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コース料理に例えるセックスー「テーブルマナー」のコンドーム装着を怠るな

SEX:私の場合 #8 性教育やLGBTQ+の事情など、コンドームソムリエAiが解説

編集:
Hisato Hayashi
テキスト:
Honoka Yamasaki
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「コンドームを使わない方が気持ちいい」「膣外射精ならナシでも問題ない」など、コンドームの装着を避けるゴム嫌いは珍しくない。さらに、コンドームは避妊具として広く知られているものの、性感染症を防ぐためのものという認知は薄い。

性についての正しい知識は自分自身を守るために不可欠であり、セックスを安心して楽しむための手段でもあるのに、なぜ広く浸透していないのだろうか。考えられるいくつかの理由として、学校での性教育やメディアのあり方が挙げられるとコンドームソムリエAiは語る。

現役の保健室の先生であり、国内にある約130種以上のコンドームに詳しく、さまざまな情報を発信しているコンドームソムリエAi。コンドームを触って嗅いで引っ張れる「コンドーム試触会」を開催したり、メディアでの発信を積極的に行ったりなど、性感染症予防や性生活の向上を目指している。

国内のコンドームを知り尽くす彼女に、日本の性の課題について養護教諭の立場からも話を聞いた。

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変わらない性教育とSNSの性被害
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変わらない性教育とSNSの性被害

ー近年の性教育の変化についてどう考えていますか?

この数年で、性教育に関心を持つ人が増えたのではないでしょうか。実際に現場の教員が自発的に性教育を取り入れたり、外部講師に依頼したりするなど、意識は高まっているように感じます。

ー関心が高まっている背景は何でしょう?

主に2つの背景があると考えています。1つ目は、テレビ番組でセクハラと考えられるような演出が減るなど、時代の変化に合わせてリテラシーが高まってきていることが性への関心につながっていると考えています。

もう1つは、「性を学ばないことによる弊害」が表面化していることです。例えば、今や小学生がスマートフォンを持つ時代になっていることから、10代の性被害が年々増加しています。中高校生だけでなく、小学生も被害に遭うケースが実際にあるんですね。

スマホ・ケータイ安全教室はあるものの、年に1度講座を行うだけではカバーし切れないほど、トラブルが多発しているのが現状です。何か性にかかわる問題が起きた時にそれが異常事態だと認識できるよう、子どもたちに正しい知識を教えないことには状況は変わらないので、防犯の面からも性教育のニーズは高まっているように感じます。

ーSNSの性被害とは、具体的にどのようなものがありますか?

SNSを使う年齢層が下がっている傾向にあることから、SNSの運営側が規制をかけるなどの取り組みを行っている一方で、出会い目的のアプリも増えてきています。

例えば、近隣の学生同士が集まれるようなアプリで、そこで中学生になりすましたユーザーが女子学生と仲良くなって、下着の写真や裸の写真を要求したり場合によっては脅迫してくるケースも見られます。

ー性の関心が高まる一方、学校で行われる性教育はそれに追いついているのでしょうか?

小・中の義務教育学校の教科書の内容は、原則4年に1度しか改訂の機会が与えられません。内容を話し合って、反映して改訂して……となると、すごく時間がかかってしまうんですね。

そうした状況の中、2018(平成30)年に東京都教育委員会は「性教育の手引」を14年ぶりに改訂し、都内の全公立学校に配布しました。「性教育の手引」では、学習指導要領に示されていない内容も必要に応じて子どもたちに指導してもいいことが示されていて、現代の課題に合わせた性教育を行えるようになってきました。

道徳や総合など、学習指導要領の制限がない科目で性教育を盛り込めないかと工夫する教員がいる一方で、保護者からバッシングを受けるくらいなら、教科書の範囲を超えてまで指導しなくてもいいと考える教員もまだ少なくありません。

その理由として過去、2003年に「七生養護学校事件」という、知的障害者に向けて行われていた性教育の内容が不適切と非難を受けた事件がありました。

10年以上にわたって裁判が行われ、その後、原告側(学校・教員)の勝訴となりましたが、当時を知る教員の中には、自分の立場が危うくなるリスクを背負ってまで性教育は行いたくないと考える教員や、性教育に抵抗感を感じる大人たちも少なくなく、やはり教科書に載ることの重要性は忘れてはなりません。

ー現状の性教育について気になる点を教えてください。

例えば、義務教育課程(小・中学校)では教科書に避妊についての内容が載っていません。中学3年生の教科書の中で性感染予防のためのアイテムとしてコンドームは出てくるけど、学習指導要領に従って、妊娠の経過は取り扱わないことが決められています(*1)。これが通称「はどめ規定」と呼ばれるもので、避妊は妊娠の経過にかかわることであるため、コンドームは避妊具として紹介できないのです。

子どもたちが避妊具としてのコンドームをどこで学ぶかというと、高校2年生の「家族計画」という章があり、そこで子どもを欲しない時に使用する避妊具の一つとしてコンドームを紹介します。

小中学生には保健以外の特別科目で教えることもできなくはありませんが、教えない学校が罰せられるわけではないため、15歳までに正しく避妊具の存在そのものを学べるかどうかは、指導を積極的に行っている学校に在籍しているかどうかという、運次第になります。

ー避妊具としてのコンドームを紹介しない理由とは?

むやみに小中学生に性行為を助長してしまうという懸念や、性を淫らなものにしたくないと考える大人が多いからではないかと感じます。実際、2022年10月の衆議院文科委員会で文科相は、性教育の「はどめ規定」について「撤廃することは考えていない」と答弁している(*2)ため、しばらくは現行通り、義務教育課程において、妊娠の経過は取り扱わないのでは、と思います。

ーやはり日本の性教育はまだまだ遅れていると再認識しました。

オーストラリアの高校で先生をしている友人がいますが、そこではローションの説明までもするようです。

多様性を大事にするオーストラリアでは同性間のセックスも前提とし、「膣を使うセックスなら膣分泌液が出るけれど、アナルセックスの場合は腸の粘膜しかないので、腸壁を傷つけて出血したり痛みが伴ってしまう可能性がある。だから相手を傷つけないためにローションが必要だ」ということを授業で教員が説明するそうです。

それを性教育の先生ではなく、日本でいう学活や道徳のように担任の先生が教えていることにも驚きました。全ての教員にそれだけの知識があるということですよね。

ー日本ではローションについては扱われないですよね。

日本だとローションや潤滑ゼリーは、アダルトグッズと見なされるので、教育の中で扱うことはほぼありません。ですが、いろんなセックスのあり方を学校で教えることは、相手を大事にする教育につながると思うんですよね。

自分も相手を大事にするためのスキルは、子供たちを性の被害者にも加害者にも傍観者にもさせないために必要な学びだと思います。日本も論争するのではなく、そうした観点から逆算して今の教育に何が必要かを考え直す必要があると感じます。

(*1)文部科学省「学習指導要領『生きる力』 第2章 各教科 第7節 保健体育」

(*2)衆議院「第210回国会 文部科学委員会 第2号」

コミュニケーションの一環であるセックス
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コミュニケーションの一環であるセックス

ー連載のテーマでもある「セックス」について、Aiさんはどのように捉えていますか?

一言でいうと、「パートナーとのコミュニケーション」でしょうか。フランス料理のコースで例えると、前菜からデザートまでの構成がある中で、魚もしくは肉が選べるとなった時に、「絶対肉がいい」という人もいれば「肉は好きじゃないから魚を選ぼう」という人もいます。

セックスに置き換えると、挿入ありきだと捉える人もいるし、挿入なしの行為を楽しみたいという人もいるし、その日の気分で選びたい、という人もいる。それは男だから女だからということとは関係なく、「10人いれば10通りの理想のセックス」の構成があるということです。

ーその人の好きなコースメニューがあるということですね。

世の中にはセックスのハウツー本も出ていますが、テーブルマナーに例えれば、フォークは外側から使うなど、基本的なことを知るのには有効だけど、細かな内容まで一緒である必要はないんですよ。なのでセックスの方法をを知りたい人は、小手先の知識を増やすのではなく、相手が嫌がっていないかどうかの確認を取るとか、コンドームを着けるなど、まずは基本的なことができているかどうかを参考にすればいいと思います。

人は皆、日によって体調も異なりますし、付き合いの長さによってセックスも変わってくるので、いつも必ずフルコースのセックスばかりしているわけではないじゃないですか。毎回100点満点のセックスを目指すというより、相手とコミュニケーションをする中で、その時々のお互いにとって最適な分量のセックスを見つけてほしいです。

ー若者世代はセックスをどのように捉えていますか?

2000年代と2020年代のSNSでの出会い方の感覚は違うように感じます。2000年代はmixiが流行っていて、共通の趣味を持つ人たちがオフ会をすることは多くありましたが、比較的、相手を知るまでに段階的というか、徐々に距離を縮めていくようなイメージがありました。

ですが、2020年代のTwitterになると匿名性が高くなり、話し相手が欲しくて知り合った相手と割と早い段階で1対1で会うケースもあります。その後、性的な写真を求められたり、セックスを強要されるケースは多いです。あとは自分から「パパ活」をしている人もSNSではよく見かけますよね。

ーSNSとリアルの距離感がさらに近くなり、その結果、望まぬことが起こってしまうケースもあるということですね。

最近だと、GPSを友達同士で管理するアプリも出てきましたよね。今誰がどこにいるというのを常に把握し合っていて、人との距離感がデジタル的に近くなりすぎている気がします。常に誰かに見られ、常に他者の目を意識しなければならない状況で、表層的に生きて疲弊している若者は多いように感じます。

また、常に自己顕示欲があおられやすい環境にいることで、女の子にとって承認欲求を満たすアイテムとしてお金や男性が存在していたり、そうした男性とセックスをしてしまったりするケースが増えているように感じます。

ーそうした状況では、先ほど言っていたような「コミュニケーションとしてのセックス」は実感しづらいのでは?

そうですね。むしろ「お金をもらわないセックスは無駄」という発想になりかねません。十分な性教育が行われない中、自己顕示欲のためにセックスした数を自慢してマウントを取ったり、お金と引き換えのセックスをしたりする人は多くいますが、セックスがコミュニケーションの延長線上にあることもちゃんと知ってほしいと思います。

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クィアのコンドーム事情は?
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クィアのコンドーム事情は?

ーここからはクィア(*3)のセックスについて聞きたいのですが、ゲイコミュニティに向けた活動も行っていると聞きました。

新宿二丁目にある、HIVをはじめとするセクシュアルヘルスに関する情報発信や予防啓発を行う団体、aktaさんと一緒に、二丁目に100店舗以上あるバーやクラブをざっくり4ブロックに分けて、週に1回コンドームアウトリーチ(コンドームの補充)に行っていました。

ー異性間でコンドームを着けないと妊娠のリスクが高まるとはよく言われていますが、同性間でもコンドームを着けた方がいいのでしょうか?

私は「男性側・女性側」ではなく、コンドームを「装着する側・受け入れる側」という表現をよく使っています。異性間のセックスで、女性が男性にコンドームを着けるように伝えるのはハードルが高いという話はありますが、ゲイの方も同じように伝えづらさがあると聞きました。

「コンドームの装着を相手に促すことは、相手に性病があると言ってるのと同じだと思われ、避妊具として使って欲しいというよりも言い出しづらい」というのです。

コンドームって男女だけでなく、セックスする人たちが当たり前に使うものであるべきですよね。どちらか一方だけが買うのではなく、お互いがマナーアイテムとして持っておくことが大事なのかなと思います。

ー女性の同性間に向けたコンドームもありますか?

女性同士も同様に妊娠の可能性がなくても、性感染症のリスクはゼロではありません。「デンタルダム」という性感染症予防のラテックスシートは使ってもいいのかなと。ただ、取り扱っている店舗は少ないので、レズビアンの友人はコンドームを縦に切って開き、一枚の紙のようにして使っていると言ってました。

(*3)本記事で使う「クィア」とは、LGBTQ+を含む全てのセクシュアルマイノリティーを指す

性に関する知識をアップデートしていない層に向けての発信
Photo: Kisa Toyoshima

性に関する知識をアップデートしていない層に向けての発信

ー今後、より多くの人に性教育に対して関心を持ってもらうため、できることとは?

生徒たちにとって、普段接している教員とは違う人から教育を受けることは、有効なアクションだと思います。

過去には東京弁護士会の方に出前授業を依頼し、いじめ防止教育やLGBTQ+教育を行っていただきました。 バッジ(弁護士記章)がついている人から「それはハラスメントですよ」「それは人権侵害です」とズバッと言ってもらえると、教員が伝えるよりも生徒たちに響くし、それを聞いている教員の知識のアップデートにもつながるので、とてもいい機会だと感じました。

特別授業となると、大体200人くらいの生徒が体育館に集まって授業を受けるので、なかなか注意深く聞くことは難しいと思います。東京弁護士会の出前授業では、同じ授業を普通の授業と同じように各教室でやってくれたので、生徒もしっかりと話を聞いていましたね。

ー授業内容を用意して提供してくれるのはいいですね。

教員の仕事って基本的に忙しいので、ゼロから授業内容を作り上げようと奮闘するより、アウトソーシング先を見つけて、後はそこにつなげるだけ、という委託先を見つけられれば、負担も減るのかなと。本来は教育委員会の仕事だと思うのですが……。

今後は教育委員会主導で、どの学校にも良いコンテンツが継続的に提供されることを願っています。

ー世代が上がれば上がるほど知識をアップデートすることが難しいと思うのですが、大人たちが関心を持つためにできることはありますか?

本来、最もアップデートしなければいけない人たちって、「人に意見されたくない層」なんですね。なので直接的にではなく、伝えたいことをうまくほかのものに刷り込ませて話題にするように意識しています。

例えば、子ども向けにコンテンツを発信する中でジェンダーバイアスなどを取り上げ、普段先生たちが言いそうなことをあえて誤っている例のひとつとして挙げます。そうすることで、自分たちが名指しで注意されているわけではないけど、当てはまってるから気をつけようと、意識が自分に向く人が増えるのではと考えています。

ー教員の時とコンドームソムリエAiとして発信している時の立ち位置の違いはありますか?

コンドームソムリエAiとして活動する時は、幅広く発信できるのですが、教員の立場から子どもたちにどう接するべきかについては、いまだに悩んでいます。

子どもたちに「先生は何歳の時にセックスしたの?」と聞かれることがあるのですが、そもそもプライベートな話は無闇に聞くものでもないということも伝える必要がある上で、誰も教えてくれないからこそ気になるし、人と比較して悩んでしまう子も多いんですよね。

とはいえ、正直に答えることによってそれ(早い遅い)が子どもたちのひとつの基準になるのも違うかなと思いますし、子どもたちは大人の一言で影響を受けてしまうこともあるので、私が話すことが全て正しいと思ってほしくないし、ひけらかすように伝わってしまうのも嫌だなと。

とはいえ、自分の経験したことを足して話すのが教員の役割であるとも考えているので、難しいですね。子どもの年齢層が上がるほど受け答えには悩みます。

結婚までにセックスはしないと考える人がいるのもそれはそれでいいと思いますし。子どもたちの意識や考え方を尊重した上で、どうやって自分の思いを伝えたらいいか、ずっと考えてますね。

ー今後、どのように発信していきたいですか?

私は一教員にしか過ぎませんし、性教育の専門家はほかにたくさんいます。一方で、性教育に対するハードルが高く感じてしまう人、必要な性に関する正しい情報になかなかたどり着けずにいる人もまだまだいると思うので、私の発信が性の話題に触れるきっかけになったらうれしいです。

私のSNSをフォローしてくれている人は、年齢層は10代から60代までと幅広く、学生だけでなく、同じ教員仲間やエロアカウントなど、さまざまなジャンルの人たちがいるんですね。性は真面目なものでもどエロいものでもあると思うけど、それぞれの境界ってグラデーションのように存在しているものです。

「コンドームを調べていくうちに自然と性に関する知識が得られた」「性を前向きに捉えられるようになった」、そんな入口のような存在になりたいなと思います。

Contributor

もっと性教育について学びたいなら......
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セイシル
セルフプレジャーグッズでおなじみのTENGAが運営する、中学生、高校生のための性教育サイト

Pilcon
恋愛や性について悩んだりきちんと学びたいと思ったらまずこのサイトを。性教育動画がわかりやすくさまざまな層におすすめ。

Sowledge
性について親しみやすく。性教育トイレットペーパーを作るSowledge(ソウレッジ)の公式オンラインサイト。

シオリーヌ@性教育YouTuber助産師という経験を活かし、性の話の学び方・伝え方を発信する性教育ユーチューバー。性を学ぶオンラインサロンも運営する。

一般社団法人 Spring
性暴力被害の当事者が生きやすい社会の実現を目指す当事者のための団体。

命育
親目線の悩みに沿った、ママクリエイターによる性教育サイト。

「コミュニティセンターakta」新宿2丁目にある、HIV/エイズをはじめとしたセクシャルヘルスの情報センター兼オープンスペース。

しょご先生@性教育YouTuber
オーストラリアで高校教師をしながら、YouTubeを通じて性教育を発信。「日本一わかりやすい性教育のしょご先生」。

もっと知りたいなら……

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北欧スウェーデンから世界16カ国語に翻訳され、10年以上多くの人々に親しまれている性教育の本『RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて』。

翻訳者は、スウェーデン人の夫と同性結婚し、ブログ『ふたりぱぱ』で代理母出産から男児を授かった経緯や海外のLGBTQ+の情報を翻訳、発信するみっつんだ。

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「コンドームなんてどれも同じでしょ?」

そう思っている人がいたら、ちょっと立ち止まってほしい。コンドームは日本国内ではもっともポピュラーな避妊具であり、同時に性感染症予防具としてもセーファーセックスにおける必需品である。

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セックスポジティブな文化が浸透する今、カップルと大人の遊びを楽しみたいという人や、自分の性癖や性的嗜好(しこう)をもっと開発してみたいという人が増えてきている。これを受けて、近年需要が増えているのが「セックストイ」だ。

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