東北アップデート:アートの変化

東北アップデート:アートが進める変化

新進のアートフェスティバルは、復興のシンボルになりうるか

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Time Out Tokyo Editors
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Text by Nick Narigon

宮島達男にとって、その日は人生でもっとも長い4日間だった。東北芸術工科大学の副学長だった宮島は、地震と津波が東日本を襲った2011年3月11日の震災当日は関東にいた。山形キャンパスへと戻り、学生たちの無事を確認するのに、4日を要した。

日本でもっとも著名な現代芸術家のひとりである宮島は、東北へ着くとすぐに行動を起こした。近くの石巻市で津波の被害に遭った家々から、泥土をかき出す作業に取りかかったのだ。緊急を要する仕事が一段落したところで、60歳の宮島は、東北の復興のために自らの能力をどのようにいかせるだろうかと考え始めた。

「私は常々、芸術家として東北地方に何らかの貢献をしたいと考えてきました」と宮島は言う。「人々を勇気づけ、また癒やせるようなアートワークを制作しようと思うようになりました」。そう考えていたのは宮島だけではなかった。かくして復興を支援する芸術祭『リボーンアートフェスティバル』が生まれた。

2017年7月22日(土)から2017年9月10日(日)までの51日間にわたって開催される同フェスティバルには、約20万人の参加が予想されている。開催地の牡鹿半島は、震源地にもっとも近い景勝地だ。フェスティバルでは、宮島を含む世界トップクラスのアーティストの作品が、国内トップクラスのシェフや地元の職人らの作品とともに展示され、すべてに日本を代表するバンドが演奏するサウンドトラックが付く。

「このフェスティバルには様々な要素が詰まっています」と広報担当者は語る。「ここで暮らす人々を励ますと同時に、経済効果ももたらしたいと考えています。被害は甚大でしたが、地域の復興をアートと音楽の力を通じて支援できるのではないかと考えています」と続けた。「地元の方々からは、とにかく多くの人々に東北へ来てほしいという、生の声を聞くことができました」。

『リボーンアートフェスティバル』は、東北で芸術祭を開催すれば、長期にわたり良い影響を地域にもたらすだろうという、明治大学の特任教授の中沢新一の構想を下敷きにしている。

中沢は、フェスティバル開催の目的は、テクノロジーや経済、環境といった様々な側面から、東北の人々の生活を変えていくことにあるという。「東北は『元の状態に戻るという意味での』復興をするべきではなく、何か新しいものを生み出すために前進しなければなりません」。「フェスティバルは、東北がその潜在能力に目覚め、一歩前進する手助けとなることを目指しています」と力を込めて語った。

『リボーンアートフェスティバル』は、音楽プロデューサーで社会活動家の小林武史がいなければ実現していなかっただろう。小林は日本の人気ポップロックバンドのMr. Childrenの元プロデューサーとして知られる。2003年、小林はMr.Childrenはじめ複数のアーティストとともに、環境保全に取り組む団体に融資を行うAPバンクの設立資金を提供した。

APバンクは、津波で地盤が1.2メートルも沈下してしまった石巻での慈善復興事業に既に着手していた。同組織の活動が中沢の構想と合わさるのは、必然と言っても良いできごとだった。これらの人のつながりの総仕上げとして、Mr.Childrenの桜井和寿をボーカルに起用する小林のBank Bandが、同フェスティバルの主役を務める。

今回のイベントは今回のイベントは石巻市を中心に、周辺の地域で開催される。なかには高さ15メートルの津波で建物の70パーセントが倒壊した、女川の漁港も含まれている。

宮島は地域の人々の密接なつながりを、潮の干満を表現したインスタレーション『時の海』で表現しようと考えている。震災で被害を受けた東北の芸術家らの力も借りた同作は、プールの底に設置した複数のLEDライトで数字を表示し、9から1までカウントダウンを行うというものだ。

「東北の人々は常に海と共に生活してきました。海によってすべてを奪われるようなことがあっても、海を恨んだりはしませんでした」と宮島は語る。「私たちは、東北の方々の未来を作るお手伝いがしたいのです」と宮島は話した。

リボーンアートフェスティバル』は2017年7月22日(土)より石巻市と周辺地域にて開催

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