震災から10年、現地を記録し続けた写真家が語る復興の軌跡

「なんで撮らないんだ?」被災地を撮り続ける写真家を動かした一言とは

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Time Out Tokyo Editors
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2011年3月11日、大地震と津波が東北地方の太平洋側地域を中心に襲いかかった。倒壊した建物や横たわる漁船などの恐ろしい光景を照らす「陽」を、10年前から写真に残し続けるフォトグラファーがいた。

『「陽」 HARU Light & Letters: 3.11 見ようとすれば、見えるものたち。』(草思社)
『「陽」 HARU Light & Letters: 3.11 見ようとすれば、見えるものたち。』(草思社)

被災者が投げかけた一言が撮影のきっかけに

通称「3.11」と呼ばれる東日本大震災から10年を迎える。マグニチュード9.0を記録した前代未聞の強い揺れは、波高10メートル以上、最大遡上(そじょう)高40.1メートル以上にも及ぶ大津波を引き起こし、約2万2000人もの死者と行方不明者を出した。

地震によって引き起こされたのは、福島第一原子力発電所におけるメルトダウンなど、放射性物質の放出を伴う原子力事故。被災地に限らず、今なお日本全域を脅かす問題として傷跡を残す。まだ原発周辺は一部が「帰還困難区域」に指定されており、家屋などがそのままになっている。

東京出身のフォトグラファー、平林克己が被災地を訪れたのは、震災から1カ月後の2011年4月。瓦礫(がれき)撤去のボランティアを目的に東北の地に足を踏み入れた。彼は被災地の写真を撮り始めたきっかけを次のように振り返る。

「最初、被災地の写真を撮るつもりはありませんでした。まだまだ瓦礫がたくさん残り、行方不明の方もたくさんいる中で、カメラを出して写真を撮ることがあまりに不謹慎に感じられたからです。自分がプロのカメラマンであることを知った地元の人々に『なんで撮らないんだ? 新聞とかでは伝わらないこの現状を伝えてほしい』と言ってもらえまして。東北地方の写真を撮り始めたのは、そのタイミングでした」(平林)

震災が過去の言葉になるなかで感じた「目に見えないつらさ」

復興が進むなか、平林は何度も東北地方に通いながら、被災地に昇る太陽を撮影し続けた。2012年にそれらをまとめた作品集『「陽」―HARU―』(河出書房)を発表。世界各国で20回にもわたる写真展を開催してきた。2018年には平林の写真と、コピーライター横川謙司の「言葉」によるメッセージ展『「陽」 HARU Light & Letters: 3.11 見ようとすれば、見えるものたち。展』を東北で開催した。

がれきが徐々に片付き新たな建物が生まれ、「震災」という言葉が過去のものになっていく過程の中で、平林は「目に見えないつらさ」を感じていたという。

「被災直後は、多くの人たちが『絆』という言葉のもとに集まり、この苦難を乗り切ろう、という雰囲気がありました。もちろん良い方向に進んだこともありましたが……。時間がたつにつれ『頑張ってもどうにもならないんじゃないか』という雰囲気も、周囲から感じられるようになり。なんだかネガティブな感情が広がってきたようにも思います」(平林)

そして2021年3月、平林は横川とともに作品集『「陽」 HARU Light & Letters: 3.11 見ようとすれば、見えるものたち。』を発表した。

『「陽」 HARU Light & Letters: 3.11 見ようとすれば、見えるものたち。』(草思社)
『「陽」 HARU Light & Letters: 3.11 見ようとすれば、見えるものたち。』(草思社)

今回の写真集に関して平林は、「2012年に発表した『陽―HARU―』には、震災が発生した2011年に撮った写真しか入っていませんでした。被災地での撮影自体はその後も続いていたのですが、10年という歳月は一つの節目。このタイミングで一度まとめたくなり、今回新たに作品集として発表しました」と話す。

震災から10年、陽の光は被災地を照らし続ける

この「震災から10年」という節目の年を迎え、今までの活動を総括した作品集を発表した現在、平林は被災地での「最後の1枚」を撮る瞬間をどのように考えるのだろうか。

「これは分かりません。自分の役割を考えると『最後の1枚』はもう撮り終えてるかもしれないし、自分が生きていたら50年後かもしれない。ただ、東北に通ううちに、たくさんの友人ができました。彼らとの付き合いはこれからも続くでしょうし、今では遊びにいくこともあります。そこでなんらかの記録すべき一瞬に出くわせば、もちろん写真を撮り記録すると思います」(平林)

『「陽」 HARU Light & Letters: 3.11 見ようとすれば、見えるものたち。』(草思社)
『「陽」 HARU Light & Letters: 3.11 見ようとすれば、見えるものたち。』(草思社)

写真には、人の記憶を風化させずに残し続ける装置の機能がある。平林は被災地の瓦礫や横転する漁船越しに昇る陽を撮り続けることで、東北の復興を願い続けてきた。彼が記録し続けた夜明けの光は10年という節目を越え、復興が終わる瞬間を越えてもなお、震災の脅威を伝え続ける装置となるだろう。

平林克己(ひらばやし・かつみ)

東京生まれ。1990年代からヨーロッパを中心に活動を行い、外資系商社に勤務後、2007年に写真事務所StudioKTMを設立。2011年、東日本大震災に際し、宮城県石巻市にてがれき撤去や家族写真の撮影、破れた写真の復元など、写真を通じたボランティアを行う。2012年写真集『「陽」- HARU-』(河出書房)発表。最新の作品集に『京大吉田寮』(2019年、草思社)『「陽」 HARU Light & Letters: 3.11 見ようとすれば、見えるものたち。』(2021年、草思社)がある。

平林克己(ひらばやし・かつみ)の公式ウェブサイトはこちら

テキスト:高木望

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