをしているところを見かけたこともあります(笑)。私が働いていたころは、ベニちゃんという2代目のサルがいました。
『山から降りてきたニホンザルを飼育環境があるなら保護してほしい』と東京都から連絡がきて、飼っていたこともありましたね。そんなマサコとも縁の深いサルを、デザインに落とし込んだんです」と教えてくれた。ジャズ喫茶にサルがいた、なんとも大らかな良き時代。きっとこれまでマサコで暮らしてきたサルたちも、守り神として見守ってくれているだろう。

誰もが通える間口の広い店舗でジャズと出合う
店内にはレコードやCDのほかに、旧マサコを踏襲して自由に読める漫画も置かれている。moe自身も高校生の頃から客として通っていた旧マサコは、漫画を読みにきたり、ただのんびりとコーヒーを飲んだりと、ジャズ好きだけでなく、幅広い世代が通う間口の広い店舗だったそうだ。だからこそ、1号店・2号店ともに、誰もが気軽に足を運んでくれるような店になってくれたら、と考えている。

きっと、そんなマサコでジャズを聴き始めたり、さまざまなカルチャーと接続したりした人もいるのだろう。1号店と同じく、穏やかでゆったりとした時間が流れる新店を、まずはぜひ訪れてみてほしい。
関連記事
『DJ・須永辰緒によるレコードバー「moderno」が駒沢大学にオープン』
『dublab.jpがロサンゼルスの山火事被害支援チャリティーアルバムをリリース』
東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら